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「今日もおいしそうやわ!」「ひさしぶり! 最近、来てなかったから心配してたのよ!」。大阪市住吉区の杉本町駅から徒歩5分。とあるマンションの一室に週3回、ランチを350円で提供する食堂「杉本町みんな食堂」がある。近年、各地に増えている「こども食堂」ではなく、高齢者もこどもも食べに来ることができる「みんな食堂」。高齢化が進み、空き部屋が増えてきたマンションの一室が、地域住民の交流の場と大変身し、人気を集めている。
この場所に注目が集まる理由の一つに、ランチの調理と接客を地域の福祉施設に通う障がい者が担当しているということがある。そして、幸せなことに、食堂に足を運ぶお客さんの多くが、障がいのある人たちに「人生の恩返し」として、積極的に関わっているという点も特徴的だ。一部の住民は空き時間に、障がい者に特技の習字や絵画を教えている。双方の助け合いのバランスがちょうどいい。
食堂を活気づけるために奔走するのは、府住宅供給公社の豊嶋洋子さん(30)。高度成長期に府内に多くの団地をつくってきた公社は、少子高齢化の時代を迎える中で、住宅に住む人たちに対して、暮らしの豊かさを感じられるさまざまな取り組みを提案しはじめている。例えば、団地内の2部屋をつなげ、プロがオシャレにリノベーションした「ニコイチ」(泉北と寝屋川)。泉北ニュータウンの茶山台に、昨年11月にスタートした空き部屋を活用したイートイン総菜屋「やまわけキッチン」(地域NPOと連携)。2月からは、プロによる住まいの相談やDIY(手作り改装)を学べる「DIYのいえ」(地元工務店と連携)など。幅広い取り組みに関わっている豊嶋さんだが、当初、地域コミュニティーにはあまり高い関心を持っていなかったのだという。
「大学までは学校というコミュニティーがあったり、一人暮らしをしても横のつながりが必要なかったり。最初は、地域とどう関わっていいのかがわかりませんでした。でも、実際にはそれぞれの地域で人と人とのつながりが、しっかりと生まれている。そのことを肌で感じられたことが、とても新鮮でした」
入社後は住宅管理課に配属され、住民の防災意識を高めるための活動に取り組んでいた。新たに異動をした団地再生グループでは、高齢化が進む団地の住民同士のつながりを応援するようになった。
杉本町みんな食堂には、いろいろな人が集まってくる。高齢者、子育てママ、福祉を学ぶ大学生、障がい者福祉の支援員たち。これからは、もっと広く地域に開いていく準備を進めているそうだ。「多世代の人と関わるなかで、自分自身の世界が広がっていることも感じています」。仕事だけど、仕事を飛び越えた思い。彼女の成長は、間違いなく団地の未来づくりの一翼を担っている。=次回は4月26日掲載予定
■人物略歴
なかがわ・はるか
1978年、兵庫県伊丹市生まれ。NPO法人チュラキューブ代表理事。情報誌編集の経験を生かし「編集」の発想で社会課題の解決策を探る「イシューキュレーター」と名乗る。福祉から、農業、漁業、伝統産業の支援など活動の幅を広げている。