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アイヌ語のイランカラプテ(こんにちは)には「あなたの心にそっと触れさせていただきます」という美しい意味がある。そういう説明を聞いたことがあるかもしれないが、言語学的には正確でないようだ▲アイヌ初の国会議員だった萱野(かやの)茂氏が自ら編んだ辞典で示した独自の解釈を、政府や北海道が2020年東京五輪の宣伝に、事情を承知で広めているらしい。開会式では多文化共生の象徴として、アイヌ民族舞踊の披露が計画されている▲萱野氏は1997年のアイヌ文化振興法制定後、政界を退いた。狩猟民族の子らしく「人は足元が暗くなる前に故郷へ帰るものだ」と言い残した。明治の開拓政策で悪名高い北海道旧土人保護法は廃止されたが、奪われた土地や漁業・狩猟の権利は戻らなかった▲国会が「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」を行ったのは08年。日本も賛成した「先住民族の権利に関する国連宣言」を受け、「法的には等しく国民でありながらも差別され」た歴史に向き合うよう政府に求めた▲15日閣議決定されたアイヌ支援法案は、初めて法律に「先住民族」と明記する。だが、柱はアイヌ文化事業・観光向けの自治体交付金だ。文化を担うための生活改善を求めた人々は落胆を隠さない▲来年は北海道白老(しらおい)町にアイヌ文化を体感する新国立施設もできる。五輪に向け民族文化活用の準備は着々と進む。その足元でアイヌの人々の生活保護受給率が居住市町村の平均を上回るという現実は変わらない。