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毎日フォーラム・特集

令和の地方 地域からの日本再生

新元号を発表する記者会見で「令和」と紙に墨書された額を掲げる菅義偉官房長官=首相官邸で4月1日

 新たな元号「令和」の時代が始まった。人口減少と超高齢化により農山村ばかりでなく都市部も規模の縮小を迫られている。これまでのような「成長」を前提にした行政サービスと、教育、医療、福祉などさまざまな社会的仕組みは仕立て直さなくてはならない。都市も農村も、ひとは地域に暮らす。その再生なくして日本全体の再生はあり得ない。この時代の画期に地方からの視点に絞り、3人の識者に「令和の地方」の課題について語ってもらった。(聞き手 本誌・本谷夏樹)

    小田切徳美 明治大学農学部教授(地域ガバナンス論・農村再生論)

    地域再生の成熟化を目指す時代

     --平成期の地域再生の総括を。

    小田切徳美氏

     平成は、農山村から見れば、危機から始まり、30年かけて再生につなげる“橋渡し”の時代だったと思う。1990年代前半までのバブル経済期は、地域はリゾート開発という外来型発展に期待した。昭和期の工場誘致はまだ平地が中心だったが、リゾート開発は農山村の奥まで及んだ。それは地域の資源である美しい景観が単なる「借景」として利用されるだけで、企画、資金、ノウハウ、運営のすべてが外部から導入されるという典型的な外来型だった。地元の首長や議員、住民も浮足立っていた。しかしバブルが崩壊し沈静化した後に、いよいよ住民自らが立ち上がらなくてはならないという「覚悟」が決まったのだ。

     それまでの裏返しで、自分たちの力で地域に見合ったやり方で取り組む内発性、多様性、さらにイノベーションを起こす革新性のある地域づくりが始まった。鳥取県智頭町が97年に制度化した「日本1/0村おこし運動」が象徴的だ。集落単位で住民一人ひとりが「無(ゼロ)から有(1)へ踏み出そう」という革新的な運動だ。

     もう一つの波乱として2000年代前半の市町村合併があった。小さな町村が消えて自治体の規模が大きく広域化した。その動きが落ち着き出した09年に「地域おこし協力隊」が登場した。地域づくりに外部サポーターが加わり「補助金より補助人」と言われたものだ。その流れが田舎に移住する「田園回帰」につながっている。

     「田園回帰」はまばら状態で進んでいる。きちんと地域づくりに取り組んでいるところには若者たちが引きつけられるように集まってくる。そこでよそ者の目線で面白い取り組みを始めると、さらに関わってみようとする若者が続き、いわゆる関係人口が増えていくという「地域づくりと田園回帰・関係人口の好循環」が生まれているのだ。

     --令和期の課題は。

     橋渡しの時代を受けて成熟期としての時代的役割があると思う。

     「成熟化」とはまず、地域再生の目指すべきゴールイメージが「明確化」することだ。それは「にぎやかな過疎」として始まっている。過疎だがどこかにぎやかな、言い換えれば人口減だが人材増のまちやむらだ。これはラジカルな思想でもある。「仕事」がないから人が集まらないと言われてきた。その「仕事」とは多くは誘致企業などの常勤者のイメージだったと思うが、移住してきた人たちが新たな「しごと」をつくり、生業のネットワークを広げている。

     いくつかの地域でそのような動きが出ているが、特に注目しているのが「にぎやかそ」をキャッチフレーズにしている徳島県美波町だ。本社を田舎に移転した起業家をモデルにした「波乗りオフィスへようこそ」という映画が先日東京でも公開された。やる気のある地域の人と、しごとをつくる移住者、それに引きつけられる関係人口、さらに大学やNPOはもちろん、SDGs(持続可能な開発目標)を意識した経営が求められる企業の過疎地における社会貢献活動にも大きな期待がかかる。多様なプレーヤーが交錯する場で、その受け皿として地域運営組織がプラットフォームの役割を果たす。これは、実は農山村だけの問題ではなく、国内の多くの地方に共通する目標でもある。

     二つ目は「普及化」だ。今はマチとムラの格差ではなく、ムラとムラの格差が生じてきている。地域再生に真剣に取り組んで元気になってきているムラに隣接するにムラに活気がない、というケースが珍しくない。ようやく出てきた地域再生の成果を横展開でいっそう普及させることが必要だ。

     三つ目は、これまでの地域再生の枠組みをさらに「進化」させることだ。より大きな位置づけとして、人口減少の時代に都市と農村が共生する社会の形成を目指すべきだ。第2次国土形成計画(15年閣議決定)は「対流促進型国土」をうたったが、農山村の再生を国土形成に高めていかなくてはならない。さらに、SDGsという国際的な文脈の中で、再生可能エネルギー問題も含め、農山村で先発的に取り組んでいる地域作りを世界に発信していくことも必要だ。

