記者会見で国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を発表する菅義偉官房長官=首相官邸で2018年12月26日、川田雅浩撮影
山田道子 毎日新聞 紙面審査委員
全国の新聞社と通信社で働く人の約8割が入っている日本新聞労働組合連合(新聞労連)という団体が5日、総理大臣官邸の質問制限に抗議しました。
どういうこと? 官邸では午前午後の2回、菅義偉官房長官が記者会見をします。昨年12月の会見で東京新聞の記者が沖縄県にあるアメリカ軍普天間飛行場の移設工事を巡り「海に土砂を投入した現場では赤土が広がっている。どう対処するか」と質問しました。記者は政権に厳しい質問をすることで有名です。官邸側は「赤土による汚濁が広がっているかのような表現は適切ではない」「事実を踏まえた質問をしてほしい」と官邸の記者クラブに求めました。これに対し、新聞労連は「赤土の広がりは現場を見れば明白」と事実に誤りはないと指摘。「官邸の意に沿わない記者を排除するような申し入れは容認できない」と抗議したのです。
この問題は12日の国会でも取り上げられました。菅氏は会見の動画が国内外に配信され、「事実に基づかない質問で、誤った事実認識が拡散される恐れがある」と説明しました。でも、菅氏が事実誤認と言うのなら、会見で根拠を示して説明するのが一番の策ではないでしょうか。
専修大学の山田健太教授(言論法)は、官邸側の記者クラブへの申し入れについてこんな厳しい見方をしています(朝日新聞7日朝刊)。「事実上の取材妨害。国民の知る権利を阻害する行為でもある」「記者クラブに申し入れをすることで、報道界全体も締め付けるとともに、間接的に政権への忠誠を尽くすよう求めている」
会見は記者が質問して政府の考えを引き出す場。それを報じて皆さんの知る権利に応えます。ひとごとではありませんね。同時に、メディアは皆さんの知る権利に応えるため、政権が隠したいと考えていることを引き出す質問をしなければならないと思いました。
政治部、夕刊編集部で政治を長く取材。週刊誌「サンデー毎日」の編集長を務めた。新聞の外から新聞を見る経験をして、メディアに関心を持つようになった。1961年東京都生まれ。