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東京へ ともに歩む

毎日新聞

東京マラソンで、都庁前を一斉にスタートするランナーたち=東京都新宿区で2019年3月3日午前(代表撮影)

Field of View

オリンピックやパラリンピックの主役は選手だけではない

 目の前の路面はゴミがほとんどなかった。ほんの数分前までランナーで埋め尽くされていたのがウソのように、雨で光っていた。

     これぞ日本なんだ、と思った。

     3月3日の東京マラソンで、私は審判員としてスタート地点でランナーの誘導や整理を担った。約3万8000人のランナーは、約500メートルにわたる路上や隣接する公園にひしめいて待機する。私が担当した後方のブロックだけでも6000人が、スタートの1時間半以上前からぎっしりと並んでいた。

     号砲から数分後にようやく動き出すと、さらに後方からも人の波が押し寄せる。私はボランティアとともにゴミや防寒着の回収に追われた。後のゴミ拾いも、さぞ大変だろうと覚悟した。

     だが、全員が通り過ぎた路面は実にすっきりしていた。さらにボランティアの皆さんの手際が良かったこともあり、後始末が済んだ路上はランナーが並ぶ前よりきれいになった。

    東京マラソンで、都庁前を一斉にスタートするランナーたち=東京都新宿区で2019年3月3日午前(代表撮影)

     過去に取材で訪れた数々の国での大会を振り返ると、競技の名場面と同じくらい印象的な出来事や光景がある。

     2004年のアテネ五輪では開幕しても五輪スタジアム周辺の工事が続いていたが、作業員たちは「ギリシャ人は本気を出せばすごいぜ」と自慢げで、大会半ばに陸上が始まる頃には本当に完成していて驚かされた。12年ロンドン五輪ではある競技会場の近くで、アフリカ系の移民の親子が癖の強い英語で「ようこそロンドンへ」と呼びかけながら、道行く人に満面の笑みで手を振っていた。温かい時間が忘れられない。

     街や国の全てを表しているわけではないとは思う。だが、たまたま出会った人や、見かけた場面の印象深い記憶は、その街や国ならではの景色として私の心に鮮明に描かれている。

     来夏の東京でも、観客でにぎわう会場にゴミがなくきれいだったら、国外から来た人々はきっと驚くだろう。街中で笑顔が交わされたら、互いが優しい気持ちになれるはずだ。そんな景色は、街にいる全ての人に描くことができる。

     オリンピックやパラリンピックの主役は選手だけではない。きっと誰もが、自分なりにつながり方を見つけられる舞台になる。【石井朗生】

    石井朗生

    毎日新聞社客員編集委員。1967年生まれ、東京都出身。92年に毎日新聞社入社。2020年3月に退職するまで28年間の大半を運動部(東京、名古屋、大阪)で過ごし、陸上、アマ野球をはじめ多くの競技を担当。五輪も夏冬計6大会を取材した。大学時代に陸上の十種競技に挑み、今も大会の審判や普及イベントの企画・運営、中高生の指導に携わっている。