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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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異星人にも「顔」はあるだろうと言うのは…

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 異星人にも「顔」はあるだろうと言うのは米国の数学者ガードナーの著書「自然界における左と右」である。すむ星の環境を自由に動き回る動物の体は左右対称なのが合理的で、脳は地表から離れていた方がいい▲人間の目、耳、鼻のような周りの様子を把握する感覚器は左右一対ずつ脳の直近、体の前面に集まっていなければならない。異星人はかなり人間っぽいというガードナーの見立てだ。身体と顔の左右対称は進化した動物の基本らしい▲だが体の外面と違って内臓は左右非対称だし、利き腕などの非対称性もある。細かく見れば顔も右半分と左半分でかなり違う。誰でも右と左の顔半分の画像を処理してそれぞれ左右対称にすると、まるで別人のように見えるのに驚く▲フィルム写真の時代には、ネガを表裏逆に焼き付けて左右反転した写真を「裏焼き」と呼んだ。新聞では誤って「裏焼き」写真を載せると「おわび」を出したものだ。もちろん顔は左右対称だからといって、知らんぷりはできなかった▲まるで左右反転の裏焼き写真みたいだと騒動になった新5000円札の津田梅子(つだ・うめこ)の肖像である。財務省は「複数の写真を参考に作成した」と反論したが、なるほど髪形や顔の左右のバランスは30代の顔写真を反転させたような感じだ▲裏焼き風肖像が梅子像として定着していいのかとの声も出るのは、「問題ない」と突っぱねる政府の物言いへの反発もあろう。発行の際はいっそ「鏡に映った津田梅子」とでも説明をつけてはいかがか。

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