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本村凌二・評 『静寂と沈黙の歴史 ルネサンスから現代まで』=アラン・コルバン著、小倉孝誠・中川真知子・訳

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 (藤原書店・2808円)

人間の感性の軌跡をたどる

 誰でも自宅に個室をもちたがる。それは自然の願望だと思えるが、実のところ、個室への欲求は19世紀になってからにすぎないらしい。そこには、自分だけの空間、秘密の殻、静寂の場がある。「横暴な人間の顔は消え、私はもう自分に苦しむほか苦しまない。(…) 誰にも満足せず、自分に満足せず、静寂と夜の孤独のうちで、私は立ち直り、少しはうぬぼれてみたい」(ボードレール)という自分がいる。

 だが、自然の静寂がありふれている森林のような場所であれば、鳥や蛙(かえる)から葉っぱにいたるまでがかすかな音をつくりだす。静寂はいたるところにあるから、わざわざ探す意味がない。『森の生活』の思想家ソローは「音は静寂とほとんど同じである」と感じ、「静寂のみが聞くに値する」と結論づける。さらに、「砂漠には整然とした家のような深い静寂が君臨する」(サン=テグジュペリ)という。

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