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暗黒の歴史と向き合う ベルギー王立中央アフリカ博物館が「脱植民地化」するまで 

5年の改装をへてリニューアルしたベルギー王立中央アフリカ博物館=ブリュッセル近郊テルビュレンで、八田浩輔撮影

 中央アフリカにまつわる世界有数の文化財を所蔵するベルギー王立中央アフリカ博物館が5年に及んだ大改修を経て生まれ変わった。過去の展示がベルギーの旧植民地コンゴ(現在のコンゴ民主共和国)やアフリカに対する自国の優越的な見方を広めたと自省し、植民地統治の歴史に批判的な視点を加えて内容も一新した。博物館は、再開までの道のりを「脱植民地化」と呼んだ。

「世界で最後の植民地時代の博物館」

アフリカ博物館のグリシールス館長=ブリュッセル近郊テルビュレンで、八田浩輔撮影

 「常設の展示は1950年代から60年以上も変わっていませんでした。私たちは、コンゴが(60年に)ベルギーから独立する前の視点で展示を続けてきたのです。そのことで『世界で最後の植民地時代の博物館』とのレッテルを貼られてきました」。ギド・グリシールス館長(66)が、総事業費7500万ユーロ(94億5000万円)に及んだ大改修の経緯を語る。

 ブリュッセル郊外に位置する博物館は、昨年12月にリニューアルした。コンゴ独立前に収集された工芸品や動物標本などの所蔵品は、軍関係者や行政官などによって略奪されたと考えられる物も含まれる。「最も重要なことは過去の植民地支配についての新しいナラティブ(語り)でした。私たちはそれを『脱植民地化』と呼びました」

 博物館は1898年に開館し、収蔵品の増加に伴い1910年に新築された。歴史的建造物の本館は、1885年から1908年までコンゴを「私領地」としたベルギー国王レオポルド2世が、フランスの建築家に設計させたものだ。完成は国王の死後だったが、「建物自体に非常に強い植民地主義的なメッセージが含まれていた」という。レオポルド2世の頭文字「L」を組み合わせたモノグラムが壁や床など至るところに残り、「ベルギーがコンゴに文明をもたらした」などと刻まれた金属製のプレートなども打ち付けられていた。

 レオポルド2世統治下のコンゴでは、ゴムや象牙などの資源を採取するために現地の人々は劣悪な環境で搾取され、ノルマが達成できない人たちの手首を切断するなどの残虐行為が繰り広げられた。正確な統計は残されていないが、この間に伝染病なども含めて命を落とした人の数は数百万人、人口の約3分の1に及んだとの見方もある。非人道的な統治は欧州諸国や米国から激しく非難され、レオポルド2世は1908年にコンゴを政府に委譲し、正式にベルギーの植民地となった。

 ブリュッセル自由大学の歴史学者、ガイ・ファンテムシェ教授の著書「BELGIUM and the CONGO 1885―1980」(未邦訳)によれば、自らのコンゴ統治を正当化したレオポルド2世の主張は、その後のベルギーの公式な見解となり、同書が指摘する「レオポルド時代の歪曲(わいきょく)された視点」は、とりわけ第一次世界大戦の後から20世紀の終わりまで広められた。

「植民地時代の典型的なプロパガンダ」

 グリシールスさんは2001年に館長に就任すると、老朽化した建物の改装と展示内容の変更に向けた中長期計画の検討に入った。当初の数年は、大学の専門家やコンゴ人研究者、アフリカ系のベルギー在住者など外部の人たちと協議を重ねながら複数の企画展を開催し、統治された側の見方を交えながら植民地史を批判的に見つめ直す作業を繰り返した。

 新しい常設展示の検討にあたりテーマごとに設けた作業部会でも、「アフリカの視点を加えるため」外部の専門家などが必ず加わったという。博物館は13年12月に一度閉館し、改修工事には5年をかけた。新たな常設展示は現代アフリカ美術なども取り込み、面積も2倍近くに拡大した。

アフリカの人々に対する印象をゆがめるとして論争の対象であり続けた「レパードマン」(前列右)。「過去の常設展示の一部」との注記を加えて、他の作品と共に特別な部屋で展示を続けることにした=ブリュッセル近郊テルビュレンで、八田浩輔撮影

 リニューアル後の博物館では、まず入館者は所蔵品がどのようにして集められたかを説明した展示をたどる。その脇にある無機質な小部屋に入ると、ヒョウ柄の覆面をかぶって鉄製の爪を持った黒人男性が横たわる人に襲いかかる銅像に目が留まった。「レパードマン」と呼ばれるこの作品は1913年にベルギー植民地省の依頼で作製され、アフリカに対して残忍で野蛮な印象を与えるとして論争の対象であり続けた。

 この部屋に展示されているのは、新しい博物館のコンセプトに反すると判断された所蔵品だ。入り口には、「博物館はアフリカとアフリカ人を巡る表現や、植民地と支配者の賛美に大きな影響を与えてきた」という説明文が掲げられている。過去の展示物をあえて見せることで博物館が植民地主義を広めた事実を省み、植民地主義との決別を示そうという意図がある。

