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はやぶさ2、次は最大のミッション 人工クレーターを作る衝突装置投下に挑む

小惑星リュウグウへの着陸成功後の会見で喜びを語る津田雄一・はやぶさ2プロジェクトマネジャー(中央)、左が照井冬人・主幹研究開発員、右が佐伯孝尚・プロジェクトエンジニア=相模原市中央区で2019年2月22日、永山悦子撮影

 小惑星「リュウグウ」への最初の着陸を完璧に成し遂げた探査機「はやぶさ2」。成功後、津田雄一・プロジェクトマネジャーは「この成功で、私たち人類の可能性を強く感じたり、人類はもっとできるのではないかという希望につながったりしてほしい」と話した。そして、4月初め、はやぶさ2ミッションの最大のハイライトであるリュウグウ表面に人工クレーターを作る衝突装置の投下運用に挑むことが決まった。小惑星への衝突実験は世界初、できたクレーターへ着陸して小惑星の地中の物質を採取できれば、それも人類初の成果となる。そこで、新たな挑戦につながる最初の着陸成功の背景、そして衝突実験の見通しをまとめた。

着陸成功に導いた徹底した「しつこさ」

 はやぶさ2は2月22日午前7時29分10秒、人類として初めて小惑星リュウグウの表面に触れ、計画通りに弾丸を発射し、リュウグウの物質を目標量採取することに成功したとみられる。津田さんは22日の記者会見で、その源泉として「チーム力」を挙げた。

探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウに着陸した際、底面に付けられた寄付によって開発された小型カメラが撮影した画像。上昇を始めたときの様子で、紙吹雪のような岩の破片が多数写っている=宇宙航空研究開発機構提供

 リュウグウの表面はでこぼこだらけで、着陸に適した平らな広い場所はどこにもなかった。佐伯孝尚・プロジェクトエンジニアは「なぜブルドーザーを持って行かなかったのかと後悔するほどだった」と、冗談交じりにリュウグウ攻略の難しさを話していた。さらに、着陸を目指す領域を細かく調べると、はやぶさ2にとって一番微妙な、安全に着陸できるかどうかの境目となる高さ60~70センチの岩が多く、チームでは「もっと高い岩ばかりならあきらめもついた。よりによって微妙な高さばかりなのは、はやぶさ2を打ち上げた後に神様が意地悪で置いたに違いない」と、ため息が出たという。

 一方、はやぶさ2プロジェクトは計画段階から、探査機の設計・運用に取り組む工学系と、具体的な探査・観測を進める科学系の専門家たちがタッグを組み、綿密な議論を積み重ねてきた。そこで、科学者たちは上空から撮影した画像を基に、着陸地点にある岩の影から一つ一つの岩の大きさをセンチメートル単位で推計し、その3D模型を作り上げた。リュウグウの重力分布も詳細に計算した。

 運用側は「しつこいくらい訓練をやって、しつこいほど観測して、しつこいほど議論して、しつこいほど準備する」(佐伯さん)という徹底した「しつこさ」で、姿勢を変えるときに噴射するエンジン一つ一つの特性や運用に関わる数値をすべて洗い直し、探査機の位置の誤差を25センチ、速度の誤差を秒速8ミリまで追い込む運用法を確立した。

探査機はやぶさ2が衝突装置を投下する予定の地域(黄色い丸の辺り)=宇宙航空研究開発機構提供

 そして、半径わずか3メートルという極めて狭い領域に「100%降りられるという確信を持って」(照井冬人・主幹研究開発員)、当日の運用に臨んだ。着陸の運用計画が決定した日、津田さんも「技術者として心配なところは全部つぶせた。自分で『かけ』をしている部分はなくなり、自信を持って送り出せるという状態まで仕上げられた。計画が全部成り立った、というところまできた」と話していた。

 実際の運用では、プロジェクトが想定した運用計画のすべて最速パターンではやぶさ2が動き、当初公表されていた時刻よりも30分以上早く着陸することに成功した。想定の中では「ベストの状態での着陸」(津田さん)だった。着陸した地点も、半径3メートルの円の中心からわずか1メートルずれた場所だったことも確認された。吉川真・ミッションマネジャーは「着陸精度1メートルは非常に誇れる結果」、照井さんは「完璧な精度での着陸を成功させたチームを非常に誇りに思う」と話した。

