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記者のこだわり

準強姦無罪判決のなぜ その経緯と理由は?

福岡地裁久留米支部=福岡県久留米市で2019年3月25日午後2時19分、安部志帆子撮影

 福岡地裁久留米支部で今月12日に言い渡された準強姦(ごうかん)事件の無罪判決が大きな反響を呼んでいる。判決は「女性が抵抗不能の状況にあったとは認められるが、男性がそのことを認識していたとは認めることができない」として無罪の結論を導き出したが、ネットでは「こんな判決がまかり通るのか」「男性が『レイプだ』と思っていない限り、罪にならないってこと?」などと批判や疑問が相次いでいる。どんな理由で今回の判決は下されたのだろうか。【安部志帆子/久留米支局、平川昌範/西部報道部】

飲み会で泥酔

 判決によると、事件は2017年2月に起きた。福岡市内の飲食店でスノーボードサークルの飲み会が開かれ、20代の女性は友人と一緒に午後11時ごろに来店。女性はそのサークルのイベントや飲み会に初めて参加したが、「罰ゲーム」でショットグラスに入ったテキーラを数回一気飲みさせられたり、カクテルを数杯飲んだりした。その後、中央フロアのカウンター席で眠り込んだまま嘔吐(おうと)し、仕切り扉によって区切られたソファフロアに運ばれた後も眠り込んでいた。

 一方、無罪判決を受けた40代の男性は午前0時ごろに来店。女性とは初対面だったが、午前5時40分過ぎにソファで女性と性交し、少なくとも4人以上が様子を目撃した。その後、女性は別の人物から体を触られた際に「やめて」と言って手を振り払い、声を出して泣き、友人と店を出た。女性は翌日夜にサークルのLINEグループを退会した。

「女性は抵抗できない状態にあった」

 男性は逮捕され、準強姦罪(刑法改正で現在は「準強制性交等罪」に名称変更)で起訴されて裁判に。準強姦罪を定める刑法178条は「人の心神喪失もしくは抗拒不能(抵抗できない状態)に乗じ、または心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせて、性交等をした者」としており、刑法が原則とする故意犯(自らの行為の犯罪性を自覚した上で行う犯罪)とされることから、争点は(1)女性が抵抗できない状態にあったかどうか(2)女性が抵抗できない状態にあったことを男性が認識していたか――の2点だった。

 そして判決。福岡地裁久留米支部の西崎健児裁判長は、争点(1)について、「カウンターで嘔吐しながらも眠り込む深い酩酊(めいてい)状態にあり、その後も無防備なまま眠り続けていたことから、飲酒後約1時間半経過していたとしても、女性は抵抗できない状態にあった」として、「抵抗できない状態にあったとはいえない」とする弁護側の主張を退けた。

「女性が合意していると勘違いしていた」

 一方、争点(2)については、「女性は目を開けたり、大きくない声で何度か声を発することができる状態にあり、それほど時間がたたないうちに別の人物から体を触られた時に『やめて』と言って手を振り払ったことから、飲酒による酩酊から覚めつつある状態であったといえ、外部から見て意識があるかのような状態だったと考えられる」と指摘した。

 そのうえで「サークルのイベントではわいせつな行為が度々行われていたことが認められる。男性はこの飲み会で安易に性的な行動に及ぶことができると考えていたとうかがわれ、女性から明確な拒絶の意思が示されていなかった」として「女性が許容していると男性が誤信してしまうような状況にあったということができる」と判断。故意ではなく、<女性が合意であると男性が勘違いしていた>という論理で無罪という判決に至った。

 判決はまた、「飲食店内で他者から見られる可能性があり、警察に通報される危険性もある中で、同意がないとか、抵抗できない状態にあると認識したうえで男性が性行為に及んでいたとはにわかに考えにくい」として、現場の状況も判断材料の一つとした。

 検察側は26日に控訴した。

性犯罪の罰則強化と非親告罪化を柱とする改正刑法は全会一致で可決、成立したが……=参院本会議場で2017年6月16日午後5時42分、川田雅浩撮影

ツイッターで批判や疑問相次ぐ

 毎日新聞がこの判決を報道後、ツイッターでは「意味がわからない。男性が『これはレイプだ』と思っていない限り、罪にならないってこと?」「この判決はすごいぞ。たとえ嘔吐するまで飲まされても、明確に拒絶の意思を示さなければ性的行為に同意したとみなされるらしい」と批判や疑問が相次いだ。ジャーナリストの津田大介氏は「マジでヤベえなこの国……」と書き込み、ブロガーで作家のはあちゅう氏も「嘔吐して寝てたら休ませてあげるのが普通では」とツイート。弁護士からは「この理屈たまにある。もはや法の不備では?」「立法の問題として過失犯規定も設けるべきではないかと思っている」という指摘や「短文の新聞記事だけを見て判決の認定事実を批判すべきでない」との声も出た。

