メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

風俗店で食い物にされる知的・発達障害者 背景に社会的孤立

かつて風俗店で働いていた渡辺ミキさん(仮名)。対人関係に困難を抱え、風俗の仕事は自己肯定感の低さを埋めてくれた=東京都内で2019年3月27日、尾籠章裕撮影

[PR]

 暴力は最も弱い人に向けられる。しかも性暴力は見えにくい。知的障害や発達障害を持つ女性は、障害の特性につけ込まれて男性の性的な欲求のはけ口にされたり、風俗産業の食い物にされたりする上、被害をうまく訴えられず認められないこともある。最も弱いゆえに狙われる障害者の性暴力被害の実態と課題を、2回に分けて報告する。

 照明を当てた体が、パソコン画面に白く浮かび上がる。画面右側のチャット欄にメッセージが次々と表示される。「可愛いね」「早く脱いで」――。東京都内に住む渡辺ミキさん(29)=仮名=は、発達障害の一つで対人関係に困難を抱える「自閉スペクトラム症」だ。

 20代前半、性風俗店と男性会員向け「ライブチャット」の仕事を掛け持ちした。童顔、細身で、風俗店ではミニスカートの制服姿のコスプレが人気だった。ライブチャットでは、業者が用意した雑居ビルの一室でパソコンの画面越しに服を脱ぐ様子を配信した。

 小中学校では「汚い」といじめられ、特定の場面で声が出ない「場面緘黙(かんもく)症」になった。障害の特性で複数のことを同時にこなせず、就職した運送会社では毎日のように叱責された。

 生きづらさを解消したくて自己啓発セミナーを渡り歩き、たまたまインターネットで見つけた風俗経験のある女性ブロガー主催の講演会にたどりついた。手を挙げて仕事の悩みを打ち明けると、女性は壇上からミキさんを指さして言った。「こういう子が案外、風俗に向いてるんですよ」。講演会後、風俗で働いていたという女性たちが「お店紹介するよ」と声をかけてきた。職場で一人前扱いされず、「営業も事務も接客も何一つできない」と悩んでいた背中を押された気がした。

 風俗で働くことに抵抗はなかった。男性客から「可愛いね」と言われると、無条件に自分を肯定された気がしてうれしかった。1回30分で手取りは3000~4000円。頻繁に体調を崩し月10日程度しか働けず、ライブチャットの掛け持ちを始めた。

 ミキさんは飲み会で仲良くなった男性に性交を迫られ、ホテルに行ったこともある。汚いと言われていた自分に触れてくれる人がいると「気持ちが落ち着いた」。相手の言うことに応えなければいけないという思いが強く、「いやだ」と意思を示すことが頭に浮かばない。それが障害のせいだとわかったのは、風俗店を辞め発達障害の診断を受けた後だった。「私みたいな女性が風俗で働かざるを得なくなる事情を知ってほしい」と訴える。

住む場所求めて

知的障害がある伊藤鈴さん(仮名)。「住む場所さえあれば、風俗で働くことはなかった」と話す=神奈川県内で2019年3月6日、上東麻子撮影(画像の一部を加工しています)

 神奈川県に住む伊藤鈴さん(34)=仮名=は軽度の知的障害があり、計算やコミュニケーションが苦手だ。勉強は「小3ごろからちんぷんかんぷん」。中学も普通学級だったがいじめを受け、居心地が悪かった。先生たちに理解があり、自分に合った教育を受けられた特別支援学校時代は生徒会長を務め自信が持てた。でも、卒業すると社会は冷たかった。

 就職した弁当店ではパートの中年女性らになじめず行けなくなった。20代後半、彼と暮らすために家を出て「自分でもできそうな仕事」を探した。知り合った風俗業のスカウトに「楽な仕事でお金もいいし、住む所もあるよ」と勧められ、デリバリーヘルス、ピンクサロン、キャバクラで働いた。

 キャバクラでは短いスリップドレスや胸の大きく開いた服を着て接待し、デリヘルでは性交も強要された。「ナナ」「チエミ」……。店に付けられた源氏名で呼ばれ、客の言うままにサービスした。衣装代、ヘアメーク代、夜の送迎代などを給料から引かれ、毎日働いても手取りは約15万円。さらに「寮費」としてスカウトに毎月5万円支払わされた。そのうち彼の母親が鈴さんの通帳を管理した。苦手な数字。「考えるのもめんどくさくて」、従った。

 同居していた彼は鈴さんの稼いだ金をギャンブルに使い、激高すると暴力をふるった。昼夜逆転の生活に疲れ切り、1年後、店を辞めた。支援者と知り合い今は福祉関係で働く。「風俗の人は優しかったけど、住む場所さえあれば他で働いた。今の仕事の方が給料は安いけれど、ずっといい」