     最後に強調したいのは、地域再生の政策的な「安定化」だ。地方創生の根拠法である「まち・ひと・しごと創生法」が画期的だったのは「人口減少と東京一極集中に歯止めをかける」ということを法律の目的で初めて明記したことだ。時限立法ではないので仮に政権が代わっても国策として地域再生を持続する根拠がここにある。

     --その地方創生の評価は。

     第1期(15~19年度)の総合戦略は先行型の交付金目当てに大慌てで作成した計画が多かったのではないか。第2期総合戦略に求められるのは策定のプロセスの質だ。今プロジェクトマネジメントで「プロセスデザイン」が重要視されている。総合戦略をコンサルタントなどに丸投げするのは論外だが、各種団体の委員から形ばかりの意見聴取をして行政主導でまとめる計画もだめだ。さまざまな世代の地域住民の声をいかに吸い上げて、時間をかけて練り上げるかだ。第2期は粗製乱造の計画であってはならない。

    椎川 忍 一般財団法人地域活性化センター理事長(元総務省自治財政局長)

    残された地域内分権の推進を

     --地方分権が進みました。

    椎川忍氏

     平成5(1993)年に衆参両院で「地方分権の推進に関する決議」が行われた。95年に地方分権推進委員会が発足して本格的な議論がスタートし、00年の地方分権一括法に結実した。このいわゆる第1次分権改革で、国の下請け仕事との批判もあった機関委任事務が廃止された。07年からの第2次分権改革では、国から都道府県、さらに市町村への権限移譲が進められるなど、平成はまさに地方分権改革が進められた時代だったと言える。

     しかし、市町村の中の地域内分権の課題が残った。地域には自治会やさまざまな協議会などがあるが、多くは行政に頼っているのが実態だろう。日本はかつてのような経済成長は望めず、人口減少の時代に入り、生産性を上げない限り今の国内総生産(GDP)を維持することも容易ではなくなるだろう。自治体も税収や地方交付税交付金が減り財政がいっそう苦しくなっていく。そのような時代に必要なのは、自立した住民と行政の協働組織だ。一定の交付金を出し、住民の生活に身近な事業は地域の組織に任せるという地域内分権を進めるべきだ。

     いくつかの自治体ではそのような動きが出てきているが、特に注目しているのは兵庫県朝来市だ。05年に生野、和田山、山東、朝来の4町が合併して誕生した。竹田城跡が「天空の城」と有名になったが、人口減少と高齢化が進む中山間地域で住民の危機感があった。

     合併前から旧生野町が自治基本条例を制定し、総合計画にあたり住民参加のワークショップを展開するなど地域内分権推進の機運があり、それが土壌になり「地域協働のまちづくり」に発展した。小学校区単位の地域自治協議会に包括交付金などの財政支援をし、それぞれが自主事業を行っている。課題解決は個人・家庭、自治会、地域自治協議会、そして市という裾野から順番であたるという自治意識が醸成されている。このような市町村の中の地域内分権が、真に自立した住民と行政の協働社会の形成に不可欠だ。

     --合併も推進されました。

     市町村の合併は分権とセットで進められた。権限移譲の受け皿としての自治体の規模を大きく、行政の効率を高めることが目的だった。当初からその光と影が言われていたが、影の部分は、一つの自治体の面積が1000平方キロを超えるところもあるなど広域になり過ぎ、行政の目と手が届きにくくなりサービスが低下していることが挙げられる。北海道で合併が進まなかった要因に面積問題があった。

     また、自治体の規模が大きくなると、行政職員がサラリーマン化して、住民よりも組織の方に目を向けて仕事をすることが多くなる傾向があるような気がする。小さな町村では住民の顔が見えていたのに、合併して広域に異動することが増えることもあり、住民との関係性が希薄になっているのかもしれない。

     --持続可能な自治体運営は。

     地域内分権を進め、真に自立した住民と行政が協働する社会とは、高度成長期以降失われていった地域の共助の精神を復活させることだ。成長期には何でも税金で行政が担うようになったが、その公的な仕事の一部を、成熟社会においては住民組織やNPOなどが分かち合っていかなければ、地域社会が成り立たなくなってきている。

