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連鎖を断つ

繰り返す窃盗…知的障害者、利用され 福祉の支援で更生へ

小鉢由美弁護士(左)と更生支援計画の内容を確認する男性。今は定職に就き、グループホームを出て1人暮らしをする準備を進めている=福岡県で、宮原健太撮影

 それはあまりにもお粗末な窃盗事件だった。北九州市の大型商業施設。多くの人目がある夕方、男性(33)はバーベキューセットをカートに乗せたまま外に出たところを警備員に見つかり、現行犯逮捕された。

 2015年5月、国選弁護人として市内の警察署で接見した小鉢(こばち)由美弁護士(福岡県弁護士会)は、目をそらしながら、どこか人ごとのようにゆっくりと話す男性の様子に違和感を覚えた。事件の経緯を尋ねると「地元の友達2人から『バーベキューをしたいから盗んでこい』と言われた」と答えた。

 男性はこれまでも他人から言われて盗みを働いては、何度も捕まってきたと説明した。中学生の指示に従ったこともあったという。

刑法犯検挙者数と再犯者率の推移

 「知的障害があり、逆らえずに利用されたのではないか」。そう疑った小鉢弁護士が頼ったのが、障害者の相談支援を担う北九州市障害者基幹相談支援センターだった。福岡県弁護士会は前年の4月から北九州市と協力して、知的障害が疑われる容疑者の再犯防止支援の取り組みを始めていた。

 小鉢弁護士は、センターを通じて協力を依頼した社会福祉士を連れて再度接見し、刑事責任能力があるか専門家に判断してもらう簡易鑑定を検察に要請した。その結果、男性に軽度の知的障害があることが判明。接見を重ねる中で、高校卒業後に介護ヘルパーとして働いた男性が「二つの作業を同時にできない」という理由から4カ月でクビになっていたことも分かった。

 2人暮らしをしていた父が亡くなってからは、盗みを止めてくれる人もいなくなった。自分に知的障害があるとは知らず、福祉に頼る発想もなかった。

 小鉢弁護士は社会福祉士の協力で更生支援計画を作成し、裁判の証拠として提出した。判決は「福祉とつながることで社会復帰が期待できる」として執行猶予が付いた。

 更生支援計画に基づき、福岡県内の自立訓練施設で1年余り過ごした男性は現在、グループホームで生活しながら清掃関連の仕事に従事する。「自分の弱さにつけ込まれてずっと利用されてきたが、施設では相談できる職員もいてトラブルに巻き込まれることがなくなった」。小鉢弁護士同席で取材に応じた男性は「警察に捕まったことで友達から離れることができた」と振り返る。

 刑務所出所後の更生を支援する「出口支援」に対し、男性のケースのように、捜査段階から再犯防止の枠組みにつなげる取り組みは「入り口支援」と呼ばれ、関係者は今後ますます重要になると指摘する。ただ、男性のように軽度の知的障害者や認知症の高齢者については、弁護士らが障害や認知症に気付かない限り、福祉のレールに乗せるのは難しい。

 出所者の社会復帰支援にも携わる立命館大の掛川直之専門研究員(司法福祉学)は「本来は支援が必要なのに漏れるケースは少なくない。関係機関が連携し、捜査段階から出所までの各段階でそうした人を見落とさない態勢作りが不可欠だ」と指摘する。

    ◆

 ささいなきっかけで再犯を繰り返す障害者や高齢者が後を絶たない。再犯の連鎖を断つ道はあるのか。現状と課題を探った。(続きは8日以降に掲載します)

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