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「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」料理長・関谷健一朗さん

故ジョエル・ロブションさん(左)と関谷健一朗シェフ=2017年2月

自然の恵みの食材や大地に尊敬の念を

 フランス料理シェフの登竜門で昨秋、パリで開催された「第52回〈ル・テタンジェ〉国際料理賞コンクール インターナショナル」のグランプリに、東京・六本木のレストラン「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」の関谷健一朗料理長(39)が選ばれた。半世紀余の歴史のなかで日本人の優勝は34年ぶり2人目。「自然の恵みである食材とそれを生み出す大地や生産者への尊敬の念が、料理人にも必要だ」と関谷さんは語る。(聞き手 本誌・明珍美紀)

     --日本人としては東洋軒元総料理長の堀田大さん(現マンジュトゥー代表)以来の優勝です。当日は、各国の予選大会で優勝した39歳以下の6人が出場したそうですね。

     関谷さん 気鋭のシェフたちが、与えられたテーマで腕を競うレベルの高い大会です。今回のメインディッシュのレシピは「舌平目のターバン仕立て」。シタビラメ以外に用いる食材すべてを、前日に決定した食材のリストから選んで注文するので、出場者全員が同じ条件で腕を競い合います。

     --想像力が試されます。

     関谷さん 私の場合は、シタビラメやホタテ、タラなどをムース状にしてふわふわに蒸しあげてターバン風にし、濃厚なオマールエビのソースを合わせ、メインを引き立てるようアーティチョークなどの食材を用いました。

     持ち時間は5時間でしたが、時間が足りず、メインに付けるパーツで一つ、つくれなかったものがありました。けれどもそこは無理せずに、ソースの味付けや精度に注力しました。

     --そうした判断力は、どの現場でも必要ですね。前菜を含め一人で料理をしたのですか。

     関谷さん 当日は、くじ引きで選ばれた学生がアシスタントにつきます。私をアシストしてくれたのは女性で、熱々の貝類を手でむしる作業などをてきぱきとやってくれました。

     --優勝が決まったときのお気持ちは。

     関谷さん まずは安堵しました。なぜなら昨春、コンクールへのエントリーの際、(ジョエル・ロブション氏に)「勝てないなら出るな」と叱咤激励されたからです。

     彼も25歳のときにこのコンクールで優勝しているので、その難しさを理解したうえで、「ロブション」の看板を背負って出場することの責任と意味を教えてくれたのだと思います。

     --料理の道を目指すきっかけは。

     関谷さん 母親が料理をよくつくる人で、冷凍パイシートのない時代に生地をこねてパイを焼く。家庭菜園で野菜も育てていて、自分も味見をしながら母を手伝っていました。

     高校3年になって、自分の未来が見いだせず、「それなら好きな料理を」と卒業後は専門学校に行きました。和食、洋食、中華と一通り学び、そのなかで特に洋食に興味を持ちました。たとえば、先ほど話に出たオマールエビのソース。食べられない殻さえもソースに変えてしまうことに驚きました。フランス料理の根本には、食材を使い切るという理念があります。

     料理人としてのスタートはホテル。2年半ほど宴会料理を担当した後、渡仏しました。履歴書を送って(ミシュランガイドの星付きの)レストランを渡り歩き、パリのロブションの店でハトの胸肉とフォアグラをキャベツで包んだ料理を食べ、その完成度の高さに衝撃を受けました。これ以上、味を足すことも引くこともない。彼の望む味を維持しようとシェフたちが努力していることを一身に感じ、「ロブションのもとで働こう」と決意しました。

     当時、パリの店には20人余りの料理人がいました。同僚といってもみなライバル。入ったその日から料理の段取りや迅速さが求められます。それまでの店での経験があったから、どうにかこなすことができました。

     --15歳でホテルの見習いシェフになったロブション氏は、28歳でパリの一流ホテルの総料理長に就任。独立後は東京、マカオ、シンガポールなどにも出店して世界に名を馳せました。実際にどのようなことを学んだのでしょう。

     関谷さん 生産者、生産地のことを理解し、愛情を持って食材に接し、その食材を生かす調理法で一皿の完成度を高めるということです。

     --日本の店を任されて以後は。

     関谷さん 同じ野菜でもフランス産と日本産は味や形状が異なりますから、フランスでの味を日本で表現するのは難しいことが分かり、日本の食材で新たなチャレンジをすることにしました。さまざまな地域の食材やその土地の文化に触れながらメニューを考える。長野県のイワナの養殖場を訪れた後は、そのイワナと土地の水を取り寄せてコンソメをつくりました。

    受賞料理「舌平目のターバン仕立て」が3月10~17日、東京・六本木の「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」で提供される。価格は7500円。申し込み、問い合わせは同店(03・5772・7500)

     --時代とともに食生活が変化しています。

     関谷さん 「食」という字は「人を良くする」と書きます。食べるものだけではなく、だれと、どんな環境で食べるかも大事です。フランスでは食育が盛んです。シェフたちが小学校での課外授業で、子どもたちに命としての食べ物の大切さを伝えるなどしています。ときには料理をふるまうこともあり、味覚を育てることに有効です。

     すべて手づくりの食事は無理かもしれません。私自身、ファストフードの店に行くことがありますが、食べ物が私たちの体の基本であることを意識していれば、行動はおのずと違ってきます。

     --関谷さんを「ケン」と呼んでいたロブション氏は昨年8月、73歳で亡くなりました。

     関谷さん 最後に言葉を交わしたのは昨年5月末。コンクール優勝の報告は残念ながらできませんでした。彼は「ロブションのコピー」を私に求めているわけではないでしょう。同じ方向を向いた料理人として、そのエスプリ(精神)を受け継いで行くことを望んでいるのだと思います。

     せきや・けんいちろう 1979年千葉県生まれ。専門学校を卒業後、ホテルに就職。2002年に渡仏して06年、パリの「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」に勤務。オーナーのジョエル・ロブション氏の推挙により26歳で副料理長に。10年に東京店のシェフに就任。

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