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東京へ ともに歩む

毎日新聞

山田拓朗選手=東京都品川区で2019年1月21日、佐々木順一撮影

パラアスリート交差点

競泳・山田拓朗「恐れない」泳ぎのバランスを取っているのは「脚」

 5月の大型連休は10連休だった方も多いようですが、僕は海外へ遠征していました。英国のグラスゴーとシンガポールで開かれた国際大会のワールドシリーズに出場し、新たな課題も見つかりました。

     今年の世界選手権が9月にロンドンで開催されることがようやく決まり、これでトレーニングなどの計画を立てられます。東京パラリンピックに向け、強化のピッチを上げていきたいと思います。

     先日、僕の泳ぎを見た人から「左手がないのにどうやって真っすぐ進むのか」と聞かれました。自分では特に意識していなかったので、どうしてそんな質問をされるのか疑問でしたが、よく考えてみると、なるほどその通りです。今回は少し詳しく解説したいと思います。

     僕の種目は自由形ですが、右腕と左腕の重さが違うので、飛び込む際に多少傾きます。両腕のない選手は真っすぐに飛び込めますが、それほど気になるレベルではありません。泳ぎに影響するのは、入水の瞬間の姿勢です。健常者や両腕のある選手は、両腕や両脚を真っすぐに伸ばす「ストリームライン」という姿勢を取りますが、僕はこの姿勢をきちんと取れません。水の抵抗が大きくなるので、飛び込む際に生み出したスピードをできるだけ落とさずに泳ぎ出すことが重要になります。

     ストローク(腕のかき)も左右で力が違うので、そのままでは曲がってしまいます。右手でかく力の方が大きいので、何もしなければ左の方に曲がります。カヌーでこぐ姿を思い浮かべてもらえれば、分かりやすいかもしれません。左右均等にやや外向きへかくことで、真っすぐに進みます。しかし、これもあまり意識していません。泳ぎのバランスを取っているのは「脚」です。

     健常者のスイマーと異なる脚の動きをしているのだと思いますが、小さい頃から泳ぎ続ける中で、感覚的に身に着けたものです。健常者は主に推進力を生み出すために脚を使っていると思いますが、僕の場合はバランスを取る動きが加わります。バランスを取る動きをいかに減らせるかが推進力を増やすカギです。

     冒頭で体の左右のアンバランスをあまり意識していないと書きましたが、脚で自然にバランスをコントロールしているのです。クロールで呼吸をする時のことをイメージしてもらえればと思いますが、泳いでいる際にバランスを取るのは脚より手の方が簡単です。手で水をとらえる感覚は水泳選手でなくても分かると思いますが、脚で水をとらえる感覚は分かりにくい。脚は手ほど器用ではありません。しかし、手や腕が持つ推進力はとても大きいので、バランスを取るために動かすのは得策ではありません。だから脚でバランスを取るのです。

     最後に呼吸についてです。50メートル自由形で、僕は1回だけ呼吸(息つぎ)をします。以前はもっとたくさんの呼吸をしていましたが、2016年リオデジャネイロ・パラリンピックの代表選考会の時に初めて1回呼吸に変え、「意外といけるな」と思いました。

     左腕がない分、一般のスイマーよりストローク数が多くなり、運動時間が長くなるので無呼吸はかなり厳しいです。体の中から必要な酸素がなくなれば、動きが止まります。呼吸数にも微妙なさじ加減が必要です。呼吸のタイミングも重要で、およそ35~36メートル付近で呼吸をしています。

     呼吸のデメリットは、顔を横に向けるので姿勢が若干変わり、水の抵抗が増えることです。しかし、酸素は体に入ってくるので、体は動くようになります。呼吸動作をうまくすれば、逆に減速せずプラスに変えていけます。呼吸一つとっても奥深いものです。

    やまだ・たくろう

     兵庫県三田市出身。先天性の障害で左肘から先がない。競泳男子自由形で短距離が専門。パラリンピックには、日本歴代最年少の13歳で臨んだ2004年アテネ大会から4大会連続出場。16年リオデジャネイロ大会は男子50メートル自由形(運動機能障害S9)で銅メダル。NTTドコモ所属。28歳。