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EU欧州議会選挙まで1週間 職員たちの「#MeToo」

性差別やセクハラの根絶に向けた誓約書のポスターを掲げるジャンヌ・ポンテさん。間近に控えた欧州議会選挙で、すべての候補者に署名を求めている=ブリュッセルの欧州議会で2019年4月29日、八田浩輔撮影

 1週間後に控えた欧州連合(EU)の欧州議会選挙で、性差別やセクシュアルハラスメントの根絶に向けた取り組みを明記した誓約書への署名を候補者に求めるキャンペーンが広がっている。主体となっているのは、欧州議会でセクハラや性暴力の被害を経験した女性職員たち。欧州議会の「#MeToo」は今も続いている。

「政治の世界では普通だから慣れなさい」

 キャンペーンに取り組むジャンヌ・ポンテさん(28)は欧州議員の公設秘書を務めている。欧州議会の報告書(2018年)によると、ジャンヌさんのような議員秘書や政党の秘書を含む欧州議会で働く事務系職員約5000人のうち6割を女性が占める。「こうした数字を基に、欧州議会は世界の議会でも常に良きお手本であると言われてきました」

 しかし、とジャンヌさんは続ける。有期雇用の多い職場環境の中で、一般的に契約形態が良くなるほど、また地位が上がるほど男性が多くなる。60年を超える欧州議会の歴史の中で事務方トップの事務局長に女性が就いたことはないという。さらに議員となると、女性の割合は36・1%(19年3月現在)で男女比が逆転する。女性議長は、これまでに2人だけ。そのうちの一人は、1960~70年代にフランスの女性解放運動で大きな足跡を残したシモーヌ・ベイユである。

 ジャンヌさんは5年前、フランス選出の中道左派系議員の秘書に就いた。23歳だった。働き始めて1週間がたったころ、議会内である男性に断りなく体を触られながらキスを迫られたという。周囲に相談すると「政治の世界では普通。耐えて慣れなさい」と言われた。これを機に、ジャンヌさんは自分が受けた被害をノートに書き記すことにした。

 欧州議会の拠点は3カ国にまたがる。本会議や委員会は仏ストラスブールとベルギーのブリュッセルで行われ、運営を担う事務局はルクセンブルクにある。秘書は議員と共にEU域外を含めて移動することが多く、「業務と私生活の境界が非常にあいまいになる」。職員の契約形態も複雑で、最も弱い立場のインターンは数カ月おきに入れ替わる。声を上げたくても職を失うことへの不安が勝る。EU機関の中でも特殊なこうした環境が「性差別の土壌になってきた」とジャンヌさんは説明する。

「沈黙の文化を終わらせる」

 ジャンヌさんの元には次第に議会で働く同僚たちからの被害体験が集まるようになった。過去の性被害に声を上げたり、被害者に寄り添う立場を表明したりする「#MeToo」の動きが米国から世界に広がった17年秋には、レイプの訴えも含めて82件の証言がノートに残されていた。

 同年10月。ジャンヌさんは過去の被害事例についてメディアを通して告発。欧州議会で#MeTooに火が付くと、契約形態も国籍も異なる15人の職員がキャンペーンの運営に加わった。「議会で働き始めたころ、『あの人とエレベーターが一緒になる時は気をつけた方がいい』というような注意をよく耳にしました。多くの公然の秘密があったのです。しかし沈黙し続けることは、加担することと同じです。沈黙の文化を終わらせたかった」とジャンヌさんは振り返る。上司にあたる議員は全面的に支えてくれたという。

 告発の衝撃は大きく、議会は同じ月の本会議であらゆる性暴力やハラスメントに反対し、#MeTooへの支持を表明する決議を賛成多数で採択した。

 「それでも状況は変わらなかった」とジャンヌさんは首を横に振る。決議には議員や職員にセクハラ防止や被害者支援のための講習義務化を目指す方針などが盛り込まれていたが、進展が滞っているのだ。これまでに講習を受けた議員は全751人のうち44人。ジャンヌさんによると、保守系議員を中心に「選択の自由」を盾に抵抗を示す意見があるのだという。「(EUで使用される)あらゆる言語で受講できる上、たったの2時間です。自分の部下を守ることにもつながるはずなのに。理解できません」

ベルギーの首都ブリュッセルにある欧州議会=2019年4月29日、八田浩輔撮影

真のジェンダー平等の実現に向けて

 こうした状況の改善に向けて、昨年10月にブログを開設した。これまでにジャンヌさんがノートに書きためた事例のうち、匿名の40件が報告されている。

 私的なパーティーに招待し、体にフィットした服を着てくるよう示唆した高官。いすに座って作業している職員に体の一部を押しつけた上司。同僚にレイプされたと訴える女性は「いつか政治家になりたいという希望を持っていたが、もうその気力はない」と記した。

 5年に1度の選挙を控え、ジャンヌさんたちは、候補者に誓約書への署名を求めるキャンペーンを始めた。誓約書は、性差別やセクハラの防止に積極的に取り組むことや、「沈黙の文化」を終わらせて被害者の側に立つことなど10項目の柱を掲げている。ジャンヌさんたちが重視する議員と職員向けの講習に参加し、義務化を推し進めるとの内容も盛り込んだ。これまでに300人の候補者が署名したという。

 欧州議会の第2会派で、中道左派の欧州社会・進歩連盟(S&D)の報道担当者は取材に対し、「会派として誓約書に賛成している」と述べ、職員を含む300人以上が講習を受けてきたと説明した。第3会派でEU懐疑派政党も所属する欧州保守改革連盟(ECR)の報道担当者は「誓約書の内容は重要だ」と述べたが、会派として公式見解はなく、署名するかどうかも候補者の判断に委ねるという。最大会派で中道右派の欧州人民民主党(EPP)にはメールで問い合わせたが、回答を得られなかった。

 今回の選挙では、これまで上昇を続けてきた女性議員の比率に注目が集まる。選挙結果をふまえて協議されるEUの主要ポストで、ジェンダー平等をどこまで実現できるかも焦点だ。議会によると、この選挙で候補者や議席の一定割合を男女に割り当てる法定のクオータ制を導入している加盟国は11カ国。フランスなどは候補者を男女半々にすることを政党に義務づける。

 ジャンヌさんはこの夏、欧州議会を離れる。秘書として支えた議員が今回の選挙に出馬しないためだ。欧州議会の#MeToo運動については、今後も外から支援していくつもりだという。「5年も働けば十分です。私にも変化が必要」と笑った。【八田浩輔、取材協力=アンソフィー・デマック】

八田浩輔

ブリュッセル支局 2004年入社。京都支局、科学環境部、外信部などを経て16年春から現職。欧州連合(EU)を中心に欧州の政治や安全保障を担当している。エネルギー問題、生命科学と社会の関係も取材テーマで、これまでに科学ジャーナリスト賞、日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞(ともに13年)。共著に「偽りの薬」(毎日新聞社)。Twitter:@kskhatta

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