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東京へ ともに歩む

毎日新聞

音を頼りにプレーするブラインドサッカー日本代表の川村怜(右端)=東京都品川区の品川区立天王洲公園で2019年3月24日、丸山博撮影

Field of View

「音と信頼関係」で成立するブラインドサッカーの世界

 日本代表の背番号10を背負う川村怜が強豪スペインを撃破するゴールを決めたのは、0―0で迎えた後半9分のことだった。

     3月21日に東京・品川区立天王洲公園で行われた視覚障害5人制サッカー(ブラインドサッカー)のワールドグランプリ1次リーグ。2020年東京大会でパラリンピックに初出場する日本が、12年ロンドン大会銅メダルのスペインを迎えた一戦で、川村は体勢を崩しながらも決勝点をマーク。満員の観客席からは、169センチの小さなエースに大声援が届けられた。

     視覚障害のあるフィールドプレーヤー(FP)4人とGKの5人で一つのチームを構成するが、FPは公平を期してアイマスクの装着が必要だ。人間は外界からの情報の80%以上を視覚から得ているともされるが、その視覚情報がない中で、なぜ川村はスーパーゴールを決めることができたのか。

     その秘密は、「音」にある。ブラインドサッカーのボールの中には、鉛が仕込まれており、転がると「シャカシャカ」と音が鳴る。ボールを持った相手に向かって行く時には衝突を避けるため、守備側が「ボイ」と声をかけるルールもある。サイドからは監督がスペースの空き具合などの情報が与えられ、進入経路をイメージできる。

     この場面では高田敏志監督から「縦が空いている」と指示が出ていた。川村は右サイドを突破してから、内側に切れ込んでシュートに持ち込んだ。相手ゴール裏には「ガイド」と呼ばれるメンバーもいてゴールまでの距離や角度が指示される。音に耳を傾ける選手の妨げにならないよう、プレー中は音を出す応援はできない。

     日本ブラインドサッカー協会は、そんなブラインドサッカーの世界を垣間見られる体験プログラム「OFF TIME」を実施している。1人でも参加OKと知って、仕事帰りに行ってみた。

     アイマスクをすると、シンプルな準備体操でさえ、体がぐらつく。バランスがうまくとれなくなるのだ。ボールを追いかけようとしても、恐怖感で腰が引ける。視覚情報を遮断されると、こんなにも心細くなるのかと、がくぜんとした。

     だからこそ、周囲の温かい励ましやアドバイスが身に染みた。学校の体験型授業や企業研修にも赴く日本代表の寺西一は「周りとの信頼関係なしには成立しないのがブラインドサッカー」。友だちの声を信じて夢中でスイカ割りをしていた頃のような、不思議な時間だった。【高橋秀明】

    高橋秀明

    毎日新聞東京本社運動部編集委員。1968年、東京都生まれ。1991年入社。京都支局、鳥取支局を経て、大阪、東京運動部で野球、大相撲、柔道、レスリング、ニューヨーク支局で大リーグを担当。アテネ、トリノ、北京の五輪3大会を現地取材した。2018年4月からパラリンピック報道に携わる。最近の趣味は畑いじり。