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今週の本棚

内田麻理香・評 『動物園から未来を変える ニューヨーク・ブロンクス動物園の展示デザイン』

 ◆川端裕人、本田公夫・著

     (亜紀書房・2160円)

    自然環境保護への門口

     動物園といえば、何を思い出すだろうか。家族との行楽か、学校の遠足か、それともデートか。動物園は、「市民の憩いの場」として私たちに寄りそっているが、動物園の持つ顔はそれだけではない。本書は、世界の中でお手本と評されるブロンクス動物園を通じて、動物園が変えうる未来を示す。

     著者は、作家の川端裕人と、ブロンクス動物園の展示グラフィックアーツ部門(EGAD)の管理者である本田公夫の二人だ。川端は、全米の動物園を取材して、動物園のあり方を洞察した『動物園にできること』(一九九九年、文藝春秋)を著しており、本書の案内人にふさわしい。

     一方の著者である本田が所属する展示グラフィックアーツ部門とは、何をするところだろうか。それを知るために、私たちは、まず動物園に対する認識を改めねばならない。日本の動物園は「動物を見せる場所」のイメージが強く、学術の香りはあまり感じられない。それに対し、欧米の動物園は「動物学協会」等が運営母体の場合が多く、「科学的研究のために様々な地域の動物を飼育しておくこと」が目的にある。本田が勤めている先も、正確にはブロンクス動物園ではなく、「野生生物保全協会」だ。

     現在の動物園は野生動物の種や生息地を保全するという役割を担う。また、飼育動物の福祉にも取り組む。しかし、動物園での飼育自体を悪とするアニマルライツの価値観が台頭する今、動物園の存在はどのように正当化されうるのか。ブロンクス動物園の園長だったコンウェイは、その展示が美的に優れ、教育的な価値を持つことが重要で、それによって動物たちの将来の福祉が保証されると主張した。これが半世紀も前のことである。この思想が、EGAD設立につながった。

     EGADには、映画の脚本家に例えられる展示デベロッパーがいる。展示デベロッパーは、「なぜこの動物種を飼育して展示するのか」という明確なメッセージを提示する。EGADの管理者である本田は、デザイナーを部下にもち、展示デベロッパー、建築家と連携しながら、展示をマネージするという。ますます想像が及ばない職務内容だ。そこで、本書は彼のかかわりが大きかった大規模複合展示「マダガスカル!」の成り立ちを詳しく示す。

     新しい展示を作る際には、伝えるべきメッセージを簡潔な文にまとめ、スタッフ間で共有される「ビッグ・アイデア」を掲げる。「マダガスカル!」の場合は以下の通りだ。<美しく驚きに満ちた土地であるマダガスカルをモデルとして見た時、そこでの自然環境保全のあり方は世界中で応用可能であり、また実際に使われてもいる>。事前、中間、結果と「評価」をしながら展示がつくられていくことも、特筆すべき点だろう。

     とにかくブロンクスの取り組みに感嘆することしきりだが、それでも課題は残されているという。動物園の教育活動が、自然保護にはつながらない、つまり「知識を与えるだけでは、行動は変えられない」、という問題だ。現在もその課題に対し、試行錯誤の段階だという。

     本田は「動物園ができる一番、強力無比なことは、動物を好きにさせる、動物をすごいと思わせる、そういうことではないでしょうか」と述べる。本書はふんだんに園内の写真が掲載されているが、その写真を見るだけでも現地に赴きたくなる。終章は、日本の動物園の現状と、奮闘する現場の姿も書かれている。まずは近所の動物園に出向いて動物とスタッフの「すごさ」を体験したい。

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