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オーケストラのススメ

~31~ レアな交響曲を楽しむ

マニャールの交響曲を取り上げた上岡敏之と新日本フィル=3月、すみだトリフォニーホール (C) 堀田力丸

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 3月、上岡敏之&新日本フィルがマニャールの交響曲第4番を演奏した。ちょうどその前後、ミハイル・プレトニョフ&東京フィルは、15人のトランペット隊を必要とするハチャトゥリアンの交響曲第3番「交響詩曲」を取り上げた。そういえば、2月には、同じ9日に、川瀬賢太郎&神奈川フィルとパーヴォ・ヤルヴィ&NHK交響楽団が、ハンス・ロットの交響曲第1番を演奏するということもあった。

 コンサートのプログラムのマンネリ化が指摘されて久しいし、来日オーケストラの名曲路線の傾向が顕著になっているが、その一方で、日本のオーケストラの定期演奏会で、ほとんど演奏されることのなかった交響曲の掘り起こしがトレンドとなりつつある。

 アルベリク・マニャール(1865~1914年)はフランスの作曲家。彼の最後の交響曲である第4番は、1913年に完成された。後期ロマン派的な甘美さのある曲で、上岡&新日本フィルが作品にふさわしい響きや音色を作り出していた。上岡&新日本フィルは、来年、4月にはレオポルド・ヴァン・デア・パルス(1884~1966年)の交響曲第1番を取り上げる。ロシア生まれの彼は、ラフマニノフ、グリエール、スクリャービンらと交流があった。1909年に書き上げた交響曲第1番はロマンティックな作品。

 ハチャトゥリアンの交響曲第3番「交響詩曲」はロシア革命30周年を記念して1947年に作曲された。吹奏楽の世界では比較的ポピュラーな曲であるが、オーケストラの演奏会では珍しい。オーケストラの金管楽器にトランペット隊が加わった音量がすさまじく、生の演奏会でしか経験できないような音の振動を体感することができた。

 ハンス・ロット(1858~1884年)は、ブルックナーに師事し、ウィーン音楽院で学友だったマーラーより2歳年上であった。交響曲第1番は1880年に完成されたが、スコアを見せたブラームスに酷評を受け、演奏されないまま、ロット自身が1884年に25歳の若さで亡くなってしまう。交響曲第1番が初演されたのは、完成から100年以上を経た1989年であった。交響曲第1番では、ブラームス、ワーグナー、ブルックナーなどの影響が色濃く感じられ、マーラーを予言するような音楽が表れる。9月には、セバスティアン・ヴァイグレ&読売日本交響楽団も取り上げる。

 そのほか、3月には、沼尻竜典&大阪交響楽団がブルッフの交響曲第3番を取り上げ、アレクサンダー・リープライヒ&日本フィルがルトスワフスキの交響曲第3番を演奏した。小泉和裕&九州交響楽団のグラズノフの交響曲第5番があり、4月に入るとヴァシリー・シナイスキー&新日本フィルも同曲を演奏した。

ミハイル・プレトニョフと東京フィルはハチャトゥリアンの「交響詩曲」を披露。15本のトランペットは圧巻 (C)上野隆文

 4月24、25日には、今年が生誕100周年に当たるミチェスワフ・ヴァインベルクの交響曲第12番が下野竜也&NHK交響楽団によって演奏された。ヴァインベルクは、1919年、ワルシャワのユダヤ系の家庭に生まれた。ナチス・ドイツのポーランド侵攻のため、モスクワに逃れた彼は、ショスタコーヴィチと親交を持ち、教えを受けた。多作家であり、交響曲も20曲以上残したが、彼と彼の作品は次第に忘れられていった。しかし、近年、ギドン・クレーメルらによる蘇演が進んでいる。交響曲第12番は、ショスタコーヴィチの死の翌年(1976年)に書き上げられ、「ショスタコーヴィチの思い出に」というタイトルで知られる。

 ロシア音楽では、パスカル・ロフェ&新日本フィルによるスクリャービンの交響曲第2番(4月26、27日)も演奏された。スクリャービンといえば、交響曲第4番「法悦の詩」がよく演奏されるが、近年は、この第2番、第3番「神聖な詩」、第5番「プロメテウス」も取り上げられるようになった。第2番は1901年に作曲されたロマンティックな交響曲。

