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毎日フォーラム・視点

株式会社R.project代表取締役 丹埜倫

丹埜倫氏

教育事業に参画 「学ぶ目的の実感」を重視する学校経営

 日本の教育改革に対する関心が高まっているのを日々感じます。メディアの記事、書店の特集コーナー、政府の勉強会など、次世代の教育について目に触れない日がないほどです。2020年の受験改革など、制度的な変更がもたらしている変化というとらえ方もありますが、私はもっと大きなうねりを感じます。端的にいえば、学校教育と社会の隔たりが大きくなりすぎていて、これ以上既存の教育を正当化するのに無理が生じていると考えています。

     変わる必要性はうたわれながらも、ながらく変化がなかった日本の教育。社会で起きているイノベーション(創造的破壊)に促される形でいよいよ変革の夜明け前を迎えていると考え、教育事業に参画します。

     私はR.projectという会社を06年に創業しました。それまでは外資系証券会社で日本株のトレーダーとして、株価の値動きを追いかける仕事をしていました。幼いころから都心と地方を行ったり来たりする2拠点生活をしていた影響で、地方の不動産には株式市場よりももっと大きな価格のずれがあると感じていました。特に公共施設については自治体にとって重荷になっているものが多く、それを事業で有効活用できれば事業性と社会性のどちらの観点でも面白いと思い、合宿で公共施設活用というビジネスを始めました。

     現在は千葉、山梨両県で計九つの合宿施設を運営し、年間延べ10万人以上のお客様に利用していただいています。15年からは外国人観光客をターゲットにしたホステル事業も始め、都内で4施設の運営をしています。

     教育事業に参入する背景については、個人的な体験が強く影響しています。私はオーストラリア人の父親と日本人の母親の間に生まれ、幼いころから多様な教育環境で育ちました。国内のインターナショナルスクール、アフリカの日本人学校、イギリスの全寮制現地校、日本の伝統ある公立中学校や私立の進学校と、一通りの経験をしてきました。インターナショナルスクールでは多種多様な価値観の中で育つ面白さを感じ、全寮制学校では学校以上の学びを共同生活で体験しました。

     ただし、私の教育に対する関心の強さはこれらの外国の教育環境で受けた刺激から生まれているのではなく、その後の日本の中高で感じたフラストレーションから生まれています。父が常に世論を問い直すタイプの社会評論家だったからなのか、私は良く言えば固定概念を疑う、悪く言えば屁理屈の多い子どもでした。

     そんな私にとって、中学から本格化する受験勉強を素直に受け入れることができませんでした。「こんな知識はいったいどこで役立つのですか?」と正面から教師に質問したこともありました。きっと高校に進学すれば実学が待っているはずだ、大人に近づくのだから、当然社会に出たときに役立つ学びが多くなるはずだという淡い期待も、さらなる詰め込み勉強という形で裏切られました。学校に行くことの目的が感じられず、中退して大検を取得しました。

     その後、社会人になり大手企業に勤め、起業もしました。いろんな形で人材に関わっていますが、いまだに学校時代の勉強が直接的にも間接的にも社会で役立つという実感がありません。

     漢文や古文を必修で学ぶより、現代の日本語でのプレゼンテーションや感情表現に時間を費やしたほうがいいのではないか。図形問題を解くために中点連結定理の公式をやみくもに詰め込むよりも、事業計画を考え、エクセルに落とし込み、説得力ある説明をする学びのほうが、論理的思考能力は鍛えられるのではないか。「知識は重要」と言いながら、受験が終わると数カ月で消えていく知識にどのような価値があるというのか。学問としての存在意義の否定ではなく、学校授業での必修化に対する問題提起です。

     人は自ら通った道を否定することはできれば避けたく、教育を問い直すことはタブー視されることが多いですが、イノベーションを起こせる人材が社会的に活躍する時代において、「学校の勉強は本当に役立っているのか?」という当然の問いが下される時がいよいよ来たと感じます。

     私は自らの原体験を大切な反面教師とし、「学ぶ目的の実感」を教育理念の根底に置きます。R.projectでの具体的な取り組みは、国際的かつオルタナティブ教育の学校を展開することを目指していきます。

     その第一歩として、都内にあるモンテッソーリ教育のインターナショナルスクール(The Montessori School of Tokyo、 以下MST)を子会社化しました。生徒や教師の大部分が外国籍の2歳から15歳が通う生徒数170人ほどの学校です。モンテッソーリ教育は約100年前にイタリア人の女性が始めた、子供たちが持つ「内なる学習意欲」を重視した教育手法です。一般的な学校にある、黒板に向かって並ぶいす、時間割、宿題などはなく、子どもたちは自ら興味を持ったテーマを好きな順番で学びます。時には一人で、時にはチームで。「実感」を重視し、実際に手にとって学ぶ教材や、学校外に出て実社会を経験することを促すという特徴もあります。子どもたちの主体性を限りなく尊重した教育です。

     見ようによっては少し特殊な教育手法でもあるため、今まではどちらかというと少数派の学校でした。ところが近年、グーグルやアマゾンの創業者、国内では将棋の藤井七段など、規格破りの活躍をする人達がモンテッソーリ教育の卒業生だったことが知れ渡るようになるにつれ、海外では学校数が急増し、日本でも保護者の中で関心が高まっています。

     現在は主に小学校までのMSTについて、中高の一貫校を作ることを検討しています。モンテッソーリ教育の高等教育カリキュラムについては、世界的にもその理想的な形が議論されています。私は子どもたちに実学を提供したく、そして実学の究極の形が起業体験だと考えています。在学中に子どもたちが自らのアイデアで事業を起こすために必要なさまざまな要素をモンテッソーリ教育で身に着け、学校側も学外の組織と連携し、その事業が成功するように支援する。まだカリキュラムについては教員たちと議論している最中ですが、子どもたちが学ぶ目的を実感し、知的好奇心や創造力にあふれた日々を過ごす学校を私はイメージしています。

     将来の構想としては、現在は主に都心の富裕層に限られているインターナショナルスクールをもっと広げていきたいと考えています。日本のような先進国において、これほど国際教育の環境が少ない国はありません。学校運営のコスト構造を見直し、国からの補助金に頼らずとも日本の私立校くらいの授業料に下げ、日本人はもちろん、これから増えるであろう通常所得の外国人も通える学校を広げていきたいと思っています。

     幼いころから自然な形で国際感覚を身に着けた日本の子どもたちと、日本に対する理解と愛情を身に着けた外国籍の子どもたち。机上の学びでは飽き足らず実学を学んだ彼らや彼女たちが、社会に求められる人材としてそれぞれの道で活躍していくことが、私が自分のルーツを生かして行える日本への貢献だと思っています。

     たんの・ろん 1977年生まれ。麹町中学卒。桐朋高校中退後、大検を取得し慶應義塾大法学部入学。卒業後ドイツ証券、リーマンブラザーズ証券の東京支店勤務。日本株トレーダーとして勤務する傍らスカッシュ日本代表として世界選手権に出場。06年株式会社R.project設立。中学時代に通った千葉県鋸南町の保田臨海学校を東京都千代田区から譲り受け合宿施設「サンセットブリーズ」に再生。The Montessori School of Tokyo株式会社代表取締役、株式会社Recamp代表取締役、株式会社ヨギー取締役。父は元多摩大学学長、元国際教養大学(AIU)副学長のグレゴリー・クラーク。

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