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「平成」後、新聞は生き延びるのだろうか?

 「平成」が終わる。何となく寂しい。

     この30年余り、日本人は「何」を経験し「何」を学んだのか?「平成」は日本人にとって「愛すべき時代」だったのか?

     はっきり言って、複雑な思いだ。

    この30年は(大災害が続いたが)おおむね平穏だった。でも、“物書き稼業”の当方から見ると、悲しむべき「活字文化衰退」の時代だった。

    横浜ベイブリッジが開通した1989年、つまり平成元年、吉本ばななの「TUGUMI」が平成初のミリオンセラーになった。病弱な少女「つぐみ」が、夏に帰省してきた従姉妹の「まりあ」と遭遇した「あの日」の出来事を淡々と描く。この年の山本周五郎賞を受賞。英語などに翻訳され、各国でも高い支持を得た。

     吉本ばななは詩人・吉本隆明の娘。姉は漫画家のハルノ宵子。姉が絵がうまかったから「それなら私は文章だ!」と思い、5歳くらいから作家になろうと考えていたらしい。漫画家の姉より、小説家の妹の方が有名になった。というより、この頃はまだ「活字文化」の方が「漫画文化」より、商売になっていた。

     「平成」はさまざまなベストセラーを生んだ。平成11年「五体不満足 完全版」(乙武洋匡)、15年「バカの壁」(養老孟司)、17年「頭がいい人悪い人の話し方」(樋口裕一)、29年「九十歳 何がめでたい」(佐藤愛子)……。ミリオンセラーもあったけど、小説では、「火花」(又吉直樹)くらいではあるまいか。

     小説が爆発的に売れないと出版社は苦しい。小説家のステータスが下がり、漫画家が有名になったけど、トータルでは出版業は苦しい。「平成」は出版不況の30年だった。

    「新聞」も同じような運命をたどっている。

     「新聞」は売れない。国内の新聞発行部数は、かなりハイペースで減少を続け、日本新聞協会が公表している2017年10月の新聞発行部数は全国合計で4212万8189部。1年前に比べ、114万7958部減。2.7%のマイナスである。

    昭和の時代、新聞は「1世帯に最低1部」だった。毎日、朝日、読売、日経、サンケイの主要5紙に加えて、地元紙を読む「新聞マニア」まで存在した。ところが、17年には「1世帯あたり0.75部」まで落ちた。

    新聞人口は激減した。原因は誰でも知っている。インターネット、スマートフォンの普及だろう。

    毎月講読料を支払い、毎朝ポストに新聞を取りに行かなくても、スマホの画面では、24時間無料で、ニュースが流れている。「新聞不況」は「出版不況」より深刻だ。対策はほとんどない。新聞社は縮小再生産を選ぶ。夕刊をやめる新聞社が続出した。

     日本はまだ良い方だろう。ノースカロライナ大学チャペルヒル校(UNC)のメディア&ジャーナリズムスクールの「The Expanding News Desert」によると、廃刊、他紙との合併などで消滅したアメリカの新聞は約1800。内訳は日刊紙が60、週刊紙が1700。残っているのは日刊紙1283、週刊紙5829。米国全土3143郡のうち、約200の郡が「まったく新聞の存在しない郡」になり「週刊紙が一つだけ」という郡が1449。米国では、このような地域を「ニュース砂漠」と呼んでいる。

    世界に「紙の新聞を読んでいる人」は27億人。「電子版をデスクトップのパソコンで読む人」は約7億7000万人。まだまだ「紙の新聞」が主流だが、早晩、激減するだろう。

     事実、日本でも「新聞破綻」が現実になろうとしている。

     例えば、沖縄県宮古島市の日刊紙「宮古新報」。公称1万2000部の小さな地方紙が危機に直面した。宮古諸島では全国紙や琉球新報、沖縄タイムスといった県紙は空輸されてくるのだが、配達が午前10時ごろになってしまう。だから、地元印刷の「宮古新報」と「宮古毎日新聞」が必要だった。

     ところが、この冬「宮古新報」の社長が突然、労働組合に「会社清算」と通告。社員たちはこの通告を拒否し、自主的に発行を続け、トラブルになった。

     現時点では、新しいオーナーの手で発行されているようだが、この話を報道した東京新聞のデスクは「駆け出しの支局は三重県の尾鷲市だった。人口はすでに3万人を割っていたが、そこに南海日日と紀勢新聞という日刊紙が2紙あった。論調はときに対立しつつ、それゆえ地域の民主主義を支えていた。宮古新報の役割も同じだろう。新聞の灯を消してはならない」と書いている。

     宮古諸島では「新報」と言えば琉球新報ではなく宮古新報。「毎日」と言えば「宮古毎日新聞」。この2紙が、取材合戦で、購読者獲得で切磋琢磨。競い合っていた。この2紙があるから「島の民主主義」が保たれていた!と言ってもいいだろう(沖縄県では、沖縄本島、宮古、八重山と地域ごとに2紙ずつ発行され、競争原理が維持されていた)。

     全国紙だって苦しい。「紙媒体がデジタル化された」という単純な話ではないだろう。

     「ニュース砂漠」は人々から政治的関心を奪う。米国では、連邦議会の選挙でさえ「誰が立候補しているか?」を知らない有権者が増えている。米ニューヨーク・タイムズCEOのマーク・トンプソン氏は「紙からの収入が仮にゼロになっても利益が出るよう、デジタル購読を核としたビジネスモデルを構築しようとしている」と話している。「紙媒体」は無くなるのか?

     それどころか、新聞記者までいなくなるかもしれない。英フィナンシャル・タイムズのライオネル・バーバー編集長は「人工知能(AI)に記事を書かせる例も出てくるだろうが、ロボットが(名物コラムニストの)マーティン・ウルフの代わりを務めることはできない」と話している。我々「物書き」はAIと競争しなければならない。

     「平成」は活字文化衰退の時代だった。その後の時代で「新聞」は生き延びるのだろうか?

     でも、うれしいニュースもある。広島県尾道市に今年2月1日、新しい日刊紙「尾道新聞」が誕生した。社長の福井弘・尾道商工会議所会頭は「一時期、尾道には地元紙が4紙あったが全て姿を消した。開港850年など節目を迎える19年に新たな地元紙が必要と判断した」と話した。

    取材、販売エリアは御調・尾道・向島・因島・瀬戸田の尾道市全域。タブロイド判4ページ。日刊紙で火曜日から日曜日の朝刊を発行する。料金は月2000円プラス消費税。 「平成」の最後の年に、新しい新聞が誕生した。彼らと共に「新聞の可能性」を信じたいのだが……。(毎日新聞客員編集委員)

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