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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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1カ月前の2月25日、米ニューヨーク州のカナダ国境に近い町で…

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 1カ月前の2月25日、米ニューヨーク州のカナダ国境に近い町で日本人ジャーナリストが客死した。元共同通信ワシントン支局長の松尾文夫さん。享年85。取材旅行先のホテルで就寝中、息を引き取った▲役員などを経て退職後、70歳を前に現役復帰したのは、日本は真の「戦後和解」を終えていない、戦争経験世代として残された課題を成し遂げねばという執念だった。日米両首脳が相互に広島と真珠湾で死者を弔う「献花外交」の提唱は見事10年越しで実を結ぶ▲80歳を過ぎて韓国語を学び始めた。一番近い隣国を「皇民化」した傷の修復を次のテーマと見定めたからだ。1905年、桂太郎首相とタフト米陸軍長官(後に大統領)が互いのフィリピン領有と韓国併合を承認した秘密協定こそ日中・日米戦争へつながる原点と見ていた▲岡田啓介首相の秘書官だった祖父は、2・26事件で身代わりに射殺された陸軍大佐。最も幼い記憶は、祖父の葬儀へ向かう途中、軍人だった父親の任地・中国から列車で朝鮮半島を縦断した時に見た日本統治下の朝鮮の光景だったという▲日韓関係が急冷化した昨年、約20年ぶりに訪韓した時の取材記は「韓国とまず静かに接することから始めよう」と呼びかけている。65年日韓基本条約や2015年の慰安婦問題合意は守られるべきでも、高飛車に突き放す態度を戒めた▲天皇陛下と学習院高等科・大学を通じた学友で、親交は続いていた。外交論も交わしたらしい。命日は、日本時間だと2月26日に当たる。

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