メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『座席ナンバー7Aの恐怖』『古書古書話』ほか

今週の新刊

◆『座席ナンバー7Aの恐怖』セバスチャン・フィツェック/著(文藝春秋/税別2250円)

 じつは飛行機に乗るのが苦手で、ずっと緊張して眠れた試しがない。そんな臆病者を、最高に怖がらせてくれるのが、セバスチャン・フィツェック『座席ナンバー7Aの恐怖』(酒寄進一訳)。

 評判になった前作『乗客ナンバー23の消失』の舞台は客船だった。閉鎖空間がサスペンスを生むという常道に、著者はさらにあの手この手で負荷を加える。旅客機に乗った飛行機恐怖症の精神科医の携帯に着信あり。出ると、娘の命が惜しくば、乗っている旅客機を墜落させろと言うのだ。

 タイムリミットは機がベルリンの空港に着陸するまで。娘はベルリンで男に拉致され、廃虚に監禁。医師の元カノは、必死で誘拐された医師の娘の行方を追い、機内では、正体の知れない謎とピンチの板挟みで、主人公は恐怖の断崖に!

 頼みのチーフパーサーは、主人公のかつての患者で心に傷を負っているというのだから、私はもう知らないよ。怖い怖い小説に、ちゃんと結末があってよかった。

◆『古書古書話』荻原魚雷・著(本の雑誌社/税別2200円)

 荻原魚雷『古書古書話』は、雑誌連載10年分を中心に、古本とのつき合いと、古本から学んだ話が大盤振る舞いされている。

 450ページ強のどこから開いても構わないが、たとえば古本への誘いは、フリーライターの大先輩・竹中労だった。「読むたびに、からだがかっと熱くなる」と言う。アナーキズムも奇人変人への嗜好(しこう)も、その後の人生も、竹中と古本屋通いが作り上げた。

 「別に誰に頼まれたわけでもなく、好きでやっている。好きでやっていることだからこそ、いいかげんなことは許されない」は、映画専門の古書店主のことを表した言葉だが、そのまま著者の信条になっていると、読者はすぐに気づくだろう。荻原魚雷は、空気のように古本を吸収する人である。

 扱う古本は、文学、実用書、漫画、音楽、将棋、野球、釣り、家事と幅広い。今はそこに「街道」が加わった。「人が歩いた後に道ができるように読書の後にも道ができる」とは名言である。

◆『山海記』佐伯一麦・著(講談社/税別2000円)

 佐伯一麦(かずみ)は仙台在住の作家。東日本大震災を経験した。しかし、『山海記(せんがいき)』の舞台は紀伊半島の山あいの村だ。震災と同じ年、和歌山を台風が通過し、豪雨が山の斜面を削った。災害は土地と風景を変え、人々の暮らしを変える。そのことを確かめるため、奈良県大和八木駅からバスに乗り、十津川村を目指す。日本一長い距離を走る、有名な路線バスだ。バス車中から、村々の名を確かめ、地誌と歴史に思いを馳(は)せ、同時に自分の過去をも振り返る旅。私小説というスタイルの黙示録。

◆『葛飾土産』永井荷風・著(中公文庫/税別1000円)

 永井荷風没後60年。荷風は麻布・偏奇館を焼かれ、戦後は千葉県市川へ身を寄せる。『葛飾土産(かつしかみやげ)』は、その時期に書かれた作品集。表題作を読むと、東京は焼き払われ変貌したが、市川に「むかしの向嶋を思出させるような好風景」を発見している。そして梅の花が閑却される風潮を嘆くのだ。荷風はそこに江戸を見ていた。古木や古碑を訪ね、水辺を歩く散歩者の姿が、この一編に映し出されている。その姿を「精神の脱落」と、厳しく切り捨てた石川淳「敗荷落日」を巻末に収める。

◆『「砂漠の狐」ロンメル』大木毅・著(角川新書/税別900円)

 第二次大戦のドイツ軍で、唯一の人気者がこの陸軍元帥。『「砂漠の狐」ロンメル』だ。北アフリカの戦線で、巧みな戦略で圧倒的強さを誇り伝説となった。たびたび映画化もされ、ジェームズ・メイソンが2度も扮(ふん)した。しかし大木毅(たけし)は、それらの英雄的神話を、最新の学説を元に検証し、疑義を唱える。88ミリ高射砲による水平射撃という戦法の独創性、あるいは連合軍のノルマンディー上陸を信じていたという説等。ヒトラー暗殺計画の真相は? 虚像で塗り固められた人物の実像を描き出す。

-----

岡崎武志(おかざき・たけし)

 1957年、大阪府生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。主な著書に『上京する文學』『読書の腕前』『気がついたらいつも本ばかり読んでいた』など

<サンデー毎日 2019年4月28日増大号より>

おすすめ記事

毎日新聞のアカウント

話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 大阪・吹田の拳銃強奪 飯森容疑者の父が関西テレビ常務を退任
  2. この世界の片隅に NHKで8月3日に地上波初放送 特番「#あちこちのすずさん」も
  3. 意識不明の巡査 手術で快方に向かう 拳銃強奪
  4. 井岡、日本選手初の4階級制覇 WBOスーパーフライ級王者に
  5. オアシスのとんぼ なぜ嫌韓は高齢者に多いのだろうか

編集部のオススメ記事

のマークについて

毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです