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火論

社会部、ワシントン・エルサレム特派員などを歴任した大治朋子専門記者によるコラム。

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お見通しの時代=玉木研二

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 昭和の初めごろである。正月の深夜、川端康成の自宅に泥棒が忍び込んだ。

 若き新進作家は寝床で足音に気づき、息をこらした。泥棒は物色し、枕元に近づこうとして無言の川端がギョロリと見開いた目と目が合った。「だめですか」。泥棒はそう言うなり、逃走した。

 後年に作家・吉行淳之介は<「だめですか」と言った泥棒の気持が、分るような気がする>と「川端康成論断片」に書いている。川端の大きな目には射すくめるような内面の力があったのだろう。

 今は街角に施設に何もかも見通すようなレンズが光る。川端家の泥棒を追い払った眼光を、防犯ビデオカメラや人工知能(AI)が宿す。事件対策だけではない。

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