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社説

ドナルド・キーンさん死去 日本に注いだ無限の愛情

 学術的に大きな足跡は、日本人と日本文化への深い愛があればこそだったのだろう。

     日本文学研究者で、古典から現代まで多くの日本文学を翻訳し、広く世界に紹介したドナルド・キーンさんが、96歳で亡くなった。

     米国生まれだが、東日本大震災後の2012年、日本国籍を取得した。震災で多くの外国人が日本を離れることを残念に思い、「大好きな日本に住み続けたい」というのが理由だった。多くの被災者を勇気づけたに違いない。

     「自ら選んだ母国で幸せな最後の時を迎えました」という養子のキーン誠己(せいき)さんの言葉が胸にしみる。

     日本文学との出合いは、日米開戦前夜の1940年に手にした「源氏物語」の英訳本だ。暗い世相にあって、「美」に彩られた世界観にみせられた。

     一方で、海軍で日本語の専門将校として従軍し、戦場を体験した。戦死した日本兵の日記を解読し、家族への思いや苦悩に触れた。

     キーンさんが戦後、草分けとなる日本研究の道を選び、日本文学を世界とつなげる懸け橋となったのは、そんな出合いがあったからだろう。日本が国際社会へ復帰するため、相互理解を深める手助けになった功績は計り知れない。

     また、高見順、伊藤整ら著名な作家の戦中日記を「時代の一級資料」として論じる09年出版の著書「日本人の戦争」も戦争体験なくしては生まれなかっただろう。過酷な戦場の体験から、近年の日本国憲法改正への動きに警鐘を鳴らしていた。

     古今の文学を通して日本人を考察する傍ら、劇場に通い、狂言を習った。能狂言や文楽、歌舞伎といった伝統芸能への造詣も深かった。

     それだけに、日本社会の中で伝統芸能の存在感が薄れていく現状を憂えていた。

     12年に当時の橋下徹・大阪市長が文楽協会への補助金凍結の方針を示した際には、憂慮を表明した。日本の教育で古典文学が軽視されているとの指摘も無視できない。

     アニメや漫画といったポップカルチャーだけでなく、日本が海外に誇れる文化はまだまだある。キーンさんが残した思いを、しっかり受け止めたい。

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