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毎日フォーラム・視点

ネットメディア「にほんごぷらっと」編集長 石原進

石原進氏

「共生社会」のインフラ整備 政治が主導し日本語教育の推進を

 新聞などマスメディアは、日々のほとんどのニュースを日本語で報道している。新聞社で日本語を「糧」とする仕事を30年以上続けながら、日本語について深く考えたことがなかった。ましてや、外国人のための「日本語教育」など頭の片隅にもなかった。

     そんな私が日本語教師やITの専門家など仲間3人と日本語教育情報プラットフォームという組織をつくり、ネットメディア「にほんごぷらっと」(http://www.nihongoplat.org/)を運営している。

     きっかけは、超党派の日本語教育推進議員連盟(会長・河村建夫元官房長官)の発足だ。設立総会が開かれたのは2016年11月。その数カ月前に議連設立の動きを知り、動向を注視していた。

     というのは、私はかつて、議員連盟に協力して歯がゆい経験をした覚えがある。自民党外国人材交流推進議員連盟が08年にまとめた「日本型移民政策の提言」だ。「移民1000万人受け入れ」のこの提言は党内外の強い反発を呼び、関連のシンポジウムには右翼団体が押しかける騒ぎもあった。「移民」という言葉がタブー視されていた。

     ただ、今回、議連が目指すのは日本語教育の法制化だ。超党派の議員が予想以上にスピーディーに参集した。そこに時代の変化を実感した。だったら議連の活動を情報発信しようと、まずはフェイスブックで「にほんごぷらっと」を開設。17年5月にはホームページも立ち上げ、議連の活動などを情報発信した。

     議連は省庁担当者や日本語教育関係の団体や研究者などのヒアリングを通じて日本語教育の現状や課題を吸い上げた。議員側からも「ばらばらに取り組んでいる省庁に横串を」「日本語がしゃべれない子供の対策が急務だ」など活発な議論が交わされた。

     議連は18年5月の第10回総会で法案の原案を作成。その後、衆院法制局の協力を得て条文化の作業を行い、12月の第11回総会に法案が提示された。

     法案の「目的」には「多様な文化を尊重した活力ある共生社会の実現に資するとともに、諸外国との交流の促進並びに友好関係の維持発展に寄与する」とある。法案は日本語教育を通して、外国人との「共生社会」と「諸外国との交流」の推進を目指している。

     また、日本語教育を国や地方公共団体の「責務」と明記。関係省庁が連携して取り組むための「推進会議」や、有識者による「専門家会議」の設置も規定した。日本語教育の対象としては、外国人児童生徒▽外国人留学生▽就労外国人▽難民▽地域(生活者として)の外国人▽海外の在留邦人--などを挙げた。

     法案の作成過程で、当初、全く予想していなかった事態が起きた。安倍晋三政権は18年6月に「骨太の方針」で「新たな在留資格の創設」を打ち出し、秋の臨時国会では在留資格「特定技能」を新設する入国管理法改正案などを野党の反発を押し切って成立させた。

     政府が「単純労働」だとして受け入れに慎重だった分野で、5年間で34万5000人の外国人が働くようになる。日本語教育の〝需要〟が大きく膨らむのは確実だ。

     外国人の受け入れ拡大を想定した政府の「総合的対応策」には、「放送大学の日本語講座のオンライン配信」「NHKの日本語教育コンテンツの充実」「夜間中学の教育活動の充実」などのほか、日本語教師の「新たな資格の整備」が盛り込まれた。安倍政権にとっても日本語教育が喫緊の課題になったのだ。

     在留外国人の増加とともに、ここ数年、日本語学習者、日本語教師が右肩上がりで増えている。文化庁の17年11月現在の調査では、日本語学習者は約24万人、日本語教師は約4万人だ。1990年に比べると4倍以上の数だ。

     留学生受け入れ時の日本語教育を担うのは日本語学校だ。大学、専門学校に進学する中学生のうち7割は日本語学校で日本語を学ぶ。しかし、日本語学校の教壇に立つ教師は、公的な資格を持っていない。

