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福島第1原発 処理水、迫る限界 タンク容量あと5年

福島第1原発の主な汚染水対策のイメージ

 事故を起こした東京電力福島第1原発で課題となっている汚染水浄化後の処理水の処分方法について、国の有識者小委員会が長期保管を新たに検討する見通しとなった。敷地内タンクの処理水は100万トンを超えたが、溶け落ちた燃料(燃料デブリ)が取り出されない限り、年間約5万~8万トンの汚染水発生が続く。タンクの容量が限界に近づく中、処理水処分を巡る議論の行方は見通せないままだ。【鈴木理之、岩間理紀、乾達】

 「(処分方法の)判断をしなければならない時期は、非常に近くまで来ているように思う」。東電の廃炉計画を監視する原子力規制委員会の更田(ふけた)豊志委員長は3月下旬の記者会見で、タンク内の処理水が約100万トンに達したことを問われて答えた。

 福島第1原発の処理水をためるタンクは、2020年までに作る137万トン分までしか確保の計画がない。敷地内には高さ10メートルを超えるタンクが林立し、現状では4、5年程度でタンク容量が限界に達する。

 更田委員長は燃料デブリ取り出しのための作業場所がなくなり、廃炉工程に支障が出ることを懸念し、一貫して「科学的、技術的には希釈して海洋放出するしかない」と主張。だが関係者からは「結論ありきで進められるほど簡単な問題ではない。誰も答えなんて見えていない」(経済産業省幹部)との声も漏れる。

 処理水がやっかいなのは東日本大震災の影響で福島第1原発の原子炉建屋に無数の亀裂が入っており、そこから流入する地下水が燃料デブリに触れて絶えず汚染水が発生するからだ。

 政府と東電は発生元の地下水を減らす対策を実施している。原子炉建屋周辺の地中を凍らせて「凍土遮水壁」を作り、建屋に入る前に地下水をくみ上げる井戸「サブドレン」も増強した結果、事故直後に1日約400トン流入した地下水は、200トン前後まで減少した。しかしゼロにするのは不可能で、残る燃料デブリを冷やすため冷却水が必要なこともあり、汚染水の発生は止められない。

 一方で、汚染水浄化の取り組みも進めている。まず「キュリオン」「サリー」と呼ぶ装置で放射性セシウムなどを除去、さらに62種類の放射性物質を取り除ける多核種除去設備「ALPS(アルプス)」で浄化する。しかし水素と化学的性質がほとんど同じで、水の中にあれば技術的に除去困難なのが放射性トリチウムだ。浄化後の処理水にはどうしても含まれる。

 トリチウムが出す放射線のベータ線はエネルギーが弱く、半減期は約12年。飲んだとしてもほとんど排出され、人体への影響は放射性セシウムの約1000分の1とされる。国は、基準値以下に希釈して処分すれば人や環境への影響はほとんどないとしている。

 国内外の原子力施設では通常でも冷却水などにトリチウムを含む水が発生しており、海洋などに放出している。更田委員長が「科学的、技術的には……」と発言するゆえんだ。

汚染水処分の方法とメリット・デメリット

議論長期化は必至

 経済産業省の専門家部会は16年、処理水の処分について、更田委員長が言及する海洋放出に加え▽パイプラインで地下の地層に注入▽水蒸気として大気に放出▽セメントなどで固めて地下埋設▽トリチウムを電気分解で水素化して大気に放出--の五つの案を比較し、海洋放出が最も短時間で低コストだと試算を公表。これを基に経産省の別の有識者小委員会が処分方法の議論を続けており、「長期保管」を新たに検討することになった。

 これらのうち、地層注入は規制委で新たなルール作りが必要になり、議論だけで数年かかる可能性がある。電気分解は技術的な難しさを克服できていない。地下埋設も処分地の選定が困難視される。

 水蒸気化による大気放出には先例がある。1979年の米スリーマイル島原発事故で、トリチウムを含む処理水約9000トンの処分方法として採用された。近接する川への放出に周辺住民が反対したためで、3年かけて全てを蒸発させて大気に放出した。ただし、福島第1で処分が必要な処理水の量とは比べものにならない少なさだった。

 新たに検討する長期保管では、増え続ける処理水に対応して設置する場所の確保などが課題になる。

 いずれの方法でも「決定から実行まで最低2年」(経産省幹部)はかかり、今後2年程度が処分方法を決める期限とみられている。政府関係者には「実質的に選択肢は海(海洋放出)か空(大気放出)に絞られるだろう」との見方もある。

 今の小委員会での議論は長期化している。昨年8月にあった国民の意見を募る公聴会の直前、処理水にはトリチウム以外にも、人の骨に蓄積する性質を持つ放射性ストロンチウム90などが基準値超えで残留していることが発覚。国民が「トリチウム以外は除去された」と受け止めかねない説明を東電と経産省が続けていたこともあり、非難が殺到した。東電は「処分方法が決まれば改めて浄化装置に通し、トリチウム以外の放射性物質を取り除いた上で処分する」と説明する。

 一方で公聴会後、経産省の小委は「トリチウムの生物影響」や「風評被害対策」など七つの論点を抽出。議論を継続するが、ある委員は「検討が終わった論点も多いのに、議論が先祖返りしてしまった」と漏らす。

WTO敗訴、重しに 漁業者の反発も強く

 事故後に全面休漁を強いられた福島沿岸の漁業者は12年6月から試験操業し、出荷前検査で安全確認しながら対象魚種や海域を広げてきた。現在はほとんどの魚種や漁法で漁が再開され昨年の水揚げ量は震災前の15%まで回復、本格操業再開を目指す途上にある。

 このため、地元の漁業関係者は処理水の海洋放出に反対してきた。検査の実績や消費者の信頼が崩れ、積み上げてきたものが「逆戻り」する懸念があるためだ。福島県漁業協同組合連合会の野崎哲会長は昨年8月の公聴会に出席し、「国民の理解が得られていない現状での海洋放出は壊滅的な打撃を与える」と訴えていた。

 さらに議論に影響を与えそうなのが、世界貿易機関(WTO)を舞台にした貿易制限を巡る韓国との争いで、日本が今年4月に「逆転敗訴」したことだ。

 事故後、韓国は福島など8県産の水産物を全面輸入禁止し、日本はWTOの紛争処理小委員会で「協定ルール違反」と主張。1審相当の小委は日本の主張を認めたが、上級委員会が「潜在的リスクの検討が不十分」と法的な妥当性を理由に破棄した。結果的に韓国の輸入禁止措置にお墨付きを与えた格好となった。

 ある政府関係者は「処理水の処分方法の検討は、結果ありきでなく慎重に慎重を重ねてきた。WTO判断が更なる『重し』になることは必至だ」と議論長期化を懸念。野崎会長も「(国の検討は)国際的な影響も踏まえた慎重な議論にならざるを得ないだろう」との見方を示す。

 こうした状況での国の検討方針に、野崎会長は「有識者小委が長期保管などあらゆる可能性を話し合うのは当然のこと。敷地内に限らず、保管場所や方法を幅広く検討し、経緯も示してほしい」といい、複数の方法を組み合わせた処分や移送など選択肢が広がる可能性にも期待。「廃炉を福島だけ、漁業者だけの問題にとどめず国民的議論にしてほしい」と望んでいる。

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