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欧州ニュースアラカルト

EU離脱 国外で暮らす英国の若者はいま何を思う

ブリュッセルのEU本部前に掲げられた英国旗=八田浩輔撮影

 3月29日に予定されていた英国の欧州連合(EU)離脱は、少なくとも4月12日までは延期されることになった。しかし英政界の混迷は一層深まり、離脱問題がどのような結末をたどるのか不透明な状況は変わらない。生まれた時から「EU市民」だった若者たちは今、何を思うのか。ベルギーの大学に在籍する英国人たちに会いにいった。

EU加盟国の市民権取得を目指す英国人

 「ベルギーの市民権を申請して、卒業した後もここに残るつもりです」 ルーベン・カトリック大学(KUL)の大学院博士課程に在籍するヘイリー・ウォーカーさん(31)は打ち明けた。

「ベルギー市民権を取得したい」と話すヘイリー・ウォーカーさん=ブリュッセルで、ヤーロー・マナート撮影

 EU加盟国の国籍を持つ「EU市民」は域内を自由に移動し、居住し、働くことが認められている。これまで享受してきた権利を失いたくない英国人の間で、滞在するEU加盟国の市民権を申請する例が相次いでいる。

 ベルギーでは2018年だけで1028人の英国人がベルギー国籍を取得した。17年は1381人。離脱を決めた国民投票(16年6月)の前年と比べて10倍近い数字だ。EU加盟国の出身者は、5年以上の在住期間や一定の言語能力などの要件を満たせば比較的簡単に市民権を得ることができる。ヘイリーさんは残り18カ月で要件の一部を満たす。「市民権を得るまでの間が空かないように離脱延期の期限は長い方がいい」と話す。

 EUは今月21日の首脳会議で、英下院で近く行われる離脱合意案の採決が否決された場合、4月12日より前に新たな離脱計画を示すか「合意なき離脱」を選ぶかを決断するよう英国に迫った。「合意なき離脱」の谷底へと転落する断崖が少し遠くなっただけで、秩序ある離脱に向けた展望が開けたわけではない。

 「50年も続いた社会・経済統合を解消することの意味を多くの人が過小評価している」とヘイリーさんは言う。「合意なき離脱」は、彼女のように大陸欧州で暮らす英国人の日常生活を変える。

 一つの例が医療費だ。EU市民は域内共通の「欧州健康保険証」を取得すれば、特殊な医療を除いて、治療費は無料か少額で済む。しかし「合意なき離脱」の場合は、英EUの権利関係が停止する。このため、英国の国民保険サービス(NHS)は、EU域内に暮らす英国人に対し、「EU域外の第三国」に暮らす場合と同じ種類の旅行保険に加入することを勧めている。

 運転免許証も新たな手続きが必要になる。EU域内では移動の自由を促進する目的で、加盟国で発行された免許証は別の国でも効力を認められる。しかし「合意なき離脱」となれば、英国の免許証だけでEU域内を運転することはできず、「国際免許証」を申請したり、居住地の免許証に書き換えたりする必要がある。

 国民投票で残留に投票したヘイリーさんは、離脱の是非を改めて問う第二の国民投票の実施を望んでいる。「例え私が望むように離脱をやめることになったとしても、英国には取り返しのつかないダメージと分断が生じる。離脱がどのような結果になっても勝者はいない」

「どこに住んでいようが影響は避けられない」

 ローラ・モスさん(23)は、EUの留学支援プログラム「エラスムス・プラス」で英ブリストル大学からKULへ短期留学して数理工学を学んでいる。「学校生活への影響は心配していない」と語るように、「合意なき離脱」を迎えた場合でも、EU側の緊急対応計画によってプログラムが終わるまでは助成を受け続けられることが決まった。

「どこに住んでいようがブレグジットの影響は避けられない」と言うローラ・モスさん=ルーベンで、八田浩輔撮影

 EU域内の学生を対象に、学位や単位の相互認定を確立した「エラスムス・プラス」は、前身のプログラムを含めて30年以上の歴史があり、これまで900万人以上が利用した。今年3月現在では7000人の英国人がこのプログラムを利用してEU域内へ留学している。