 カリンニコフの交響曲第1番は、5月12日(名曲全集)の飯森範親&東京交響楽団、6月13日の山田和樹&読売日本交響楽団と続く。ヴァシリー・カリンニコフ(1866~1901年)のロシア民族色の濃い、美しい旋律に満ちた交響曲第1番は、今や、マイナー界(知られざる曲たちの中)でのメジャーな作品といえよう。

 10月16日に藤岡幸夫&関西フィルが取り上げるハチャトゥリアンの交響曲第2番は、第二次大戦中に書かれ、「鐘」というニックネームがつけられている。鐘が打ち鳴らされ、アルメニア民謡が聞こえる、50分に及ぶ大作。

 北欧音楽は明らかに演奏される機会が増えている。5月17、18日には、エストニア出身の名匠、ネーメ・ヤルヴィがN響で祖国の作曲家、エドゥアルド・トゥビンの交響曲第5番を紹介する。トゥビンは、第二次世界大戦中にエストニアがソヴィエト連邦に占領されるとスウェーデンに逃れた。第5番は亡命直後の1946年に書かれた。緊迫感のある音楽だが、エストニアの民謡も用いられている。

 翌月8、9日には、ネーメの息子で、N響首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィがデンマークのニルセンの交響曲第2番「4つの気質」を取り上げる。1902年に完成されたこの曲は、胆汁質、粘着質、憂鬱質、多血質という四つの気質が描かれる。ニルセンの交響曲全集をリリースしているパーヴォだけに大いに期待できる。

 N響では、エストニア出身のパーヴォが近隣国フィンランドのシベリウスも振るほか、スウェーデン育ちである桂冠名誉指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットが、昨年4月にフランツ・アドルフ・ベルワルド(1796~1868年)の交響曲第3番「風変わりな交響曲」、昨年10月にはウィルヘルム・エウシェン・ステンハンマル(1871~1927年)の交響曲第2番など、スウェーデン音楽を積極的に取り上げている。

 イギリスのウォルトンの交響曲第1番やオーストリアのフランツ・シュミットの交響曲第4番は、彼らの代表作であり、本国ではそれなりに演奏されているのであろうが、日本では少なく、7月に藤岡幸夫&東京シティ・フィルがウォルトンの第1番を、8月にファビオ・ルイージ&サイトウ・キネン・オーケストラがシュミットの第4番を取り上げるのは貴重な機会となる。

 日本の作曲家では、今年が生誕90周年にあたる矢代秋雄の交響曲(1958年)を、5月5日にラ・フォル・ジュルネで井上道義&新日本フィルが、9月13日に下野竜也&広島交響楽団が演奏。

 芥川也寸志が1954年に書いた交響曲第1番が、6月14日に鈴木優人&関西フィル、8月6日にフェスタサマーミューザKAWASAKIで藤岡幸夫&東京シティ・フィルによって取り上げられるのにも注目。

 4月29日には、映画音楽やドラマ音楽で知られる菅野祐悟の交響曲第2番が藤岡幸夫&関西フィルによって世界初演された。2016年の第1番での成功を受けての、新作披露である。この3月には東京で、昨年12月2日に京都で初演されたくるりの岸田繁の交響曲第2番が広上淳一&京都市交響楽団によって演奏された。親しみやすい旋律に満ちた作品。交響曲の世界がジャンルの垣根を越えて広がりつつあるのは楽しい。

藤岡幸夫&関西フィルによって交響曲第2番が初演された菅野祐悟 (C)松井康一郎

 近年のレアな交響曲の再評価のほとんどは、現代のオーケストラの魅力が最も発揮される19世紀末から20世紀にかけての作品である。一つひとつのオーケストラのちょっとした冒険的な取り組みが、重なれば、相乗効果を生み出し、フェスティバルのような状況となることがある(たとえば、2月の〝ハンス・ロット祭り〟のように)。この蘇演のトレンドを、単発的なものととらえず、大きな流れとしてとらえることによって、今の音楽シーンを楽しんでいきたい。

筆者プロフィル

 山田 治生(やまだ はるお) 音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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