メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ポットの中は今…

アメリカの子守「ナニー」の現状(2) 広がるナニーシェア

自宅勤務の際は、リビングで仕事をしていたというリサ=バークリーで2月、石山絵歩撮影
息子と遊ぶリサ=バークリーで2月、石山絵歩撮影

 私は現在、フルブライト奨学金のジャーナリストプログラムで南カリフォルニア大学に在籍し、移民の家事労働者の研究をしています。家事・育児を家族以外の人が担うことが、これまで家事労働の主な担い手となってきた女性の生き方にどのように影響しているかを研究しています。

     研究のきっかけは、日本で多くの働く女性が子育てや介護を理由に退職している現実を目の当たりにしたことでした。このことについて多くの友人は、「だからこそ今、外国人の担い手が必要なんだ」と指摘しましたが、外国人実習生や、経済連携協定(EPA)の外国人看護師・介護士候補生を取材してきた私には、その言葉は傲慢に響きました。日本にやってくる外国人の家族や生活には全く思い至っていないように聞こえたからです。どうしたらすべての人の働く環境を向上させられるのか。多くの移民家事労働者がいるアメリカはどうなのか。この答えを求めて、現場の声を取材しています。

     前回は、アメリカに多くいる移民ナニー(子守)の声を紹介しました。今回はナニーを雇う側に焦点を当て、フルタイム職場復帰にあわせて二つの家族で1人のナニーを雇うナニーシェアを始めたリサ・レイドローさん(33)を取材しました。子育てをしながら働くアメリカの女性は、いま何を感じ、何を求めているのでしょうか。

    キャリアを諦めないためのナニーシェア

     建設会社で働くリサは1歳の男の子の母です。出産前日から約6カ月の産休・育休後、8カ月の時短勤務と1カ月の自宅勤務を経て3月にフルタイム復帰しました。勤務時間は午前8時からですが、息子のお昼ご飯の準備などのため6時半に起床し7時15分には家を出る日々です。

     子供が大きくなるまでは仕事から離れ、稼ぐのは夫に任せて自分は専従で家事・育児をすることも考えましたが、知り合いの先輩ママたちから「5年も6年も職場から離れたら、元のポジションには絶対に戻れない」と聞き、復帰することを決めたといいます。

     「給料もポジションも低いところから始めて、ようやくアシスタントプロジェクトマネジャーになったの。悩んだけれど、今はキャリアの階段を駆け上がっている重要な時期にあるんだって気付いて、このまま駆け上がり続けようと決めたの」

     子育てと仕事の両立は簡単ではありません。リサが選んだのは、2家族でナニー1人を雇って両方の子供を見てもらう「ナニーシェア」です。過ごす場所は家族の話し合いで、週3日はこちらの家族の自宅、週2日は別の家族の自宅などと決めることができます。負担する金額が1家族で1人のナニーを雇うよりも少なくなることや、他の子供と一緒に過ごすことで社会性や協調性が身につけられることなどから、アメリカ各地で広がっているスタイルです。

     しかし、負担する金額が少なくなるとはいえ、決して安くはありません。職場復帰を決めたリサが保育所などを巡って調べてみると、利用可能な範囲にある保育所の保育料は最も安くて年間2万ドル(約220万円)でした。生後4カ月から預けられますが、8人の子供に対し3人の保育士しかいないことが気になったといいます。ナニーを雇うとなると最低でも5万6000ドル(約620万円)はかかりますが、二つの家族でシェアするなら2万8000ドル(約310万円)です。「自分の家族だけでナニーを雇うのは本当にお金がなければできない。でも小さい子供たちは子供だけでは遊べないから大人から気に掛けてもらうことが必要だと思うの。そう考えると、保育所よりナニーシェアがいいと思った」のだと言います。

    簡単ではないシェアの相手探し

     しかし、ここで壁にぶち当たりました。リサは小高い丘に住んでおり、ナニーシェアを自宅でするとなると、別の家族に丘の上まで来てもらうことになります。「多くの人は丘を下っていく方向に仕事があるから、誰もわざわざここまで来たくないでしょう(苦笑)」。丘のさらに上に住んでいる人に聞くと、シェアする相手を見つけられないから自分たちだけでナニーを雇っていると言われたといいます。「経済的な余裕があればいいけれど、それは無理だから……」

     リサは、2カ月の間にナニーとシェア相手の家族計20人近くに会いました。そして最終的に、すでにナニーを雇っているけれどシェアを希望している家族の自宅で週5日見てもらうことを決めました。リサが条件としていたのは、ちょっと自宅に立ち寄って会話をし、お互いのことを話し合える家族。ナニーシェアの中で気になることも気軽に言い合える関係になれること。幸運なことに、家族で遊びに行けるような人を見つけることができましたが、自宅近くでという限定された範囲で探すのは簡単ではありません。

    ナニーのおかげで仕事ができる

     リサが住むエリアで働くナニーのほとんどが外国人です。リサの子供らのナニーも、基本的にはスペイン語しか話せません。リサは、子供が他の同年代の子供と交わって楽しく遊べる3歳ごろには息子を保育所に入れようと考えていますが、それまではナニーを雇い続けるつもりです。

     ナニーへの支払いは1週間に540ドル、リサの1週間の給料の半分に当たります。「決して安くない。それでも自分の子供を見てくれている。彼女自身がいい人生を送るために十分なお金を支払いたいし、だまされていると思ってもらいたくないから、フェアな金額だと思っている」といいます。

     それに何よりも、ナニーがいることでリサは仕事に集中できるといいます。ナニーは、携帯電話のメッセージに毎日、子供の様子を写真付きで送ってくれます。「一日中子供が大丈夫かどうか心配しなくて済む。ナニーは仕事に集中できる時間を作り出してくれている」

     リサの会社も職場復帰を支援してくれています。リサの会社は従業員100人以下の会社ですが、男性が圧倒的多数。産休を取ったのもリサが初めてで、産休に必要な書面も、会社と一緒になって原型を作り上げました。

     会社は週8時間の時短勤務や自宅勤務の仕組みを作り、会社での時短勤務中はリサのために「母乳搾乳部屋」を用意しました。キッチンの一角ですが、午前9時半、午後1時、午後3時半と1日3回、30分間は他の人が入れない形です。リサはもうこの部屋を使っていませんが、リサと会社が作り上げた産後の職場復帰支援の仕組みは、後に続く同僚にも引きつがれることになりました。

    「自分自身であるために」仕事を続けた母が理想像に

     アメリカの法律が定める産休は無給の12週間です。それ以上は企業努力にゆだねられています。「子育てに理解のある会社は増えてきているけれど、自分がやってきたこと、やりたいことと同じ分野にそうした会社があるとは限らない。私の会社が理解を示してくれたことは本当にありがたいことだけど、会社の努力だけに頼らず、女性が働き続けられるようにしなければ。どの会社で働くお母さんも同じレベルのサポートを受けられるような経済的支援や働き方の見直し、行政レベルの改革が必要だと思う」とリサは指摘します。

     リサの知り合いには、経済的な理由から共働きを選ぶ家族も多いそうです。「そうした友達は会社でひそかに泣いている。子供のそばにいたいけど生活にはお金が必要だから働くのだ」といいます。「たとえば、家にいたい人が補助金をもらえるような仕組みを作って、近所で働きたい人はその人に預けられるというような新しい取り組みがあればいいなと思う」

     リサが働き続ける理由は、「キャリアを積んで、自分にずっと自信を持っていたいから。キャリアがある両親は子供にとっても誇らしいと思うから」です。建設現場を訪れてさまざまな人に出会えること、一つのプロジェクトが終われば、次は全く違ったプロジェクトに身を置くことで新しい自分に挑戦できるところが仕事の魅力で、職場復帰後、新しいプロジェクトに関わるのが楽しみだといいます。

     リサにとっては、専従で育児と家事を続けることは精神的にも肉体的にも大変なことでした。「たとえば5年間、家事育児に専念した後に仕事に戻って、一から仕事を始めることになったとき、そのことで子供を責めたりしたくなかったの。いつも過去を振り返って『私はもっとできたはずなのに』なんて言うようなママになったりはしたくなかったの」

     会社では働く母親のパイオニアであるリサの理想像は自身の母親です。リサの母は日本人で、大手日系メーカーのマニュアルの翻訳家をしています。週3日は会社で、週2日は自宅で働くスタイルで子供を育て上げ、現在も働き続けています。

     母は「子供ができたとしても、自分自身を尊敬できるように、自分自身であるために、仕事を続けることが大事」と自ら実践してきたことをリサに教えました。その母を尊敬するからこそ、自身も同じような生き方を目指したいのだといいます。

    女性だって子供とキャリアのどちらも諦めたくない

     リサに初めて会ったのは、ナニーシェアに関するイベントでした。リサは、自身で作り上げたコスト比較表、ナニーシェアのために必要な「やることリスト」のファイルを広げて、イベント主催者に積極的に質問していました。仕事に復帰する不安や期待、エネルギー、そして子育てもしっかりやりたいという気持ち。さまざまな思いが入り交じって必死な姿が同世代の自分の友人たちの姿と重なり、共感を持ちました。

     「仕事でいつかはプロジェクトリーダーになって成功したいし、自分なりのいいママでありたい」。リサの言葉は、働きながら子育てをしているどの国のお母さんからも聞く言葉です。

     「子供が生まれても、男性は自分のキャリアを諦めない。私だって仕事も子供も、両方諦めたくない。男性ができるのに、なんで女性ができないことがあるの? 女性だからといって、どちらかを選ぶべきではないよね」

     インタビューの最後にそう話していたリサ。その言葉を実現するために、リサをはじめ、多くの働くお母さんやその家族がどれだけの隠れた努力をしているのかと思うと、胸をうたれます。そして一個人、一企業の努力や強さに頼るのは、とうに限界にきていると感じざるをえません。【石山絵歩】

    石山絵歩

    1984年、東京都生まれ。上智大卒業後、2008年に毎日新聞社入社。岐阜・愛知県警、東京地検担当を経て、東京地・高裁で刑事裁判を担当。事件取材の傍らで、経済連携協定(EPA)によって来日したフィリピン・インドネシアからの看護師、介護士候補生などの取材を続ける。2018年8月よりフルブライト奨学金ジャーナリストプログラムでUSCにて研究中。

    おすすめ記事

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 池袋暴走 元高級官僚だから? 「なぜ運転手が逮捕されないのか」疑問の声噴出
    2. 池袋暴走、ドラレコに音声 87歳男性「あー、どうしたんだろう」同乗の妻の問いに
    3. 結婚できない男 阿部寛主演ドラマが13年ぶり復活! 続編が10月期放送
    4. 政治 交わらない枝野氏と玉木氏 自民「1強」の責任、野党にも
    5. 国民民主党、自由党と合併で正式合意 自由は解散

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです