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社説

こどもの日に考える 小さな声を拾える社会に

 子どもはたたかれても黙っている。お父さんお母さんが好きだから。自分が悪いと思ってしまう。

     児童福祉に携わる人々がよく口にする言葉だ。

     「もうおねがいゆるしてください」。東京都目黒区で虐待された5歳の女児は「反省文」に書き残した。千葉県野田市の事件では小学4年の女児が「お父さんにぼう力をうけています」と学校のいじめアンケートに書いた。

     こうした子ども自身の声が社会に伝わることはめったにない。政府はこれらの事件を受けて児童福祉司の大幅増員、体罰禁止などを明記した児童福祉法や児童虐待防止法の改正案を今国会に提出した。被害にあった子どもの言葉が社会に衝撃を与え、政府を動かしたのである。

    辛抱強く待たなければ

     虐待だけではない。満足な食事が与えられない、修学旅行に一人だけ行けない。そんな状態でも子どもは困っていると言わない。それが当たり前だと思っている。

     どうすれば子どもたちは言葉を発することができるのか。社会の側が小さな声に気づけるようになるのか、考えなくてはいけない。

     「かくれんぼのようなものです」

     静岡市で社会的養護の必要な子どもの支援をしている独立型社会福祉士の川口正義さんは言う。

     「もういいかい?」

     大人が呼びかけても返事はない。

     「もういいよ」

     小さな声が聞こえてもこちらから近づいてはいけない。

     ひどい目にあった子どもは簡単には大人を信頼しない。安心して子どもが出てくるのを辛抱強く待たなければならないという。

     川口さんらが5年前に作った「縁側フォーラム」は静岡県内の福祉職員や教師、スクールソーシャルワーカー、里親らが集まる会だ。貧困や虐待で傷ついた子どもの支援に関する研修や啓発活動をしている。

     「夜中に帰ってきた母が僕のおなかを蹴り、死ねと言いました。それが物心ついた最初の母の記憶です」

     今年1月の研修会で、青年が吐き出す言葉に参加者は耳を傾けた。

     「ふろに入れず、体が臭いので学校に行けなかった」

     助産師を40年以上している女性がためらいながら言った。

     「数え切れないほどお産に立ち会ったけれど、どんな人も赤ちゃんを産むときは命がけです。あなたのお母さんもきっとそうだったはず」

     何かがすぐに解決するわけではない。当事者の言葉を聞きながら、それぞれが自らの問題に向き合う。

     幼い子を連れた主婦も最近は増えてきた。子育て中は社会との接点が少なくなる。保育所に子どもを預けられない専業主婦は孤立感を抱いている人が意外に多い。

     保育スペースを客席の最前列に設け、参加者が目の前の子どもの声を聞きながら話し合っている。

    意見表明の権利保障を

     縁側は日本家屋特有のものだ。内でもあり外でもあり、何か理由がなくても人々が集まる。機能や効率が過度に重視される社会ではすぐに役に立たないものは排除されがちだ。

     縁側のような場所が社会からなくなり、生きにくさを抱えた親子が密室の中で孤立している。そんな現状を変えていかねばならない。

     貧困家庭の子どもらに食事を提供する「子ども食堂」は急速に増え、昨年4月時点で2286カ所が確認されている。すぐに貧困家庭の子が来なくても、続けることが大事だ。

     「みんなで鍋を囲むって本当にあるんだねと言うんです。テレビでは見ても、そんな経験をしたことがないから。子どもの支援とは自らの当たり前を問うことなんです」。そう言うのは「こども食堂安心・安全向上委員会」の湯浅誠代表だ。

     国連が子どもの権利条約を採択して30年、日本が批准して25年になる。「生きる」「育つ」「守られる」という権利とともに、「参加する」権利をうたったのが同条約である。

     最近は子ども自身が課題解決に向けて声を上げるための支援が各国で重視されるようになった。

     日本でも都道府県の社会的養育推進計画に子どもの意見を取り入れる方針が明示された。児童福祉法改正案には子どもの意見表明権を保障する仕組みが盛り込まれた。

     子どもが安心して意見を出せる環境を作ることが必要だ。大人の都合でかき消してはならない。小さな声を拾える社会にしよう。

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