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南光の「偏愛」コレクション

「セルフポートレート」で話題の美術家 森村泰昌さんとのトーク拡大版

対談する美術家の森村泰昌さん(左)と桂南光さん=大阪市住之江区で2019年2月27日、猪飼健史撮影

 美術家の森村泰昌さんは昨秋、大阪市住之江区に私設美術館「モリムラ@ミュージアム(M@M)」(www.morimura-at-museum.org)をオープンしました。さまざまな人物に自在になりきり、セルフポートレートという形で話題作を次々に発表してきた森村さん。約30年前から親交があり、同い年でもある桂南光さんが、これまでの作品から新たな試みまでじっくり話を聞くべく、特別展を間近に控えた森村さんを訪ねました。【構成・山田夢留】

    森村さんの作品「フェルメール研究(わが町に何を注ぐか)」=2019年制作 カンバスに特殊インクジェットプリント

    私設美術館「モリムラ@ミュージアム(M@M)」

    桂南光 森村さんの大阪・鶴橋のアトリエへはお邪魔させてもらったことありますけど、こちらの美術館は今日初めて寄してもらいました。外から見たら美術館には見えないけど、中へ入ったらいい雰囲気ですね。今度はフェルメールの特別展(「モリメール あなたも『フェルメール』になれる」、6月30日まで)をされるんですね。

    森村泰昌 僕の作品のセットに誰でも入れるようにして体験型にしたんです。写真撮って楽しんでもらったり。

    南光 こら、おもろいですな。

    森村 他の美術館ではちょっとないでしょう。

    南光 (「牛乳を注ぐ女」のセットを見て)テーブルがおかしいですね。

    森村 よう気付きはりましたね。これ、長細い六角形なんですよ。ウソやん!と思いはるかもしらんけど、これでここ(写真撮影ポイント)から撮ったらあの絵になる。

    南光 このセットは、みんな作ったんですか。

    森村 そうです。どんなもんかをいろいろ調べて、工夫しながら作りました。

    南光 日本人は、ことにフェルメールが好きですよね。

    森村 僕は最初、そない好きやなかったんですけど、2004年にNHK「日曜美術館」の依頼で「絵画芸術」を再現することになったんです。やり始めて、実はとんでもないものやということがわかった。普通の画家では絶対せえへんことをやってるんですよ。

    南光 実際に立体にすることでわかることがあったんですか。

    森村 今の写真や映画を僕らが見て「ええ感じの日常風景やな」と思うものって、写真家や映画監督がいろんな物を持って来て配置してファインダーのぞいてっていう厳密なカメラワークをやって、ごくごくありふれた日常の風景を再現してるわけですよね。それを何百年も前にフェルメールはすでにやってた。まったくのカメラアイの人なんです。

    南光 カメラ目ですか。

    森村 完璧に。絵描きですけど、その時代にすでにカメラ目を持ってた人なので、今の時代にフィットするんですよ。あとはフェルメールの作品の特徴って、「小さい・少ない・物静か」やと思うんです。あんなに小さくて、世界に35点しかなくて、これ見よがしにメッセージを送り出すようなもんじゃなくて、なんかしんとしてる。それって、かなり今の時代と正反対ですよね。ぎょうさんあるのが豊かさの証しやったり、大きい仕事せなあかんとか、ちゃんと自分をアピールせなあかんとか、そういうのとまったく反対でしょ。やっぱりみんな今の時代にだいぶ疲れてきてるんちゃうかな、と。

    南光 僕はね、フェルメールの絵っていろんなことが妄想できるとこが気に入ってるんです。「恋文」は手紙読んでる女性が、あんまりうれしそうじゃない。誰から来た恋文なんやろう、とかね。

    森村 フェルメールの絵は、ちょっと映画のワンシーンみたいやと思いません? そのシーンは非常に豊かで、どんなストーリーなんやろ、と感じさせる。

    南光 ここに来たらそれに参加できるんですね。

    森村 僕がやってるのは、ある装置の実験台に自分がなるってことなんですけど、それって結構面白いので、せっかくやしやってみていただいたら、体感できることがあるはずなので。絵を見るだけじゃない発見があると思う。

    ゴッホと「目が合う」

    南光 初めてお目にかかったのは、もう30年近く前。お会いするまでは変な言い方で申し訳ないけど「大阪に変わった人おるなあ」と思てました。話を聞いてみたら「やっぱり大阪のおもろい人やな」と感じましたね。最初に誰かになりきるという時、やっぱりゴッホでしたか。