 ローラさんもやはり国民投票では「残留」に投じた。しかし「過半数が『離脱』を選んだ以上はそれを尊重すべき」だと言い、2度目の国民投票には懐疑的だ。一方で、離脱後の欧州との関係のあり方を問う選挙はあっても良いと思っている。「(英国内で)離脱の条件やEUとの将来の関係について大きな意見の相違がある中で、自分たちの考えが反映されない点は悩ましい。私たちはなすすべがなく、意見が存在しないようなもの」

 今後、修士課程への進学を希望するが、懸念するのは学費の負担が大きく変わる可能性があることだ。一般的にEU域内の大学は、EUと「欧州経済地域(EEA)」(※1)の加盟国出身者には、域外国の出身者との間で異なる入学金や授業料を設定している。欧州委員会の資料によると、ベルギーの場合は域外国の出身者の学費は4倍近くに及ぶ場合がある。

 欧州の中でも学費が高額である英国の学生にとって、EU域内の他国にある大学や大学院に進学した方が経済的負担が軽いこともあった。それだけに自然な選択肢の一つだったが、その機会が縮小しようとしている。「仮に英国に(戻った後に)とどまるにしても、今後10年は大変な状況だと言われている。どこに住んでいようが影響は避けられない」。ローラさんは「ブレグジット(英国のEU離脱)は自分の将来を変えた」と断言した。

「きっと人生を変えるほどのことではない」

 離脱51.9%、残留48.1%の僅差だった国民投票では世代間の差がくっきりと表れた。世論調査によれば、18~24歳の有権者の7割以上が残留に投じた一方で、65歳以上では4割程度にとどまった。その後、200万人近い若者が新たに選挙権を得たとみられている。一部の残留支持者が「第二の国民投票」に希望を託す理由の一つに新しい有権者の存在がある。

「ブレグジットはきっと人生を変えるほどのことではない」と言うアレクシア・バレットさん=ルーベンで、八田浩輔撮影

 英カーディフ大学から「エラスムス・プラス」を利用してKULに留学してジャーナリズムを学ぶアレクシア・バレットさん(20)は国民投票当時、17歳で選挙権がなかった。「正直に話すと、当時はAレベル(大学入試)に一生懸命で、国民投票にそれほど関心をもっていなかった。テレビのニュースで見て『ああ、本当に離脱するんだ』という程度だった」

 アレクシアさんは「英国の中でも最悪の地域の一つで育った」と口にした直後に「最悪というほどではなくても、最高ではない地域」だと笑って言い直した。東部エセックス州の「極右支持の傾向が強い」とある街の出身。16歳から2年間アルバイトした地元のマクドナルドの同僚にはポーランドなどEU域内からの移民が多かった。「そこに地元の若い客が来て、カウンターで(店員の)英語が聞き取りにくいと『国へ帰れ』と騒ぎ立てる。そんな地域だった」

 国民投票で離脱を推進した政治家たちは、EU域内の東欧や南欧からの移民の大量流入が英国人労働者の賃金を押し下げたり、治安を悪化させたりしていると主張した。標的になったのは、人口の多いポーランド系だった。「地域の雇用が増えるのは良いことだと考えて、多くの人が離脱に投票した。私の両親も離脱に投票した。でも(離脱推進派が)約束したことは実際に起きなかった。『20年より後に変わる』と言う人はいるかもしれない。でも、私はそうならないと思う」

 それでもアレクシアさんは、ローラさんと同じ理由で第二の国民投票は行うべきではないと考えている。「いくつかの国に行ったり来たりすることが面倒になるだけ。きっと人生を変えるほどのことではない」【八田浩輔、取材協力=ヤーロー・マナート】

 ※1)EU全28カ国にノルウェー、リヒテンシュタイン、アイスランドを含めた31カ国から構成され、EUの単一市場にアクセスする権利をもつ。英国のメイ首相はEEAに残留することも拒んでいる。

八田浩輔

ブリュッセル支局 2004年入社。京都支局、科学環境部、外信部などを経て16年春から現職。欧州連合(EU)を中心に欧州の政治や安全保障を担当している。エネルギー問題、生命科学と社会の関係も取材テーマで、これまでに科学ジャーナリスト賞、日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞(ともに13年)。共著に「偽りの薬」(毎日新聞社)。Twitter:@kskhatta

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