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社説

東日本大震災から8年 地域再生の芽生え確かに

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 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からきょうで8年になる。

     災害公営住宅の建設や、高台移転のための宅地造成はゴールが見えてきた。だが、岩手、宮城、福島の被災3県で、今なお約5万2000人が避難生活を送っている。

     地域のコミュニティーをどう再構築できるのか。先を見据えれば、そこが最も大事な要素になる。

     福島県浪江町役場の職員だった石井絹江さん(67)は震災後、福島市に移り住んだ。4年前、移住先に農地を借りてエゴマの栽培を始め、瓶詰めしたエゴマ油を販売している。

     3年前には浪江町内の除染済み農地を新たに借り入れた。月の半分を車で片道2時間かけて通う。商品から放射性物質は検出されていない。

    風評被害を乗り越えて

     震災後、広く帰還困難区域となった浪江町は、復興拠点を中心としたコンパクトな町の再生を目指す。避難指示は一部解除されたが、戻った住民は先月末で910人だ。

     シソ科の植物のエゴマは背丈より高く伸びる。刈り取りは根気がいる作業だ。石井さんは、浪江に移住して農業に携わりたいという20代の若者に今、エゴマ作りを教えている。自身もいずれ浪江に戻るつもりだ。「帰還した人と一緒に農業を取り戻し、健康にいいものを全国に届けたい」と話す。

     福島の置かれた状況は依然厳しい。廃炉や汚染水対策など課題は山積する。それでも農産物の風評被害は徐々に改善の兆しが見えてきた。

     福島県によると、主要産品であるキュウリなどの市場価格が震災前の水準近くまで回復した。農産物の昨年度の輸出量は、2010年度より4割近く増えた。県が東南アジアなどへのセールスを強化した結果だ。

     消費者庁によるインターネット調査では、放射性物質を理由に福島県産品の購入をためらう割合は14年以降減少傾向で、今年は最少の12・5%だった。福島を支える動きも活発だ。企業などが各地で福島産品の応援販売会を開いている。

     それでも福島県の調査では3割以上の人が、食品中の放射性物質の検査が行われていることを「知らない」と答えている。

     復興庁は昨年、風評被害に立ち向かう福島の高校生を描いたマンガ「ふくしまを食べよう。」をラインで全国に配信した。伝わりやすい形で今後も情報発信を続けるべきだ。

     三陸の津波被災地に目を転じれば、地域で復興の進捗(しんちょく)は異なる。

     津波で住宅の7割が流失した宮城県女川(おながわ)町は、震災後にいち早く町の中心部の駅前を再開発した。遊歩道が整備され、新しい木造店舗が並ぶ。大型商業施設に頼らないまちづくりが全国から注目されたが、観光客は震災前の6割にとどまる。

    世代間で復興をつなぐ

     次代を担う人たちが、女川町の地域再生に取り組み始めた。

     川村辰徳さん(37)は、かさ上げ地に店を建設中だ。父親が長く続けてきた釣具店は津波で流された。店の再建に当たり、自ら手掛けるウエットスーツの製造販売も加えた。女川湾は、釣りやマリンスポーツが盛んだ。海に来る人を少しでも増やしたいという。

     震災後、町内に移住して起業した人もいる。梶屋陽介さん(35)は工房を構え、宮大工の技術を生かしてギターを製造・販売している。「女川の人たちはエネルギッシュで、そんな土地柄に引かれた」と話す。

     震災時約1万人だった女川町の人口は6500人を割り込んだ。減少率は県内一だ。浪江も女川も目指すのは震災前の町に戻すことではない。現実を踏まえたまちづくりだ。

     前を向く若い世代にバトンが引き継がれ、移住者らが加わった新たなコミュニティー作りが各地で芽生えていることは心強い。

     復興政策は今後、公共事業などのハードから、被災者の生活支援や産業、観光振興などのソフト重視にますます力点が移る。被災地の実情を踏まえた支えが必要だ。

     まもなく平成の時代が終わる。この30年に日本は、1995年の阪神大震災と東日本大震災の二つの巨大地震を経験した。日本列島は地震活動の活性期に入っていると、多くの専門家が指摘する。

     南海トラフの巨大地震や首都直下地震の発生は、もう目の前かもしれない。私たちは引き続き復興に力を注ぐとともに、次の震災に備えなければならない。そういう時代に入っていく。

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