本館の中央ホールに残る黄金の像。アフリカの子供たちを白人が抱きかかえる様子を表しており、パネルには「ベルギーがコンゴに文明をもたらした」と記載されている。リニューアルに際し、「植民地時代の典型的なプロパガンダ」という解説を付け加えた=ブリュッセル近郊テルビュレンで、八田浩輔撮影

 大理石で覆われた本館のホールを見下ろすように立つ4体の金色の像も、100年以上前の強烈なメッセージを今に伝える。アフリカの子供たちを優しく抱きかかえるローブをまとった白人の宣教師を表した像の下には、「ベルギーがコンゴに文明をもたらした」と刻まれたパネルが残されていた。ただし、「ベルギー人が恩恵や文明、治安をもたらし、コンゴには文明がなかったかのような植民地支配の視点」に基づく「植民地時代の典型的なプロパガンダ」との解説がリニューアルにあたって付け加えてある。

 これらの像を撤去しても植民地支配の歴史は消えない。「なぜこうした像があるのか、説明と批判を加えることで議論につながると考えたのです」とグリシールスさんは言う。空間全体の「バランス」を確保するために、ホールの中央にはコンゴ人アーティストによる芸術作品を置いた。

研究資金の確保を優先して改装を先送り

本館の中央ホールに新たに展示されたコンゴ人アーティストの作品。「植民地時代のプロパガンダ」である黄金の像を残す代わりに、空間のバランスを取るために設置された=ブリュッセル近郊テルビュレンで、八田浩輔撮影

 自己批判はなぜ遅れたのか。グリシールスさんは、二つの視点を提示した。一つは博物館の事情だ。1960年のコンゴ独立まで博物館を所管していた植民地省が無くなると、運営経費を削られた博物館は、80人の研究者を抱える研究機関としての役割を維持することを優先した。その結果、研究資金を確保するために展示の変更や建物の改装が先送りされ続けてきたという。

 もう一つは、社会の変化である。「ベルギーでは植民地時代への反省が非常に遅れました。『我々が文明をもたらした』『植民地支配には多くの良い面があった』という昔ながらの考えに批判的な検証が可能になったのは、この20年です」

 グリシールスさんによれば、学校の教科書にも植民地時代を肯定的に捉える記述が約20年前まで残っていた。「今ではそのような記述は無くなりました。その代わり、多くの学校で植民地時代を教えることも無くなったのです。私たちは、すべての学校で歴史の教訓を教えるべきだと考えています」

 世論の変化の背景には、アフリカ系の人口が増えたことの影響もある。リエージュ大などの研究チームの報告書によると、1960~80年までベルギー国内のサブサハラアフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ)出身者は数千人に満たず、その多くはコンゴ出身者だった。現在その数は20万~25万人(ベルギーの総人口は1137万人)と推定されており、約半数はコンゴと隣国のルワンダ、ブルンジから移民として渡った人たちや2世以降にあたる。「ベルギーで生まれ育った世代は(植民地統治の)再考に積極的です。失業や差別にも直面している。多文化社会の中の問題と、植民地の歴史につながりが生まれている」(グリシールスさん)

アフリカの文化財の8割が欧州の博物館などに収蔵されているとされる。その多くは植民地時代に収奪されたもので、欧州側にも返還の機運が少しずつ高まっている=ブリュッセル近郊テルビュレンで、八田浩輔撮影

 アフリカ系の人権団体の中には、植民地史に特化した博物館を作るべきだとの意見がある。また国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の視察団は今年2月、博物館の取り組みを「不十分」だと評価し、「植民地時代のプロパガンダ」をすべて撤去すべきだと指摘した。グリシールスさんは「我々の意図が十分に伝わっていない」と反論した上で、「過去の過ちを認識する上で、学校教育やアフリカ系住民の社会統合などについて、この国の取り組みが足りないという(視察団の)基本的な姿勢には賛同しています」と語った。反対に、旧入植者を含む一部の保守層からは変更後の展示内容に反対する圧力もあるという。

植民地から収奪された所蔵品は誰のものか

 アフリカの歴史的な美術品の8割は欧州に所蔵されていると指摘される。その多くは、欧州列強が植民地統治時代に各地で集めたものだ。グリシールスさんはこれを「正常な状態ではない」と語る。

アフリカ博物館には動物標本も多く展示されている=ブリュッセル近郊テルビュレンで、八田浩輔撮影

 フランスのマクロン大統領は昨年11月、植民地統治時代に入手し、パリの美術館に所蔵された美術品26点を西アフリカのベナンに返還する方針を発表した。フランス政府は欧州とアフリカの関係者を招いて文化財の取り扱いなどについて話し合う会議の開催を呼びかけている。

 アフリカ博物館は、一部の所蔵品の返還については前向きな姿勢を示す。コンゴの首都キンシャサでは今年、韓国の資金援助を受けて国立博物館が開館する。グリシールスさんは「いくつかの所蔵品について返還を求められれば、条件などの検討に入ることになるでしょう」と話している。【八田浩輔】

八田浩輔

ブリュッセル支局 2004年入社。京都支局、科学環境部、外信部などを経て16年春から現職。欧州連合(EU)を中心に欧州の政治や安全保障を担当している。エネルギー問題、生命科学と社会の関係も取材テーマで、これまでに科学ジャーナリスト賞、日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞(ともに13年)。共著に「偽りの薬」(毎日新聞社)。Twitter:@kskhatta

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