    森村 耳を切ったゴッホの自画像、あれがこういうスタイルのスタートで、なんでゴッホだったんですか、ってよく聞かれるんです。僕がひとりっ子だったからかもしれないんですけど、小さいときは常に一人遊び。体力もそんなにないから、集団で野球やサッカーして遊ぶとぜんぜんダメやったし、空想して遊ぶ。自分がなんかキャラクターになって冒険するとか。

    南光 子どもはそれぞれやりますよね。僕らの時代やったら、月光仮面とかね。

    森村 でも、だいたい大人になっていくにしたがって現実の世界に興味が変わっていくじゃないですか。僕は、変わっていかなかったんですね(笑い)。

    南光 私、最初の作品を見せてもらった時、「この人子どもやな」と思いましたよ。子どもやったらこういうことするけど、大人はこんなバカバカしいことに時間やお金かけないやろ、と。それをやって、さらに作品になってるっていうのにびっくりした。

    森村 だからそのー……、芸術っていう分野があって良かったですよね(笑い)。ほんとに申し訳ないと思ってるんですよ、世の中に。芸術家てね、なんか聞こえはいいんですけど「なんかすんません」みたいな。

    南光 そんなこと言うたら我々もそうですよ。何の役にも立たない。

    森村 そうかなあ。みんなを楽しくしたりとか。

    ポーズをとる美術家の森村泰昌さん(右)と桂南光さん=大阪市住之江区で2019年2月27日、猪飼健史撮影

    南光 森村さんもじゃないですか。普通なら味わえないもの、見れないものを見せてもらってますもん。

    森村 最初のゴッホは半分子どもですけど、半分大人なんです。芸術の世界をやろうとしてたから、単に僕が好き勝手な扮装(ふんそう)したり写真撮ったりするだけでは、芸術というくくりにならない。ゴッホやったら完全に芸術やから、芸術をテーマにした芸術やったら、絶対に芸術やろ、というのが一つあった。もう一つは、あれは1985年の作品なんです。僕は34で、スタートが遅かった。基本的に新しいことというのは若い人が始めるわけで、80年代に新しいことやり出してる人はみんな20代なんですよ。時代の感覚が自分の感覚、という感じでね。でも、34て1サイクル違ってて、僕の青春は70年代なんです。70年代から80年代ってがらっと時代が変わったでしょ。周りの若い人たち見てたら勢いがあるし、全然違う美意識や感覚でやってるから、すごいな、と思た。

    南光 若い時は新しいものが出てきたら、すーっとそれを取り入れていけるけど、34やとそうもいかないでしょ。

    森村 でもその流れに乗ろうと思って若い友達に「どこで髪切ってんの」「どこで服買ってんの」って聞いたりして一生懸命時代に乗ろうと頑張ってたんですよ。けど、だんだん腹立ってきてね。「なんでそんなことせなあかんねん」と。その当時って世の中全体がオシャレになって、70年代のバンカラな感じが一気に「シティ」という感じになった。今はゴッホというたらすごい有名ですけど、その頃は、オランダの田舎からパリに出てきた田舎っぺの画家で、片隅に追いやられてたんですよ。ゴーギャンとケンカして自分の耳切って、っていうのもめっちゃ情けないじゃないですか。その感覚が、当時の自分の鬱屈した感じと重なって、画集見てたら、自分が鏡に映ってる感じの目の合い方したんです。

    南光 でもそれを模写するとかじゃなくて、立体のゴッホになるっていうのが面白いですよね。それは子どもの部分ですか。

    森村 一人遊びでしょうね。もう芸術はやめよかな、とも思ってたんですよ。だから世の中にトマトか卵ぶつける感じで「これでも食らえ」とやったら、なんか世間が振り向いたという。

    南光 海外に認められはったのは、何かきっかけがあったんですか。

    森村 これはある意味ラッキーで、80年代ってすごく景気の良い時代で、でも欧米では日本の文化的なことはあんまり知られてなかった。こんなに経済発展遂げてる国やからなんかあるに違いないってリサーチ入ったんですよ。その目にとまってベネチア・ビエンナーレに出すことになって、それからです。

    南光 そこから世界に広がったんですね。

    森村 僕自身は80年代、「時代と自分ずれてるよな。生きにくい。やりにくいな」と思ってたのが、日本の80年代を代表する芸術家になるっていう不思議な構図なんですよ。80年代にトマトぶつけたはずやのに、なんでこれが80年代の芸術になるねん、と。

    南光 いやいや、そういうのがぱっと合うってことってありますよね。

    延べ1000人に「なる」

    南光 ゴッホから他にも発展していったのはなんでやったんですか?

