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麗しの島から

台湾で急増する子育て中の同性カップル

 台湾では5月24日から全土の行政機関で同性による婚姻届の受け付けが始まる。アジアの中では同性愛者を含めた性的少数者(LGBTなど)に対して寛容な社会だと言われている台湾だが、それでも同性愛に対する社会の偏見は根強く残る。そうした中で近年、人工授精や代理母という方法で子を授かる同性カップルが急増しているという。台湾で3組の同性カップルを取材した。

小学校探しに苦労

長女の靖苗ちゃん(中央)に英語の絵本を読み聞かせる呉少喬さん(左)と邱さん=台湾北部・桃園市で2018年11月14日、福岡静哉撮影

 「首飾りは英語で何と言うかな?」。台湾北部・桃園市のマンションの一室を訪れると、呉少喬さん(37)と邱明玓さん(36)が、長女靖苗ちゃん(7)に英語を教えていた。3人とも性別は女性だ。靖苗ちゃんは海外での人工授精で授かった一人娘。精子の提供者はデンマーク人という。

 2人はインターネット上での物品販売などで生計を立てながら子育てをしている。靖苗ちゃんを産んだ呉さんは「『子供は欲しいけど難しい』と思い、以前は将来にあまり希望が持てなかった。靖苗を授かって、本当にうれしくてたまらなかった」と振り返る。

 同性カップル家庭を支援する市民団体「台湾同志家庭権益促進会」(台北市)によると、この団体が把握しているだけでも300組の同性カップルが子育てをしている。大半は女性だが、代理母出産によって子を授かった男性カップルもいる。5月24日に同性婚の受け付けが始まると、こうした子供たちはさらに増える可能性が高い。米国では10万組以上の同性カップルが子育てをしているとの調査もある。

 アジアの中ではLGBTに対して比較的、寛容と言われる台湾社会。ただ、人口の多くが中国大陸からの移住者のため儒教の影響が色濃く残り、「男系の家系を後世に残すべきだ」との考えも根強い。伝統的に同性愛を許容しないキリスト教も一定の信者を擁し、いまだに激しい反対運動を展開している。

 呉さんが同性愛者であることを両親は受け入れているという。だが邱さんは、まだ母親から十分な理解を得られないままだ。邱さんは「台湾では、同性愛者は親不孝というイメージがある。でも私は両親のために生きているのではなく、自分のために生きている」と話す。

 つらい経験も絶えない。昨年11月14日、呉さん親子が街頭で同性婚を認めるよう求める宣伝活動をした際、同行取材した。「同性愛者にも異性愛者と同様の権利を!」。呉さんが訴えていた時、高齢男性が近づいてきてこう言った。「女どうしで結婚していたら100年後には人類が絶滅するぞ」。呉さんがそばにいた靖苗ちゃんを指さして「この子は人工授精で授かりました。同性カップルでも子を産めます」と説明すると、男性は「そんなの自然じゃない」と吐き捨てるように言って立ち去った。

 一方で激励する人たちもいた。通行人の若い男性は清涼飲料水が入った袋を手に親子に駆け寄り「頑張って」と肩をたたいた。しばらくすると今度は男性警察官が近寄ってきて「公務員という立場上、表だって応援できないけど応援しているよ」と声をかけた。呉さんは「勇気づけられる」と笑顔を見せた。

 台湾では9月に新学期が始まる。靖苗ちゃんは今年、小学校に入学する。呉さんは複数の小学校に入学を相談したが、多くは遠回しに断られたという。結局、校長や教師が同性カップル家庭に深い理解を示した学校への入学を決めた。居住地と異なる校区のため靖苗ちゃんの住民票を移す必要がある。呉さんはこう語気を強めた。「同性婚が実現することはとてもうれしい。でも同性愛者への偏見は依然として根強い。同性愛者や、同性カップルを親に持つ子供も、公平な待遇を得られる社会に早くなってほしい」

同性カップルが育てる子供たち70人の写真を載せたパネルを手にする呉さん(左)と邱さん。呉さんは「同性愛者も子供を持てるのだとアピールするために作りました」と言う=台湾北部・桃園市で2018年11月14日、福岡静哉撮影

孫が生まれ、両親の気持ちに変化

 洪采瑋さん(38)、パートナーの小小さん(39)は2人とも公務員。台湾北部・苗栗県で暮らす。4月21日、自宅マンションを訪れた。玄関のドアを開けると、居間で遊んでいた長女の瑄ちゃん(3)が恥ずかしそうに奥の部屋に隠れた。瑄ちゃんは、小小さんが人工授精で産んだ。

長女(右)を抱く洪さん(中央)とパートナーの小小さん=台湾北部・苗栗県で2019年4月21日、福岡静哉撮影

 2人は高等専門学校時代に知り合った。互いにひかれあい、付き合うようになった。でも2人とも両親には隠していた。反対されると分かっていたからだ。

 采瑋さんの両親は「結婚して子供を産むのが女性の幸せ」という考え方の持ち主。26歳のころ、お見合いを勧められたため、思い切って姉を通じて両親に同性愛者であることを打ち明けた。母は姉に「驚いて言葉もない。お父さんもとても悲しんでいる」と言って泣いた。