「状況を精査すれば違った判決の可能性も」

 では専門家はこの判決をどう見ているのだろうか。

 元刑事裁判官の陶山博生弁護士(福岡県弁護士会)は「女性は抵抗不能となるほど酒に酔っているのに同意のそぶりを示せるわけがない。論理的に苦しい判決」と首をかしげる。一方で「今回は男性の弁解を崩すに足る証拠が乏しかったのだろう」とも指摘。飲食店に居合わせた人たちの動きや女性のその後の行動などを詳しく調べれば、違った判決になっていた可能性もあるとみている。

 「古い刑法の考え方に基づく判決だ」と批判するのは甲南大の園田寿教授(刑法)だ。刑法38条は「罪を犯す意思がない行為は罰しない」としており、今回の判決も「女性が許容していると誤信してしまうような状況にあった」として男性の故意を否定した。だが、園田教授は「被告側が同意の存在を誤信したことについて合理的に説明できなければ故意犯と認定すべきだ。そうでなければ、身勝手な誤信は全て無罪になってしまう」と主張する。

同意のない性行為を巡る各国の法制度

「検察官が証拠を示せなかった結果」

 一方、性犯罪事件の被告の弁護を多く手掛ける奥村徹弁護士(大阪弁護士会)は「女性が明確に拒絶しなかったとする男性の説明について、検察官がはっきりと否定する証拠を示せなかった結果だ」と指摘。「同種事件の裁判例も踏襲しており、手堅い手法で事実認定している。立証が不十分であれば無罪となるのは当然だ」と評価する。今後、検察側が控訴した場合、どのように追加の立証をするかにも注目したいとする。そのうえで「今回の判決のポイントは男性の認識についての法的評価であり、性犯罪事件特有の問題ではない。ネットの記事だけで判決の是非を論じるのは自由だが、無罪判決を受けた男性への配慮も必要だ」として冷静な議論を求めている。

「『故意』かどうかで判断するのは疑問」

 性暴力の被害者支援に取り組む人たちなども関心を持ってこの判決を見ている。

 「性暴力禁止法をつくろうネットワーク」の周藤由美子さんは、性暴力を裁くのに「故意」があったかどうかを判断材料としていることに疑問を呈す。「『相手が嫌がっていると気づかなかった』『嫌なのに抵抗できる状態になかったとは思わなかった』と加害者側が言ってしまえば罪に問われなくなる可能性がある。性暴力の加害者は自分が犯罪行為を行っていると認識していないことも多い。性暴力加害者の傾向を理解せずに、裁判官が『常識』で判断すると誤った結論に至ってしまう可能性がある」

 周藤さんは「性的な行為について相手の同意がなければ性暴力になる可能性があるという認識が日本ではまだまだ共有されていない。同意のない性行為が強姦であるとして処罰されるように刑法を再改正するとともに、『故意』があったかを問うのではなく、きちんと相手の意思を確認しなかった『過失』があるとして罪に問えるよう法律を改正する必要があるのではないか」と訴えている。

欧米諸国では「同意のない性行為は性暴力」

 諸外国の性暴力を巡る法制度に詳しい大阪大の島岡まな教授(刑法)は出張先のフランスで今回の判決を知った。「読んでいてこちらが恥ずかしくなるような遅れた女性差別社会、遅れた裁判官意識で、周回遅れの日本の現実を突き付けられたようだ」

 島岡教授によると、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツなどの多くの国では「同意のない性行為は性暴力」との前提があり、スウェーデンでは過失強姦罪が新設されたという。一方、日本では「女性はウソをつく」という性的偏見があるために被害者証言の信用性が問題とされがちで、「『抵抗しない女性が悪い』という発想から脱することができていない」と指摘する。

 <あべ・しほこ 長野県南木曽町出身。2015年入社。大分支局を経て、現在は久留米支局で警察、司法、スポーツ、行政を担当。性暴力、防災行政、外国人技能実習生の取材に力を入れている>

 <ひらかわ・まさのり 2009年入社。熊谷支局、さいたま支局、下関支局を経て、現在は福岡報道部。17年4月から司法を担当し、刑事、民事を問わず幅広く取材している>

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