安倍晋三首相や首相官邸への忖度が指摘された事案
衆院予算委員会で毎月勤労統計に関し厚生労働省担当者との面会について答弁する財務省関税局長の中江元哉元首相秘書官(手前左)。右端は安倍晋三首相、左から2人目は根本匠厚労相=国会内で2019年2月20日午後1時13分、川田雅浩撮影

 厚生労働省が2015年に設置し、「毎月勤労統計」の調査対象を全部入れ替えするか、部分入れ替えにするかを議論した有識者検討会が結論を出していない中で、厚労省の担当者が検討会の座長に「委員以外の関係者の意見」として「部分入れ替えの検討」を求めるメールを送っていた。「関係者」が当時の中江元哉首相秘書官(現在は財務省関税局長)だった可能性が浮上したことで、厚労省が賃金の下振れ回避を期待する官邸の意向を忖度(そんたく)した疑いが色濃くなってきた。

 この検討会は「毎月勤労統計の改善に関する検討会」で、15年6~9月に計6回開催された。調査対象の従業員30~499人の事業所の入れ替え方式について、2~3年ごとに全部入れ替えをする従来方式を続けるか、毎年一部を入れ替える方式に変更すべきかなどについて議論された。8月7日の第5回検討会で座長を務めた阿部正浩中央大教授が全部入れ替えを適当とする素案を示したものの、第6回会合(9月16日)の2日前の9月14日に厚労省担当者から阿部教授にメールが送られていた。

 第6回会合は阿部教授が体調不良で欠席する中で開催された。ここで示された「中間的整理」では両方式について「引き続き検討する」と方向性が変わり、厚労省の姉崎猛統計情報部長(当時)は「部分入れ替え方式を検討したい」と結論ありきのような発言もしていた。20日の衆院予算委で立憲民主党の長妻昭代表代行はこの変化について「通常ないことが起こった」と厚労省の忖度を指摘した。

 阿部教授はこうした経緯について毎日新聞の取材に「メールを圧力とは感じなかった」と振り返った。メールにあった「関係者」が中江氏の可能性が高いことについては「そんなことまで(首相秘書官が)口を出すのか」との感想を口にした上で「統計の精度を上げる上では一部入れ替えの方が望ましい。全部入れ替えを素案で示したのは、(調査の実務を担う地方の)調査コストなどを勘案しての結果だった」と語った。

 検討会の複数の委員も毎日新聞の取材に「検討会では一部入れ替えの妥当性を指摘した」と話す。ある委員は「統計の精度を考えれば総入れ替えこそ問題だったが、厚労省はむしろ一部入れ替えに否定的だった。それだけに最終的に一部入れ替えが採用された時はちょっと驚きでもあった」と話した。

 12年末に発足した第2次安倍政権では官僚による「過度な忖度」がたびたび指摘されてきた。代表例が学校法人「森友学園」への国有地売却に関する財務省の決裁文書改ざん問題と、学校法人加計学園の獣医学部新設問題だ。

 

 過度な忖度が起きる背景として指摘されるのが、各省庁の幹部人事を一元管理する内閣人事局が14年に創設されたことだ。政治主導の政策決定がしやすくなった半面、官邸の意向に反した幹部が冷遇されるケースも指摘されている。逆に森友問題で結果的に首相を守る国会答弁を繰り返した佐川宣寿財務省理財局長(当時)は国税庁長官に昇進した。【神足俊輔、大久保昂、朝日弘行】