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そこが聞きたい

アイヌ新法成立へ 白老アイヌ協会代理理事 山丸和幸氏

山丸和幸氏

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 法律として初めてアイヌ民族を「先住民族」と規定した新法=1=が今国会で成立する見込みだ。文化振興の拠点となる「民族共生象徴空間」(北海道白老町、愛称・ウポポイ)の管理や、地域振興のための交付金制度が盛り込まれた。法制定の意義や当事者の期待について、ウポポイの地元、白老アイヌ協会の山丸和幸代表理事(70)に聞いた。【山下智恵】

    誇り高き精神、若者に

    --アイヌ民族を支援する新法ができます。

     アイヌ民族が法律で先住民族と、初めて位置づけられます。2008年にアイヌ民族を先住民族と認定するよう求める国会決議がありましたが、国のアイヌ政策は、文化振興などを除いて法的根拠はありませんでした。積極的に取り組む国の姿勢を評価します。特に期待しているのは、法案に地域振興・創生が盛り込まれたことです。今年度の交付金として10億円の予算が盛り込まれています。計画の立案にも地域のアイヌが関わるとしていることが重要です。

     現状ではアイヌと和人が各地域で共に暮らしています。地域振興であれば、アイヌだけではなく地域みんなの生活が良くなる。地域の中でアイヌの理解が深まり、今を生きるアイヌが誇りを持って生きることにつながると思います。

    --新法で具体的な管理方法が定められるウポポイは白老町に整備されます。

     20年4月のオープンに向け、建設が進んでいます。建設地のポロト湖畔には、18年3月までアイヌ民族博物館がありました。1965年に市街地にあったコタン(集落)を移設したことから出発しました。アイヌにまつわる資料の収集、展示のほか、コタンを再現した野外展示では伝統的な儀式や踊りを披露しました。ピーク時には年間87万人が学習・研究だけでなく、観光客として訪れ、アイヌ文化に触れました。

     私が民族博物館で働いていた90年代には、「今も伝統的な家に住んでいるのか」「仕事が終わったら山に帰るのか」と聞かれました。アイヌの認識はその程度だったのです。「普段は皆さんと同じ生活です」と丁寧に説明しました。アイヌへの理解、民族に対する理解にも大きく貢献してきたと思っています。

     ウポポイは年間100万人の入場目標を掲げています。今の時代、アイヌを理解してもらうには観光が有効です。より多くの人に来てもらい、理解が広まればアイヌの生業にもなります。新法に盛り込まれた地域振興・創生の仕組みを利用していきたいと考えています。

    --新法で「アイヌ文化振興の拠点」と位置づけられるウポポイは、どんな施設になってほしいですか。

     儀式や踊りだけでなく、精神を継承する場になってほしい。私は解体業を営んでいますが、エカシ(長老)やフチ(おばあさん)に習ったアイヌの教えでは、家を解体する際、トイレを一番大事に処理します。大地を借りて自分の排せつ物を流す場所に最大限感謝するのです。今は水洗トイレですが、家を解体する際は、教えを実行しています。そうした生活に根付く教えや精神はあるけれど、全てが知られているわけではありません。

     生活の変化で精神の伝承が難しくなり、エカシやフチに話を聞いた伝承者や研究者も高齢化しています。彼らを巻き込み、若い人への教育システムを作ることが象徴空間の役割ではないか。若い人がアイヌの精神を自分のものとして初めて文化が復興したと言えます。

     観光も重要ですが、アイヌ民族博物館でも「アイヌを見せ物にしている」「差別を助長する」といった批判が根強くありました。サバンベ(男性がかぶる冠)やハチマキを巻いてカムイノミ(神への祈り)をするだけなら、見せ物で終わります。伝統や過去も含めアイヌへの理解を求める場と、今を生きるアイヌに対する伝承のよりどころの両面が必要です。

    --法案には、北海道アイヌ協会などが求めていた個人への生活・教育支援策は盛り込まれませんでした。

     北海道に和人がやってきて約150年。土地資源を収奪され、差別された歴史があり、差別が貧困を生み、貧困がまた差別を生むという連鎖が断ち切れない地域もあります。07年に国連総会が採択した「先住民族の権利に関する国連宣言」=2=では、収奪された土地の原状回復や補償、自治権確立などが盛り込まれていますが、日本では権利保障は曖昧です。日本も宣言に賛成した以上、宣言水準での補償を求めて、サケの捕獲など資源への権利回復や補償を求めるアイヌが多くいることも事実です。

     私はそこまで求めません。歴史に基づく施策は必要ですが、特別な年金など個人の生活支援や資源に対する権利の回復は、「逆差別」と言われかねず、国民の理解を得るのは難しい。それよりも、現行憲法の下で平等に扱ってほしい。アイヌでも意見が分かれる問題です。

    --法成立後、国が地域振興などの基本方針を策定します。

     地域振興への交付金は、どんな事業に利用できるか、詳細を心待ちにしています。白老アイヌ協会は4月から任意団体から社団法人になり、地域振興策の立案、街なかの拠点施設の整備などに参加する機運は確実に高まっています。

     国は、なぜアイヌを支援する法律が必要か、今後も国民に丁寧に説明する責任と義務があります。土地の収奪や差別など、アイヌにつらい思いをさせた歴史の責任を遅まきながら取っている。それを説明しなければ、「なぜアイヌを特別扱いするのか」と批判が出てしまう。過去に対する謝罪は求めません。ですが、アイヌの若者が自分の民族に誇りを持てる環境を作れるよう配慮してほしいです。

    聞いて一言

     持続可能性などに配慮した森林を民間団体が認定する森林認証の国内基準に近年、「先住民族の権利順守」が加わった。認証を得るには土地のアイヌを利害関係者と認め、草木採取などの習慣、祈り場の保全への配慮を話し合う必要がある。「北海道の土地とアイヌの関係を認め、慣習保全に協力してほしい」と北海道アイヌ協会は話す。国の責任は今後も変わらないが、法による一律の権利保障だけではなく、民間の活動による理解促進や権利回復が進むことも期待したい。


     ■ことば

    1 アイヌ新法

     正式名称は「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」。アイヌ関連の法律では、文化振興に特化した1997年のアイヌ文化振興法以来の制定。アイヌを理由とした差別の禁止や、サケの捕獲など資源採取に対する配慮、地域振興について自治体が作成する計画への交付金制度などを盛り込んだ。

    2 先住民族の権利に関する国連宣言

     2007年に国連総会で採決され、日本も賛成票を投じた。先住民族が収奪された土地の原状回復や補償、独自の教育制度の確立などが明記されている。宣言を受け、08年の衆参両院「アイヌ民族を先住民とすることを求める決議」がされた。だが、権利保障が不十分だと、国連の人種差別撤廃委員会は日本に対して複数回、勧告している。


     ■人物略歴

    やままる・かずゆき

     1948年、北海道白老村(現・白老町)生まれ。製紙会社勤務などを経て99年、アイヌ民族博物館理事長。2003年の退任後、解体業を営み、北海道アイヌ協会理事を務めた。1日から現職。

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