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堀江敏幸・評 『武蔵野をよむ』=赤坂憲雄・著

 (岩波新書・886円)

 渋谷区宇田川町にある放送局の建物の南側に、国木田独歩住居跡と書かれた木の標柱が立っている。独歩は明治二九年の九月から翌年四月にかけて小屋のような家に住み、周辺を散策しながら日記をつけ、思索を深め、のちに両者を融合させて、「武蔵野」という散文を含む同題作品集を刊行した。明治三四年のことである。当時の渋谷村周辺は、現在からは想像もつかない、落葉樹の林と畑に覆われた武蔵野の一部だった。「生活と自然とが密接にからみ合う」都会の縁にひろがる詩趣を、独歩は散策という行為によって見出(みいだ)していったのである。

 しかしそれは真新しいなにかを発見したというより、更新され、消えていくものに対する眼差(まなざ)しの推移であり、挽歌(ばんか)に近いものだったかもしれない。事実、単行本に先立つ雑誌『国民之友』の初出時(明治三一年)のタイトルは「今の武蔵野」となっていた。独歩の散策は、時代と空間、さらに季節を限定した現在の旅だったが、それは昔の武蔵野へのまなざしの継承なのか断絶なのか。

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