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華恵の本と私の物語

/32 噛みあわない会話と、ある過去について

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 このもふざけて連絡れんらくしてみた。

     「て、このひとネットにこんなこといてる。この発言はつげん、アウトだよね!」

     こいばな仕事しごとはなしもできる兄貴あにきてき太田おおたくん。いつも想像そうぞうえる面白おもしろかえしでわらわせてくれる。

     返事へんじがきた。憲法けんぽう21じょうの「表現ひょうげん自由じゆう」の文章ぶんしょう画像がぞうだけが、おくられてきている。ネットからもってきたのだろう。その手間てま想像そうぞうしてわらいをこらえながら、また返信へんしんく。

     「ひと批判ひはんする表現ひょうげん自由じゆうだってあるもんね」

     返事へんじが……こない。

     「わたしくちつもので。こまらせたかな?」

     すこしおちゃらけてみた。すると。

     「けんかってるのか冗談じょうだんなのかわからないこのやりとり、すごく不快ふかい

     ……ジョーク? ではなさそう。なにか、いやなことでもあったのかな。

     さっぱりした性格せいかく太田おおたくんのことだ。すぐに普通ふつうもどるだろう。そうおもったが。

     翌週よくしゅう友人ゆうじんたちのごはんかいに、太田おおたくんはなかった。なにしているのかなとおもってSNSをひらくと、太田おおたくんはすべてのアプリでわたしのフォローをはずしていた。

     なにこれ。あれだけのことで、ここまでキレる? じわじわといかりがこみげた。よるになるとねむれず、かなしみもせてきた。

     すう日間じつかんわたしかんがえにかんがえ、メールをいた。「つぎはどんなかえしがくるかな?とためすようにしつこく連絡れんらくしていたかも。ごめんね」

     よる返信へんしんがきた。「オレの都合つごうでいやだとおもうことをけるのもちがうから。わないってだけだとおもう。あやまってもらう必要ひつようはない」

     謝罪しゃざいは、かえされた。

      + + + +

     「みあわない会話かいわと、ある過去かこについて」は、気付きづかないうちにきらわれたひとが、そのことをなんねんもたってからげられる短編集たんぺんしゅうです。

     たとえば小学校しょうがっこう女性教師じょせいきょうしむかしおしのおにいさんが有名ゆうめいアイドルになり、テレビ番組ばんぐみ企画きかく学校がっこうたずねてきます。女性教師じょせいきょうしは、かれいであることをまわりのひとからうらやましがられますが、ってみると、「ぼくのことを、当時とうじはパッとしないだったって、あちこちでってるって本当ほんとうですか?」とややかにわれます。そして、おとうと先生せんせいによっていかにきずついていたかをかされ、記憶きおくちがいに混乱こんらんしていきます……。

     もしかしてわたしも、おもいもよらないことで太田おおたくんきらわれたのかもしれない。ふと、そうおもいました。

     きらわれた理由りゆうおしえてもらえないのはつらいものです。

     でも、わたしだっていやおもいをして、それを相手あいてつたえるにならないことはあります。

     人間にんげん関係かんけいって……正解せいかいがない。だから面白おもしろいし、ときに、むずかしいですね。


    みあわない会話かいわと、ある過去かこについて』

    辻村深月つじむらみづきちょ

    講談社こうだんしゃ 1620えん


     エッセイストの華恵はなえさんが、ほんにまつわるおもきなほん紹介しょうかいします

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