先代を超えるまったく新しい技術が結実

 最初から難しい運用を余儀なくされたことについて、津田さんは「めちゃくちゃ応用問題に、ぶっつけ本番で挑むことになった。しかし、チーム内で磨き合い、たたき合い、成長して、『応用問題はこうやって解くんだ』と実感できるまでになった。挑戦ではあったが無理をしたつもりはない」と振り返った。2014年の打ち上げ直後から積み重ねてきた数え切れない訓練、リュウグウに到着してからのさまざまな試練と経験、そしてチームの執念が完璧な着陸を現実のものにしたといえるだろう。

 はやぶさ2は、世界を驚かせた先代のはやぶさを超えたのか。津田さんは「最初から『はやぶさ2を全く新しい探査機として成功させてやろう』と考えてきた。今回の着陸技術は、はやぶさを超えるまったく新しい技術であり、新しいミッションだった。次につなげる新たな資産になると思う」と分析した。

探査機はやぶさ2が小惑星表面に向かって撃った弾丸と同じもの=東京都千代田区で2019年3月5日、永山悦子撮影

 津田さんは着陸成功後、はやぶさプロジェクトを率いた川口淳一郎・宇宙航空研究開発機構シニアフェローと握手をしながら、「初号機の借りは返しましたよ」と言ったという。それは、はやぶさ2がはやぶさを乗り越えた瞬間だったといえるだろう。そのとき川口さんは笑顔だったという。

 3月5日に開かれた記者会見で、リュウグウという天体の解明につながる動画が公開された。はやぶさ2の機体の底面に付けられた小型カメラ「CAM-H」が、リュウグウの物質を採取する装置「サンプラーホーン」の先端部分を連続撮影したものだ。

 このカメラは、ファンから集まった寄付金約1200万円を使って開発された。はやぶさ2が高度8・5メートルから最終降下を始める59秒前に撮影を始め、着陸を経て、上昇開始後までの計5分40秒間を写した。

 最初は左下に着陸の目印となるボール「ターゲットマーカー」が写り、リュウグウ表面に写るはやぶさ2の影が大きくなり、サンプラーホーンの先端が接地する瞬間をとらえていた。サンプラーホーンは、プロジェクトチームが「三途の石」と呼んで警戒していた大きめの石をかすめ、そのすぐ脇に接地したことが確認された。そして、小惑星表面からサンプラーホーンの先端が離れると、煙のような細かい粒子が広がった。はやぶさ2が撃った弾丸が表面に当たった結果とみられる。

 さらに、はやぶさ2がエンジンを噴射して上昇すると、紙吹雪のような無数の岩の破片が舞う画像が続いた。上空へ勢いよく飛び出す長さ1メートルを超えるような大きな岩も写っていた。会見場で、「静かに降りて、小惑星に一瞬タッチして上がってくる」という着陸のイメージを覆す迫力いっぱいの動画が公開されると、集まった記者からは「オー」というどよめきが起きた。カメラを開発した澤田弘崇・主任研究開発員は「皆さんからの寄付で開発したカメラで、ここまでインパクトのある画像を撮影できたことは開発者冥利に尽きる。『成功しました』と報告できてうれしい」と話した。

探査機はやぶさ2の小型カメラが小惑星着陸時に撮影した画像について感想を述べる津田雄一・プロジェクトマネジャー(右)。左はカメラを開発した澤田弘崇・主任研究開発員=東京都千代田区で2019年3月5日、永山悦子撮影

リュウグウの岩は見かけ倒しの張りぼて?

 はやぶさ2の科学探査の取りまとめ役である渡辺誠一郎・名古屋大教授は「私たちはこれまで上空からリュウグウを眺めるだけだった。今回の着陸によって、初めて手を出して小惑星の反応を見ることができた。積極的に接したことで得られた非常に重要な情報だ」と興奮気味に話す。

 渡辺さんによると、破片は「紙のようにペラペラ」な形状に見え、リュウグウ表面にある岩石が層状の構造を持っている可能性が考えられるという。さらに画像を詳細に分析すると、大きな岩や石が砕けた破片だけではなく、砂のような粒子も写っており、「もともと砂が存在していて、岩が壊れた破片も加わって表面から飛び散っているようだ」(渡辺さん)という。

 これまでの観測で、リュウグウの密度は水レベルに小さく1立方センチ当たり1・2グラムしかないことが分かった。岩でここまで密度が小さいということは、隙間(すきま)だらけの天体と考えられる。具体的には、火山の軽石のようにもろい岩石である可能性が高く、渡辺さんは「岩が多いため、当初は硬い天体で、試料採取も難しいかもしれないとの心配もあった。しかし、それらの岩は実は見かけ倒しの張りぼてのようなものだったのかもしれない」という。

 はやぶさが訪れた小惑星イトカワも密度が小さく、母天体が壊れた破片が集まった「ラブルパイル天体」というタイプと分かっている。リュウグウも同じくラブルパイル天体である可能性が考えられるという。

 渡辺さんは「着陸時の様子の観測は世界初の快挙であり、研究者たちはこの画像をわくわくしながら解析すると思う。さらに、リュウグウの試料の解析ができれば、リュウグウという天体がどのようにできたのか答えを導くことができるだろう」と話す。

探査機はやぶさ2の着陸によって見えてきた小惑星リュウグウについて説明する渡辺誠一郎・名古屋大教授=東京都千代田区で2019年3月5日、永山悦子撮影

 プロジェクトチームは、1回目の着陸地点に「たまてばこ」と名付けた。「お宝」が採れた場所という意味とともに、着陸時に無数の岩の破片が舞った様子を浦島太郎の昔話で開けた玉手箱から煙が上がったことになぞらえたという。

3回計画していた着陸回数を2回に減らす

 4月に挑む衝突装置の投下は、はやぶさ2で最も注目されるミッションだ。一方、約5キロもの火薬をリュウグウ上空で爆発させるため、非常に危険度の高い運用でもある。

小惑星リュウグウへの弾丸発射の証拠となる温度上昇が確認されたグラフを示して説明する津田雄一・はやぶさ2プロジェクトマネジャー=相模原市中央区で2019年2月22日、永山悦子撮影

 計画によると、はやぶさ2はリュウグウの高度約500メートルで円すい形の衝突装置を分離し、その後、小惑星の陰へ移動する。爆発に伴う装置や岩などの破片にぶつからないようにするためだ。その際、衝突装置の様子を観測するカメラ「DCAM3」を分離しておく。探査機が安全な場所へ移動すると、衝突装置の爆薬に点火。その爆発に伴って、装置底面の銅板が球状に変形して秒速2キロでリュウグウ表面に撃ち込まれる。うまく表面に当たれば、人工クレーターが作られる。DCAM3はリュウグウ上空から、一連の様子を毎秒1枚ずつ自動で撮影する。

 これだけ複雑な運用のため、リュウグウの地形を考えても、準備に相当な時間が必要になる。チームは、残されたリュウグウでの滞在時間を踏まえ、当初、2度目の着陸後に予定していた衝突装置の運用を繰り上げて実施することを決めた。さらに、リュウグウ滞在中に3回計画していた着陸回数を2回に減らすことになった。

 津田さんは「3回の着陸を実施することは技術的には大きな成果になるが、その成果を狙うのか、地球帰還までを予定通りにこなすのかという選択を迫られ、論理的に判断した。リュウグウにいる時間を考えると、3回目の着陸はあきらめざるを得なかった」と説明した。「勇気ある撤退か」と質問すると、「そう言っていただけるのであればありがたい。技術者としてはやれることはやってみたかった、という思いは少しは残っている」と胸の内を明かした。

 さらに、2回目の着陸場所が、衝突装置で作った人工クレーターの内側にならない可能性もあるという。吉川さんは「1回目の着陸の様子を見ると、衝突装置をぶつけることによってクレーター付近がかなりでこぼこになる可能性もある。できればクレーターの内側かそばに着陸したいが、安全が確保できない場合は、まったく別の場所へ着陸することも検討する」という。

 渡辺さんは「最初の着陸で採取できたとみられる物質は、十分にリュウグウを代表する試料だと考えている。衝突装置の運用でも、クレーターの内側ではなくても、周辺であれば衝突で放出された物質を含む試料を採取できる可能性があると考えている」と話した。

 着陸後に開かれた記者会見で、津田さんは「まったく未知の天体のわずか数メートルの狙った場所にたどりついた。だれも知らない場所へ行き、そこへ手を伸ばし、観察することができた。私たちが長い手と遠くを見られる目を持てたことと同じだと思う。やっていて楽しくて仕方ないです」と笑顔を見せた。

 人類の新たな可能性を切り開くはやぶさ2の挑戦は、これからも続く。

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