     日本語学校は文部科学省でなく、留学の在留資格を与える法務省の管轄下にある。文科省は学校教育法にない日本語学校は「学校」として扱わない。また、地域の日本語教育は、国際交流協会やボランティアによる「日本語教室」に頼っているが、その位置づけがあいまいだ。政府がとりあえず既存の放送大学、NHK、夜間中学を活用しようとするのは、日本語教育の体制整備ができていないからだ。

     政府の総合的対応策で日本語教師の「資格の整備」を打ち出したのは、日本語教育関係者にとって朗報だった。日本語教師の公的な資格の創設は日本語教育推進法案にも盛り込まれているが、政府は一歩先に手を打ったわけだ。

     しかし、課題はなお多い。「読み・書き」の能力をN1からN5にランク付けをする日本語能力試験(JLPT)は広く普及しているが、「話す・聞く」のテストの対応が遅れている。

     JLPTは留学生のための試験だ。このため留学生には主に受験のための日本語教育が行われている。一方でこれからより必要になるのは就労者や生活者としての外国人のコミュニケーション能力を測るための試験だ。

     そうした中で最近、コミュニケーションを重視する「やさしい日本語」が注目されている。95年の阪神大震災では災害情報の伝達が十分できなかったため、外国人の被災比率が高かった。その反省から外国人にも分かりやすい減災・防災のために日本語が研究された。例えば、「高台に避難」でなく「高い所へ逃げて」というようなわかりやすい言葉への言い換えだ。

     外国人には、まず平易な日本語を学んでもらい、日本人は外国人にわかりやすい日本語を使うことで、多文化共生社会をつくろう、という取り組みもある。行政窓口やツーリズムへの「やさしい日本語」の活用も広がりを見せている。

     NHKはウエブサイトでルビ付きの外国人向けのニュースを流している。西日本新聞社は「やさしい西日本新聞」をウエブで始めた。3月に 開いた毎日新聞主催のシンポジウム「外国人受け入れと『やさしい日本語』」には、参加希望が殺到した。

     日本語教育推進法案で挙げた教育の対象を見ても、進学や専門分野の知識を得るために高度な日本語能力が求められるのは留学生だけだ。新たに来日する外国人児童、就労外国人、難民、生活者としての外国人は、いずれも初歩的な「やさしい日本語」から始める必要がある。共生社会をつくるには「やさしい日本語」がカギになるのではないか。

     「やさしい日本語」は海外にも発信すべきだ。国際交流基金によると、海外の教育機関の日本語学習者は365万人(15年調査)。日本国内の在留外国人264万人(18年6月末)のうち日本語学習者は10%程度だ。日本語学習者は海外の方がはるかに多い。アニメや映画など日本のサブカルチャーに魅せられ、日本語を独学している外国人が相当数いる。

     日本は深刻な「人口危機」に直面している。人口減少が不可避であるなら、政治主導で「内外の日本語人口」を増やし、日本の経済、文化交流を活性化させられないか。「にほんごぷらっと」は小さなメディアだが、そう主張し、日本語教育の取り組みの強化を呼びかけている。

     いしはら・すすむ 1951年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学文学部卒。74年毎日新聞入社。大阪本社社会部、政治部、論説室など。政治記者、論説委員時代は主に安全保障を担当。人口減少時代の外国人受け入れに関心を持ち、2007年に毎日新聞を早期退社して株式会社移民情報機構を設立し、「多文化情報誌・イミグランツ」刊行。日本語学校向けの情報誌編集長を経て日本語教育情報プラットフォームを設立し、ネットメディア「にほんごぷらっと」編集長。和歌山放送顧問、在日ミャンマー人のNPO法人PEACE日本語教育運営委員、外国人留学生支援のNPO法人エルエスエイチアジア獎学会理事、防衛省防衛施設中央審議会委員など。

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