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中村桂子・評 『進化の意外な順序 感情、意識、創造性と文化の起源』=アントニオ・ダマシオ著、高橋洋・訳

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 (白揚社・3240円)

身体なくして心始まらず

 著者は、感情や意識など、人間とは何かを知るうえで重要なテーマを考え続けている神経科学者、神経科医である。人間に注目すると、言葉、社会性、知識、理性などに眼(め)が向くが、著者は、それらを動機づけ、結果をチェックし、必要な調整を行っているのは感情であることに気づいた。そこで、「これまでその働きに見合うだけの注目を浴びて来なかった」感情を基本に人間について考えていくのである。それが示された部分を少し長いが引用する。<人間が持つ感情の本性と影響に関するストーリーを語ろうとしたとき、私は、心や文化に対する私たちの考えが、生物学的な現実に即していないことに気づいた。私たちは、生物が見せる、社会環境における知的な振る舞いが、神経系に支援された先見の明、熟慮、複雑性に由来すると想定している。しかしその種の振る舞いが、生物圏(バイオスフィア)の夜明けの時代に存在していたバクテリアのような単細胞生物が備えていた簡素な装置にその起源を持つ可能性があることは、今や明らかである>。原初の生命体からの連続性の中で、心や文化を語るという新しい視点を出すという思いから、表題に「意外」がつけられている。しかし、評者の立場(生命誌)はこれを意外でないと見てきたので、神経科学からのこのアプローチに大いに関心を抱いた次第である。

 著者は「ホメオスタシス」に注目する。これは通常「恒常性」と訳され、「平衡」「バランス」に注目するが、著者は「単に生存のみならず繁栄を享受し、生命組織としての、また生物種としての未来へ向けて自己を発展させられるよう生命作用が調節される」ところが重要であるとする。ここでの繁栄とは、「生存に資するより効率的な手段の確保と繁殖の可能性の両方を意味する」。つまり、生命体の調節は非常に動的であり、近年出され…

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