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加藤陽子・評 『帝国航路を往く イギリス植民地と近代日本』=木畑洋一・著

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 ◆『帝国航路(エンパイアルート)を往く イギリス植民地と近代日本』

 (岩波書店・2592円)

制約を課すことで見える新たな世界

 今や多くの人が飛行機で空を飛び、大量の情報も電脳空間を瞬時に駆け巡る。だがそれ以前、人と物は遠距離ならば海で運ばれていた。

 三好達治でピンとこない方も、「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。/次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。」の詩人と言えば伝わるか。その三好の詩「郷愁」はこの上なく魅力的に海をとらえている。「海よ、僕らの使う文字では、お前の中に母がいる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。」と。海という字の旁(つくり)に母を見つけた詩人は、フランス語の母(m〓re)が海(mer)を含むとの機知に誘う。

 母と海。そこから人が生まれ、ときには還ってゆくところ。豊穣(ほうじょう)のイメージで語られるもの。だが、本書の描く1860年代から1950年代の海と航路は、母というより父と呼ぶのがふさわしい空間だったようだ。エンパイアルートとルビをふられた帝国航路とは、その卓越した海軍力によって、世界の海洋秩序をつくったイギリスが君臨する場であった。本国と植民地をつなぐこの航路は、横浜・神戸から出港した場合、上…

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