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沼野充義・評 『ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29』=ジェイ・ルービン編、村上春樹・序文

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 (新潮社・3888円)

「福袋」のような予期せぬ発見

 アメリカの日本文学者、ジェイ・ルービンが編纂(へんさん)した近現代日本小説選集である。もともと英語圏読者のためにペンギン・ブックスの一冊として英訳で出版されたものだが、それが言わば「里帰り」して日本版が出ることになった。

 この本のために、村上春樹が長い序文を書いている。彼は日本の近代・現代文学については詳しくないと謙虚に断ってはいるが、優れた作家ならではの緻密な読解が随所に光る。例えば、若い軍人の切腹をエロスと一体化させて描いた三島由紀夫の「憂国」について、「ひとつの想念の徹底した純化」は文学として評価できても、「想念を行為として純化させる」(つまり作家自身がハラキリをする)のは別のことだ、と言う。吉本ばななの独自性については、「文学とはこういうものだ--というような旧来の決めつけは、彼女の小説にはまったく無縁」だと評し、芥川龍之介の作風については、一貫して「暗闇の中に浮かぶ明かりの、短く儚(はかな)い美しさのようなもの」が見受けられるという印象的な比喩で説明する。

 序文はさておき、肝心のアンソロジーの中身はどうか? 大づかみに言えば、古くは国木田独歩の古典的名作「忘れえぬ人々」から、東日本大震災の被災地を描いた佐伯一麦の「日和山」までの、大きな幅がある。ただし日本の近現代文学をまんべんなく通覧しようという意図は、編者にはもともとない。じつはこれまでも日本近現代小説の選集が英語で出版されることは珍しくなく、英語原著の巻末には二二点もの先行アンソロジーのリスト…

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