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特集ワイド

進む高齢化 地方暮らしの「足」どう確保? 車を持たず、助け合いで 運転はリスク

LRTは路面からの段差がないため高齢者も利用しやすく、自動車に依存しない街づくりの切り札とも言われる=富山市で2016年9月1日、加藤佑輔撮影

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 地方都市での生活には自動車が欠かせない。「移動の足」としての利便性は疑う余地がないが、超高齢化社会に突入し、運転はリスクでもある。「地方創生」が提唱されて久しい今、あえてマイカーを持たずに生活する方法を考えた。【奥村隆】

 「地方が疲弊している重大な原因は、クルマに依存しきっている点にこそあるのです」

 この刺激的な駄目出しは、藤井聡・京都大大学院教授(都市社会工学)の持論である。地方創生には「クルマ依存症」からの脱却しか道はないと訴える。その理由はこうだ。

 モータリゼーションの進展で鉄道が寂れ、駅前商店街はシャッター通りになり、地元商業に大きな打撃を与える。一方、郊外に建てられ、広い駐車場が整備された大型ショッピングセンターには地元の住民らが集まるが、「地域外の大資本」によってつくられた店であり、利益の大部分は地域外に流出する。つまり住民の金が大都市に吸い上げられる構図で、地域経済はさらに疲弊する。地元自治体への納税額も減り、行政サービスは劣化する--。

 負のスパイラルから脱出する策はあるのか。藤井さんは著書「クルマを捨ててこそ地方は甦(よみがえ)る」(PHP新書)で、次世代型路面電車(LRT)を導入した富山市や、ローカル鉄道を再生して地域の足を確保した和歌山市など、各地の成功例を紹介している。また、毎週出演しているKBS京都のラジオ番組では「クルマに乗らずに歩きましょう」と頻繁に訴えている。

 経済面だけではなく「クルマ社会はロシアンルーレット」と事故のリスクも強調する。

 年間5000人が交通事故で死亡している現状を前提に、ドライバー1人当たりの事故発生率を割り出し、50年間運転し続けると仮定すれば、確率的には125人に1人が事故で人を死なせる計算になる。より確率の高い物損事故による経済的ダメージの恐れも常につきまとう。

 こう考えていくと、自動車利用のマイナスイメージが増大するばかりだ。運転しない生活は可能なのだろうか。

 特に高齢ドライバーは認知機能や瞬発力が低下する傾向があるため、全国の市町村が運転免許の自主返納を呼び掛けている。それでも、警察庁の運転免許統計(2018年)では、75歳以上の運転免許保有者のうち返納した人は4・9%にとどまる。

 この依存症からの脱却を試みたが諦めた人がいる。東北工業大名誉教授の山下三郎さん(84)だ。定年後、単身赴任先から前橋市に戻ってまず驚いたのは、自分で運転しないと買い物にも不自由することだった。

 自宅は、上越新幹線の高崎駅とJR前橋駅との間にある住宅街。周辺に農地はほとんど残っていない市街地でも、路線バスは高崎駅行きも前橋駅行きも1時間に0~2本。十分に予定を立てた上でないと、公共交通だけでは移動しにくい。やむを得ず日常的にハンドルを握っているが、家族からは「運転免許卒業」を促されている。週1回のヨガ教室通いは、知人に同乗させてもらうこともしばしば。さらに人口が減少すると、より不便になるのではと心配する。

 山下さんは「コンパクトシティーとかスモールタウンにして、徒歩圏で暮らしが成り立つようにする必要があります。でも地域ごとに事情が違うので難しいでしょう」と浮かぬ顔だ。コンパクトシティーというのは商業施設や病院、学校といったさまざまな都市機能を街の中心部に集め、自家用車に依存しない暮らしを目指す考え方だ。

 札幌市、仙台市、神戸市、北九州市などがコンパクトシティーを政策に掲げる。先行事例として注目されているのが富山市。中心部にはLRTが通り、北陸新幹線が金沢まで延伸したことで、市内の主な場所からは、富山駅で1回乗り換えるだけで東京まで行けるようになった。全国の自治体関係者による視察も相次いでいる。

 もちろん住民の理解や建設コストの問題、運行開始後に十分な利用者数が見込めるかの需要予測といった課題もある。宇都宮市では開業時期が当初計画から3年遅れ、前橋市でも構想段階で足踏みしている。

同乗、シェア 沖縄にヒント

 マイカーに依存せずに生活するヒントを、沖縄で暮らす人の話から感じ取った。

 「モノレールの駅から徒歩圏内に住めば、問題なく暮らしていけます」

 そう話すのは、那覇市中心部で学習塾を経営する依田徹さん(52)。実は、2011年の東京電力福島第1原発事故の後、東京都から家族3人で沖縄に移住してきた。学生時代から都内で過ごしてきたこともあって運転免許は持っていない。

 移動の足は専ら沖縄都市モノレール「ゆいレール」(那覇空港-首里の12・9キロ)。沿線には県庁や市役所、市立病院、高校があるほか、商業施設が集まる国際通りへのアクセスも便利だ。駅まで徒歩3分の自宅から普段は自転車で仕事場に通うので、不便は感じないという。

 「必要な時にはタクシーに乗ります。それに沖縄はコミュニティーが濃密で、人間関係が濃い。小学校の保護者同士のつながりが強く、同乗させてくれる人も多い。だから、一家に1台必要という感じになっていないのです」。互いに助け合う土地柄であることも、マイカーなしで暮らしていける理由の一つだという。

 依田さんの妻が免許を持っており、必要に応じて民間のカーシェアリングを利用している。自家用車を所有すると、自動車税や車検、保険、駐車場などの固定費が年間数十万円かかるが、カーシェアリングなら15分単位で使った分だけ支払うシステムのため無駄がない。「那覇では当面、マイカーを持つ予定はありません。長女が中学生になり、部活の対外試合とかで頻繁に必要になったら、その時にまた考えます」と話す。

 実際のところ「一家に1台」という高度経済成長期の常識から抜け出し、仲間と移動手段を共有することこそが、マイカーなしで生活していく鍵になりそうだ。

 前出の藤井教授は第2次安倍政権で内閣官房参与を務め、「国土強靱(きょうじん)化」政策の理論的支柱となっていた。全国に高速道路網を整備することで災害に強いまちづくりを実現しようとする考え方だ。消費増税を巡る意見の違いで昨年末に辞任したが、「脱クルマに関して、考えに変化はありません」と言い切る。カーシェアリングの発想は、コミュニティー再生の考え方とも一致する。「どんな状況にある地方においても、クルマとかしこく付き合いながら、可能な限り豊かな暮らしを目指すことは決して不可能ではないはず」

 移動手段の公共化を考えることは地域生活、さらには個人の生き方を見つめ直すことにつながるのではないか。

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