 小小さんも両親から「早く結婚をしなさい。そして子供を産みなさい」とよく言われていた。27歳の時、両親に打ち明けた。母親は体調を崩し、毎日泣いた。父親は口もきいてくれなくなった。母親は「あの子(采瑋さん)と一緒にいちゃいけない」「お見合いをしなさい」と繰り返した。

 采瑋さんと小小さんはその後、2人で一緒に暮らし始めた。采瑋さんは「以前はあまり子供のことは考えていなかった。でも周囲の友人たちに次々と子供が生まれ、私たちも『子供が欲しい』と強く思うようになった」と言う。人工授精に何度か失敗した後、瑄ちゃんを授かった。精子提供者は米国人男性だ。采瑋さんはその理由をこう説明する。「瑄は外見に特徴があるから『お父さんはどこの国の出身ですか?』とよく聞かれる。それがきっかけで、私たちの家族について説明することができる。多くの人に『こういう家族のかたちもある』と知ってもらいたい。子供は少し苦労するかもしれないけれど」

 うれしかったのは、瑄ちゃんが生まれてから2人の両親の態度が変わったことだ。小小さんは「両親は以前は100%、私たちの関係を拒否していた。孫が生まれて、今は50%ほどは認めてくれていると感じる」と話す。洪さん家族の居間には、家族3人が采瑋さんの両親、小小さんの両親とそれぞれ記念撮影した写真が飾られていた。いずれの両親も笑顔で写真に納まっていた。

一緒に暮らし始めたころ、ウエディングドレスを着て記念撮影をした洪さん(左)と小小さん。2人はできるだけ早く婚姻届を出すつもりだ(洪さん提供)

家族にとって何より大事なのは愛情

 台南市に住む心理カウンセラーの李詣琦さん(37)と塗偉伶さん(46)も同性カップルで、長女莉軒さん(14)と次女嘉瑩さん(13)の子育てをする。2人の娘は塗さんと前夫との間に生まれた。

 李さんは小学生のころ、女性にひかれる自分に気づいた。李さんの一族は代々、キリスト教を信仰し、李さんも洗礼を受けた。だが家族で通う教会も同性愛には否定的だった。「神は同性愛者である私を受け入れてくれるのだろうか」。思春期、教会の教えと自身の性的指向の矛盾に悩み続けた。大学院生時代、インターネット上で同性愛者を受け入れている教会の存在を知った。足を運んでみると多くの同性愛者が祈りをささげていた。「神のあなたに対する愛は、あなたの性的指向によって変わるものではありません」。牧師の言葉に心を救われた。

 塗さんは、2003年に結婚した夫との間に莉軒さんと嘉瑩さんを産んだ。だがその後、夫と離婚した。李さんとは仕事を通じて知り合い、心ひかれた。女性との恋愛は初めてだったが、12年1月、同居することを決めた。まだ幼かった2人の娘も一緒に住むことになった。娘たちは李さんのことを「琦琦」、塗さんのことは「ママ」と呼ぶ。

 日本では昨年、男性との結婚や出産の経験がある経済評論家の勝間和代さんが同性愛者であると公表し、話題になった。勝間さんのように、同性愛者であると自覚しないまま男性と結婚する女性は一定数いると言われている。私がその点を問うと、塗さんは少し考えた後、「自分が異性愛なのか同性愛なのか、そうしたことは大切ではないです。大事なことは、私が琦琦を愛しているということ」と言い、琦琦さんをいとしそうに見つめた。

 2人の娘は、友達らに「琦琦とママはどんな関係なの?」と聞かれたら「パートナー」と説明しているという。莉軒さん、嘉瑩さんは異性愛者だ。嘉瑩さんは「『同性愛者に育てられたら同性愛者になるのではないか』と言う人がいるけど、それは違う。性的指向はもともと、その人が生まれ持っている特質だから」と言い、恥ずかしそうに付け加えた。「私は男の人が好き」

 新しい家族で暮らし始めて7年あまり。嘉瑩さんは力を込めた。「私たちの家族が変わっているとは思わない。家族にとって何よりも大切なことは愛情です。(父親よりも)琦琦の方が本当のお父さんのような感じがする。私たちを守ってくれるから」

 4人は取材の後、手をつないで仲むつまじく帰宅の途についた。【福岡静哉】

左から塗偉伶さん、長女莉軒さん、次女嘉瑩さん、李さんの家族。笑顔で撮影に応じてくれた=台北市で2019年4月14日、福岡静哉撮影

福岡静哉

台北特派員。1978年和歌山県生まれ。2001年入社。久留米支局、鹿児島支局、政治部などを経て2017年4月、台北に赴任した。香港、マカオのニュースもカバーする。

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