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麗しの島から

台湾で続く「韓流」ブーム 高雄市長、市民の心つかむ

合同インタビューに出席した記者一人一人と笑顔で握手する韓氏(右から2人目)=高雄市の高雄市立図書館で2019年2月22日午後0時6分、福岡静哉撮影

 台湾の最大野党・国民党に所属する韓国瑜・高雄市長(61)は今、台湾で最も人気があると言われる政治家だ。昨年11月の高雄市長選で「韓流」と呼ばれる爆発的なブームを巻き起こし、民進党の強固な地盤である同市で大金星をあげた。人気は昨年12月の市長就任後も衰えていない。2020年1月に予定される総統選に関する2月の各種世論調査で韓氏は、現時点で出馬を否定しているにもかかわらず、蔡英文総統(62)=民進党=や国民党の有力政治家らを差し置いてトップに立った。その韓氏が2月22日、台湾駐在海外メディアの合同インタビューに応じた。人なつっこい笑顔を振りまく一方で、対中国政策では慎重なもの言いに終始した。

「旧来型の政治家に民衆は飽きた」

 「皆さん、こんにちは!」。会場に指定された高雄市立図書館の一室に現れた韓氏は、笑顔を振りまき、出席者一人一人と握手を交わした。この日もトレードマークである青色のワイシャツ姿。とにかく元気で明るい。私も握手し、自己紹介した。韓氏は私をじっと見て「君は台湾人か?」。日本人だと言うと「台湾人かと思ったぞ。中国語、うまいなあ!」。私が台湾人のように中国語を話せるわけではないから、お世辞だろう。人心掌握術にたけた人のようだ。

 高雄市長職は民進党が20年にわたり守ってきたポストだ。同市出身でない韓氏は昨年11月の市長選で、当初は泡沫(ほうまつ)候補扱いだった。だが庶民受けする語り口と、髪がほぼない頭を自虐ネタにした絶妙の掛け合いがお茶の間に受けて爆発的な人気を博し、「韓流」ブームを巻き起こした。経済問題に的を絞って「高雄を台湾一金持ちの街にする」と夢を語り、市民の心をつかんだ。

合同インタビューで熱弁を振るう韓氏=高雄市の高雄市立図書館で2019年2月22日午後1時8分、福岡静哉撮影

 合同インタビューで人気の理由を問われた韓氏は、台湾名物の「油条」(細長い揚げパン)を引き合いにこう切り出した。「揚げてから7、8日放っておいた油条を食べるかい? 形式張った旧来型の政治家に、民衆は飽き飽きして愛想を尽かしているんだよ」。さらに熱を込めてまくしたてた。

 「伝統的な政治家が強くて豊かで安定した社会を築けていたら、民衆の考えは違っていただろう。でも、民衆は光輝く明るい未来を感じられないんだ。なぜ韓流ブームが起きたのか。それは辛酸をなめてきた民衆の心を私が代弁して訴えたからだ」

 台湾経済は停滞している。給料は上がらず、若者の失業率は高止まりしたままだ。韓氏は「台湾だけでない。日本、欧州、米国など多くの国で、同じような現象が起きている」と言う。確かに米国ではトランプ氏が大統領になり、欧州では極右政党が躍進しているようにポピュリズム(大衆迎合主義)的な政治家が目立っている。日本でも一時期、橋下徹・前大阪市長がブームを起こした。

対中国政策では歯切れ悪く

 インタビューでは、対中国政策についての質問が多く出た。

 中国の習近平国家主席は1月2日の演説で、「1国2制度」の導入による台湾統一を目指す強い意向を示した。韓氏は「大多数の台湾の民衆は、香港やマカオのような『1国2制度』は受け入れられないと考えている。民主と自由を追求する民衆の決意は疑うべくもない」と述べた。中台統一への賛否について問われると「現在の大多数の民衆は恐れ、拒絶している。こういう時に『統一』を主張すれば、どんな政治家も民意に反することになる」と述べた。

 いずれも自分の考えではなく「民意」を説明しているだけだ。「『統一』についての個人的な考えは」との質問にも「台湾も中国大陸も日本も皆が喜び、皆が大もうけする。これが大切だ」などと答えるだけで、賛否は明らかにしなかった。

 韓氏のこうした歯切れの悪さは、中国との良好な関係を目指す国民党の立場の難しさを示している。

 国民党の馬英九政権(08~16年)は中国と政治、経済、観光などの交流を急速に拡大させた。台湾は中国経済への依存度が依然として高く、対中関係改善によって中国からの観光客が急増するなど経済へのプラス効果をアピールできた。だが対中融和路線の進展にともなって、中国にのみ込まれることへの懸念が世論に強まった。14年には若者らが対中依存を強める馬政権の経済政策への反発を示すため立法院(国会)を占拠する「ヒマワリ学生運動」が起きた。馬政権下で台湾世論はむしろ「反中」に揺れ、16年に独立志向がある民進党・蔡政権への政権交代が起こった。

 中国は、中国と台湾が1992年に「一つの中国」の原則で合意したとされる「92年コンセンサス」を認めない蔡政権に対して圧力を強めた。中台関係は急速に悪化し、内政の混乱もあって当初は約70%あった蔡氏の支持率は30%台に低迷している。昨年11月の統一地方選は、韓流ブームで勢いを増した国民党が大勝した。

 それでも世論の対中警戒感は依然として強い。韓氏の立場としては、1国2制度や中台統一を正面から拒否すると中国との関係に支障が生じる。だが前向きなことを少しでも言うと、有権者の強い反発を招く恐れがある。国民党の政治家は、統一を求める中国と、これを拒否する多くの有権者の間で板挟みになりがちだ。

総統選の世論調査でトップ

 台湾の大手紙「蘋果日報」が2月20日付朝刊で掲載した世論調査結果が、台湾政界に波紋を広げた。総統選で、韓氏、人気が高い柯文哲・台北市長(59)=無所属、蔡氏が対決した場合、それぞれの支持率は韓氏35.1%、柯氏28.6%、蔡氏22.0%となったのだ。蔡氏の苦戦はこれまでの他の世論調査からも予想されてきた。驚きだったのは、韓氏が、高い人気を誇る柯氏を上回ったことだ。

高雄市長選の選挙期間中、韓氏の集会には大勢の市民が押し寄せ、異様な熱気に包まれた=高雄市で2018年11月17日午後7時39分、福岡静哉撮影

 国民党では朱立倫・元党主席(57)や王金平・前立法院長(77)も出馬に意欲を示しているが、2人とも柯氏との対決では及ばなかった。大手テレビ局「TVBS」が21日に発表した世論調査も同様の結果が出た。柯氏はまだ出馬に関して態度を明らかにしていない。台湾メディアでは「柯氏が出れば、国民党で互角に戦えるのは韓氏だけだ」との声も出始めた。台湾では今、柯氏、韓氏の動向が最も大きな注目を集めている。

 海外メディアの合同インタビューは、世論調査結果が出た2日後だった。韓氏は冒頭、「総統選については質問しないでね」と笑顔で前置きした。それでも出馬について問われると「私には高雄市民の生活を改善し、経済を活性化させ、教育を充実させる責任がある。だから私は今、20年(総統選)について何も語らない」と述べた。「今」との表現が気になる。近い将来、変わる可能性もあるようにも聞こえる。

 一方で、「韓流」ブームを改めて持ち出して「ブームが起きた理由は、私が民衆を助けるという点を第一に据えたからだ」と述べた。柯氏、蔡氏、朱氏、王氏の名を挙げて「民衆の苦しみを一番大切に考えれば、柯流、蔡流、朱流、王流のブームが起きるだろう」。自身の手法を実践すれば総統選に勝てる可能性があると言っているように聞こえる。総統選へのひそかな野心はあると私は感じた。

 高雄市長選に初当選したばかりであることなど従来の常識で考えると、韓氏の総統選出馬は考えづらい。TVBSの世論調査では高雄市民の56%が韓氏の総統選出馬に反対と答えた。だが台湾の民意の変化は極めて早い。

 国民党は6月ごろに党公認候補を選出する予定だ。公認候補の支持率が低ければ、党内で候補者を韓氏に変更するよう求める声が高まる可能性もある。台湾の政局の変化は日本以上にめまぐるしい。投開票の当日まで、何が起きるか分からない怖さがある。【福岡静哉】

福岡静哉

台北特派員。1978年和歌山県生まれ。2001年入社。久留米支局、鹿児島支局、政治部などを経て2017年4月、台北に赴任した。香港、マカオのニュースもカバーする。

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