     医療や介護をはじめ増え続けるニーズに対応する施設を小さな自治体がフルセットで持てる時代ではない。それを解決するのが定住自立圏構想だ。比較的大きな「中心市」と近隣市町村が協定や協約を結んで連携、協力して行政機能を補完し合う。都市機能と周辺の農林水産業、自然や歴史文化などの地域資源をお互いに活用して、圏域の機能を確保する仕組みだ。これをもう一段大きくしたものが連携中枢都市圏構想でもある。

     コミュニティーには会社員から職人までさまざまなプロの人材がいる。これまではそのような人たちがバラバラで生活しながら納税した税金で行政が地域を支える仕事をしてきたが、今後は一定の権限が移譲された地域組織がさまざまな人材をつなぎ、活用しながら自主的に運営する形が増えていくべきだろう。

     自治体職員は地域の中核的な人材だ。自治体を支援している地域活性化センターは、幅広く多様な知識とノウハウを養いネットワークを広げていける人材を育成する事業を行っている。最前線で多くの仕事を抱えている小さな町村の職員の人材育成プログラムも実施している。

    柏木孝夫 東京工業大学特命教授・先進エネルギー国際研究センター長

    日本版シュタットベルケで地方創生

     --エネルギー政策からみた地方創生について。

    柏木孝夫氏

     第2次国土形成計画の策定にエネルギーの専門家として関わった。それまでの国土計画は、いわば土地の開発利用が中心で電力などエネルギーシステムについては真剣に考えて来なかったと思う。初めて本格的にエネルギーの観点から国土形成を構想した計画だ。

     基本的なコンセプトは「コンパクト+ネットワーク」だが、これには三つのキーワードがある。それは「地域特性を生かせ」「国土のネットワーク化」「国土の強靭化」だ。

     地域特性とは、地域に豊富な太陽光や風力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーであり、その資源を取り込むことだ。

     それをスマートグリッドでネットワーク化しスマートコミュニティーを形成する。都心など大都市部のエネルギー密度の高いエリアではコージェネレーション(熱電併給)により、個々のビルにはボイラーが要らなくなりスペースをより効率的に利用できる。農山村など第1次産業が多い地域では、熱導管を引いて、例えばガラス張りの植物工場でイチゴ栽培をするなどスマートアグリが誕生する。熱と電力に加え、発生する二酸化炭素(CO2)は植物の光合成に利用する。第1次産業がさまざまな可能性のある第N次産業へと発展することが期待される。

     強靭化とは、これまでの大規模電源システムではなく、ローカルな分散型電源を増やしていくことだ。ピーク時の需要に合わせて電源開発をしてきた時代は終わり、デマンド(需要)をコントロールし、経済的に自立した再生可能エネルギーを主力電源とするスマートコミュニティーを形成していく。それによって強く、しなやかな国土を形成することを目指している。

     --分散型エネルギーの運営主体は。

     電力小売りが自由化された今、それを担うのは「日本版シュタットベルケ」だ。ドイツで生まれた自治体が主導する都市公社のような地域エネルギー会社だ。自治体が主導と言っても、かつての第三セクターとは違い、あくまでも経営センスのある民間人がトップの会社で、自治体はルール作りや経営を監視する役割に徹する。その審議会の長に首長がなればいい。40年に自治体の半数が「消滅可能都市」になるという報告があるが、そのような人口や産業の空洞化を解決する切り札は日本版シュタットベルケだと思っている。

     現在、ドイツ国内ではシュタットベルケが1400社も誕生している。そのうち電力を扱っているのは900社に上る。規模は日本の北陸電力ほどの大規模な社から数十人で運営している小規模のものまで多様で、NPO組織が主体のところもある。電力ばかりでなく、上下水道事業やバス事業など幅広く手掛けているのが特徴で、地場産業と連携してさまざまなセット料金のメニュー提供を可能にしている。

     日本でも「浜松新電力」や「とっとり市民電力」などご当地電力会社が誕生してきている。地域のさまざまな事業者が出資し自治体主導でご当地会社を設立し、再生可能エネルギー供給というサービス事業を各地に興し、地産地消を推進してお金を圏域内で循環させることが重要だ。それをネットワーク化していけば、分散型の強靭な国土と社会を形成できるだろう。

     --自治体に求めることは。

     再生可能エネルギーを主要電源にしていくためには、FIT(固定買取制度)など国民負担のある目的税のような仕組みよりも、もっと民間投資が喚起される制度への転換が必要になるだろう。分散型エネルギーもインフラは公共的なものであり、自治体や圏域のローカルレベルでの合理的なエネルギー需給構造を整備していかなくてはならない。そのためには、道路やハコ物などの公共事業と一体型のエネルギー政策を自治体主導で立案し、経済的な自立を図れるように経営感覚を磨く必要がある。自治体職員の意識改革を求めたい。

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