弱さにつけ込まれ

 「風俗で働く(知的・精神・発達)障害者は少なくない」。風俗業関係者や性暴力被害の支援者は口をそろえる。NPO法人PAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会、東京都文京区)には、知的障害や発達障害がある女性から相談が寄せられる。風俗スカウトと知らずに街で声をかけられて店で働かされ、給料の大半を搾取されたという訴えや、街で「少し付き合って」と誘われてそのままアダルトビデオの出演を強要されたという相談が典型例だ。金尻カズナ相談員は「性産業は、話を額面どおり受け止めてしまう障害の特性を見定めて女性たちを利用する。『仕事だから』と思い込ませるため、被害は表に出にくい」と語る。

 平日夕方、東京・新宿の繁華街。「路上でのスカウト行為は禁止されています」とアナウンスが流れる中、若い女性に声をかける風俗業スカウトの男性(20代)がいた。「メンタルやばそうな子も本人にやる気があれば引っ張りますよ。自分がやらなくても、どうせ誰かが引っ張るし。こっちの言うことにイエスでついて来るんで、風俗未経験の子の方が扱いやすい」。声をかけるのは「プリン(明るく染めた髪が伸びて頭頂部だけ黒くなった状態)の子やヒールが擦り減った子。金に困ってるから稼ぎに直結しやすい」。そう話すと、また人混みに消えた。

   ◇    ◇

 女性障害者でつくる「DPI女性障害者ネットワーク」(東京都千代田区、藤原久美子代表)が2011年に障害のある女性87人に行った調査によると、35%にあたる31人に性的被害の経験があった。東洋大学の岩田千亜紀助教(社会福祉学)は「障害者の性被害について実態調査が必要ではないか。障害と女性というダブルマイノリティー(二重の社会的弱者)の問題に目を向けてほしい」と話す。

 千葉県の委託を受け、社会福祉法人が運営するよろず相談所「中核地域生活支援センターがじゅまる」センター長で、知的障害者らの性的被害の相談に乗ってきた朝比奈ミカさんは「知的・発達障害者は、障害があることで疎外され、失敗体験を重ねた結果、自分に自信がない人が多い。風俗の世界で相手が容姿や仕草、行為をほめる真意を理解せずに、自らの存在を認められたと感じる場合もあり、悪意につけ込まれてしまう。背景にある孤立や寂しさに目を向け、障害がある人たちの生活全体に対する支援が必要」と指摘する。

   ◇   ◇

10代女性向けの移動式無料カフェで、女子高校生たちを支援する「コラボ」の仁藤夢乃さん(手前)=東京都渋谷区で2019年3月27日午後6時56分、塩田彩撮影

 「10代ですか?」「女子高生向けの無料カフェやってます」。3月下旬、東京・渋谷の人混みの一角で、一般社団法人「Colabo(コラボ)」のスタッフが若い女性にカフェの紹介カードを配っていた。裏側は化粧直しに使える鏡になっている。

 コラボは虐待や貧困の中で性売買や性的搾取に取り込まれる少女たちを支援する。昨年秋から新宿区と渋谷区で、バスとテントを会場に10代女性が誰でも利用できるカフェを定期的に開く。温かいスープやおでん、着替え、生理用品などを無料で提供し、各地の性暴力被害者の支援団体にも橋渡しをする活動だ。

 17年は552人から相談を受けた。仁藤夢乃代表(29)は「関わる女の子の3分の1は何らかの障害があると感じる」と話す。支援者が現場に出向くコラボのような活動は、自分が被害に遭っていると認識しづらかったり、相談窓口を知らなかったりする少女たちを支援につなぐ手立てとなる。仁藤さんは「助けを求めたい時、うわべだけやさしい風俗のスカウトではなく、私たちの顔を思い浮かべてくれたらいい」と話す。

【上東麻子、塩田彩、坂根真理】

性暴力に遭った障害のある女性の割合

 毎日新聞が今年1~2月、書面とインターネットで成人の発達障害者を対象に併存症や「生きづらさ」に関する調査を実施。発達障害の診断を受けたとする成人女性435人のうち、97人(22.2%)がこれまでに性暴力の被害に遭ったと回答した。

 障害のある女性でつくる「DPI女性障害者ネットワーク」が2011年、書面と聞き取りで身体障害や精神障害のある女性87人に調査。このうち31人(35.6%)がセクシュアルハラスメントや性行為の強要などの性的被害を受けたと答えた。

おすすめ記事
広告
毎日新聞のアカウント
ピックアップ
話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 宅八郎さん死去 57歳 「おたく評論家」の肩書でテレビ番組出演

  2. 「へずまりゅうの弟子」名乗るユーチューバー逮捕 山口の墓地で卒塔婆振り回した疑い

  3. ORICON NEWS 『鬼滅の刃』2日連続で全国5紙ジャック、朝刊に広告「想いは不滅」 主要15キャラの名言&作者メッセージ掲載

  4. 「現場感覚ではもう今が限界」埼玉医大教授のSNS投稿が拡散 コロナ楽観論を懸念

  5. 長女はひつぎにうどんを二つ… 原爆小頭症の吉本さん逝く 孤独と痛みに耐えた74年

編集部のオススメ記事

のマークについて

今週のおすすめ
毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです