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井上靖の未発表作品刊行へ 「猟銃」誕生つながる作品も

井上靖

 作家・井上靖(1907~91年)が職業作家として認められる以前の未発表原稿が今月出版されることになった。95~2000年に刊行された新潮社版「井上靖全集」の編集過程で小説・戯曲の作品・草稿22編が見つかったが、編者の死などが重なり、長年日の目を見なかった。昭和の国民作家が文学修業時代にどんな修練と改作を重ねたのかを浮き彫りにする内容で注目される。【中澤雄大】

 井上は京都帝大入学(32年4月)前後から、「賞金目当て」で懸賞小説に応募したことで知られ、既発表作品は全集に収録された。

 一連の未発表原稿は、全集を監修した曽根博義・日大教授(故人)が作家の自宅で発見、現在は神奈川近代文学館に所蔵されている。00年の「井上靖展」(東京・世田谷文学館)で展示されたものの、そのうちユーモア小説「昇給綺談(きだん)」1編が図録向けに翻刻されただけだった。

探偵小説から時代もの、戯曲まで7編

 今回出版するのは同作を含む7編。複数の筆名を用いて、探偵小説から時代もの、戯曲まで多彩に書き分けた。刊行にあたって長男修一さんの娘婿で編集者の西村篤さんが10年前、曽根さんから「1冊にまとめてみては」と提案を受けて準備を進めたところ、曽根さんが7年後に死去。宙に浮きかけたが、井上靖研究会現会長の高木伸幸・別府大教授が編者の後を継ぎ、刊行にこぎつけた。「資料的価値を重んじ、一定のクオリティーに達する作品を収録するとの当初方針を貫いた」(西村さん)という。

 注目点は戦後唯一執筆した戯曲の収録と、文壇デビュー作「猟銃」に至る創作過程が確認できたことだ。

幻の戯曲「夜霧」も収録

「京塚承三」のペンネームで書かれた探偵小説「復讐(ふくしゅう)」の原稿用紙7枚目。何度も推敲(すいこう)した跡が見える。欄外には作品とは関係ない「ふみ子」「ふみ様」などの落書きがあり、ほほえましい=七月社提供

 井上は自筆年譜の48(昭和23)年7月の項に<戯曲「夜霧」を書く>と記したが、所在は長く不明。題名など冒頭部分は欠落していたが、内容などから同作と判断した。妻ふみさんを想起させる人物を登場させるなど、デビュー前の作家の心理状態などを考察する意味でも興味深い。また、探偵小説3作はいずれも愛の不毛を描いており、約20年後に発表した「猟銃」まで、モチーフが醸成されていったことが判明した。

 高木会長は「天性のストーリーテラーとみられた井上が実は相当の鍛錬を積んでいたことが分かった。後年の井上文学を予感させる表現が幾つも認められる。『猟銃』誕生を読み解く上でも貴重な手掛かりになる」と話す。「井上靖未発表初期短篇(たんぺん)集」は七月社刊(280ページ・2592円)。

収録される短編・戯曲

 <ユーモア小説>

 昇給綺談(きだん)

 就職圏外

 <探偵小説>

 復讐(ふくしゅう)

 黒い流れ

 白薔薇(ばら)は語る

 <時代小説>

 文永日本

 <戯曲>

 夜霧

主なペンネーム

 冬木荒之介

 澤木信乃

 岩嵯京丸

 冬木荒夫

 荒川遼

 城島靖

 京塚承三

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