    森村 なんていうかな、自分て、いるじゃないですか、ここに。それがあんまり好きじゃないんですよ。これじゃない自分っていうのになりたいんです。今ここにいる自分は、なんか自分じゃない気がする。

    南光 それ、すっごいわかります。私ね、50年噺家(はなしか)やってますけど、俺は噺家じゃない、別のもっと自分に向いた、私の才能が開花する仕事が別にある、っていまだに思てますもん。でもこの年やからそれが何かわからへんし、何とか噺家やれてますから続けてますけどね。

    森村 こうありえたかもしれない自分。ありますよね、誰でもね。みなさん持っておられるけど、諦めはるんですよ。

    南光 わかりますよ。それはそれで空想で、ある年齢までは持ち続けるけど、諦めますよね。森村さんは諦めきれない?

    森村 結局好きなんでしょうね、こういうことが。芸術て申し訳ないけどなかなかいいもんで、さまよえるというかね。こうじゃない自分というもの探しを、好きにできるんですよ。ゴッホをテーマにしてやり出すと、いろんなことわかってくるけど、自分イコールゴッホじゃないな、と。なんか他にも自分の中にあるんと違うかな、と思って、さまざまなキャラクターを渡り歩く人生になっていくんです。

    南光 ただ一つビックリしたのは、よもやモナリザをやるとは思いませんでしたな。

    森村 そうですか? 僕はいつかやることになるやろ、と思てました。

    桂南光さんと対談する美術家の森村泰昌さん=大阪市住之江区で2019年2月27日、猪飼健史撮影

    南光 自分の顔と合うと思いました?

    森村 思いません。たいてい思いません。

    南光 そうなんですか! 無理やけど、やってみるってことですか。

    森村 アインシュタインとかも、絶対ぜんぜん顔ちゃうと思います。

    南光 でもアインシュタインになってますよね。修正もなしで。

    森村 なんでやろ(笑い)。チェ・ゲバラも全然違うタイプでしょ。同じ人がやってるのに、不思議ですね。顔なのか性格なのか、心の状態なのか。

    南光 その人物について調べて、つかむんですよね。

    森村 そうなんです。ある種の自分にとっての勉強のし直しですね。例えばゲバラさんをテーマにした時は、ゲバラさんと対話してるという感覚はありますね。その時に意外なこと言ってくれたりするんですよ。ゲバラさんが「ちょっと俺って、かっこつけてんねんよな」みたいなことも言ってくれるわけです。

    南光 いわゆる降りてくる、というようなことですか?

    森村 いや、オカルティックなのはなくて、なんとなく入れ替えみたいな。自分の中の自分を空っぽにして、この人が入ってくる。器は僕やから、それは森村でゲバラじゃないんですけど、森村の中にゲバラを入れてる状態が見えてくる。

    南光 ほー。それはコスプレとは違いますね。

    森村 コスプレっていうのは形やと思うんです。表面を見せるっていうか。僕のやつは、中身の形っていうのかな。

    南光 何人ぐらいになりきりました?

    森村 この前、勘定してみたんです。延べ1000人ぐらいやってるんです。

    南光 ただ、この年齢じゃないですか。

    森村 だからいつまでやるんですか、という話になりますよね。最近思うのは、それこそ実験台みたいなもんで、これずっと続けたらどうなんねやろ、っていうのを極めてみようかな、と。今の時代って写真や動画の世界はいかようにでもできるじゃないですか。自分とまったく別のキャラクターを想定してそれを自分と見立てて何かすることもできる。将来的にはなんかデータ調節したら「今日は35歳の女性で」「今日は男子高校生で」と服を着替えるような感じで変われるようになるんちゃうかと。そういう時代になっていく中で、自前の自分にこだわって最後までやっていくのが役目かなあ、と思てます。僕らがやってるセルフポートレートの何が面白いかというたら、無理があるから。人間は体を持ってるという制約の中で何かやるということのチャレンジやと思うんですよね。一方で、年取らないとできないことも不思議とあるんですよ。例えばマリリン・モンローは若い時は簡単にできるんですけど、おもろないんですよ。当たり前っていうかね。でも80歳でやってマリリン・モンローが立ち現れたら、かなりマリリン・モンローだと思うんですよ。

    南光 なりにくいものになるっていう、それ自体が芸術やと思いますね。

    森村 僕は落語好きなんですけど、究極は落語の世界かな、と思てますよ。座布団一枚の宇宙じゃないですけど、そこだけで全部のことをやりうるわけでしょ。いろんなキャラクターやるときにメークもせえへんし。

    南光 ある種、似てるところがあるかもしれませんね。

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