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カンヌ映画祭便り

2019第1日 C'est Cannes!(それがカンヌだ!)

記者会見で会場を沸かせた審査委員長のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督(中央)=フランス・カンヌで2019年5月14日、小林祥晃撮影

 カンヌの空は、今年も真っ青です。

今年の審査委員の中で最年少の女優のエル・ファニングさん(中央)=フランス・カンヌで2019年5月14日、小林祥晃撮影

 ボンジュール(こんにちは)。

 地中海に面した南仏のリゾート地・カンヌで14日、第72回カンヌ国際映画祭が開幕しました。カンヌは参加者の人数でも注目度の高さでも、世界最高峰の映画祭。普段、日本で映画に関する取材をしている私たちも、驚いたり、感心したりすることの連続です。25日の閉幕まで12日間、取材の裏側や現地で見たこと、感じたことをお伝えしていきます。

 カンヌ映画祭の開幕セレモニーは例年、初日の夜に行われます。しかし、各種メディアの取材は、その数時間前から始まります。セレモニーに先立ち、審査委員の記者会見があるのです。14日も午後2時半から、地中海に面したメイン会場「パレ・デ・フェスティバル」で、9人の審査委員全員が出席して記者会見がありました。

 9人の顔ぶれは毎年、入れ替わります。昨年、是枝裕和監督の「万引き家族」に最高賞のパルムドールを贈った審査委員長は、女優のケイト・ブランシェットさんでしたが、今年の審査委員長は、「バベル」「レヴェナント:蘇えりし者」などで知られる男性監督、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥさん。「バベル」(2006年製作)はブラッド・ピットさんが主演し、菊地凜子さんや役所広司さんも出演した映画です。

 イニャリトゥ監督はメキシコ出身。カンヌ映画祭事務局は「メキシコ出身の芸術家が、カンヌ映画祭の審査委員長となるのはこれが初めてだ」と紹介しました。この日の会見でも、メキシコの記者が質問する際、「審査委員長就任おめでとうございます」といった言葉も聞かれました。「カンヌ」に関わることは、やはり世界中で名誉なことのようです。

 残る8人のうち女性は4人。最年少は、イニャリトゥ監督の「バベル」に子役として出演し、最近は「メアリーの総て」に主演した米国の女優、エル・ファニングさんです。まだ21歳ですが、役者歴は2歳からといい、キャリアは十分なのかもしれません。彼女が「若い世代の視点を代表して、審査に参加することを光栄に思う」と受け答えしていた時は、カメラマンからひときわ大きなフラッシュを浴びていました。

 この会見で「世界をリードする映画人というのは、こういうものなのか」と感心したことがあります。「メキシコ人初の審査委員長」ということに話が及んだ時、カンヌの審査委員長が「プレジデント(大統領)」と呼ばれていることに引っかけ、イニャリトゥ監督が「自分がプレジデントであることは、反移民政策の否定に役立つだろう」と話して会見場を大きく笑わせたのです。

 メキシコからの移民を国境で押し返そうとしている米国のトランプ大統領への批判にほかなりません。イニャリトゥ監督はその話の流れで、世界中でナショナリズムを高揚するような政治家が増えていることについても「デンジャラス」という言葉を使って懸念を表明し、自身の映画作りの基底にある価値観を示しました。

 トランプ大統領ファンの読者には、少々不愉快な話かもしれませんが、私が感心したのは発言の内容ではなく、政治や社会に対する立場をこうした記者会見の場で堂々と示す監督と、それを当然のこととして受け止めるメディアの、それぞれの姿勢でした。

 日本のエンターテインメント界では、公の場で俳優や製作者が政治についての考えや立場を述べることは、まだまだまれです。政治的な話題を持ち出すことがタブーのような雰囲気さえあります。発言内容よりも、発言するという行為自体がたたかれることもあります。

 しかし欧米は違います。イニャリトゥ監督に限らず、その時々のテーマになっている世界情勢について、監督やスターが発言することは珍しくありません。これまでもトランプ大統領についての「セレブ」の発言を、欧米メディアが格好のネタにしてきたのはごぞんじの通りです。

 中には、一種の売名で政治的発言をする芸能人もいたのかもしれません。しかし、イニャリトゥ監督はメキシコ出身というだけでなく、「バベル」のようにグローバルな視点を持った作品の作り手でもあり、先の発言は「目立つため」といったような、底の浅いものではないと思います。

 自分自身が今の世界をどう見ているかを気負わず、おくせず語る。それが世界をリードする映画の作り手たちの姿なのです。そして、カンヌとはそんな映画人が魂を込めて作る作品がしのぎを削る場でもあります。

 「C’est Cannes!」(セ・カンヌ!=それがカンヌだ!)。1年ぶりのカンヌは、華やかさの中にも緊張感がありました。私もあと11日間、気合を入れ直していこうと思いました。【小林祥晃】

今日のコンペティション

報道陣や観光客でごった返すカンヌ国際映画祭の会場周辺=フランス・カンヌで2019年5月14日、小林祥晃撮影

 開幕セレモニーの後、ジム・ジャームッシュ監督の「THE DEAD DON’T DIE」がオープニング作品として上映されました。米国の田舎町を舞台に、ビル・マーレイとアダム・ドライバーが演じる警官が、次々と人間に襲いかかるゾンビと戦うホラーコメディー。さまざまな映画のパロディーと2人のとぼけた演技に、客席からは数分おきに笑いが起き、好評でした。

 「今日のコンペティション」では、その日記者が見たコンペティション部門の作品の感想や観客の反応をつづり、賞レースの行方を占います。

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