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東京へ ともに歩む

毎日新聞

2016年リオデジャネイロ五輪の体操男子団体総合で金メダルを獲得した日本の(左から)山室光史、内村航平、田中佑典、白井健三、加藤凌平=リオデジャネイロのリオ五輪アリーナで2016年8月8日、小川昌宏撮影

Field of View

勝利を超えた 競技に取り組む意味

 選手たちは勝つために日々練習し、試合で戦う。だが、競技に取り組む目的は、勝つこと以外にもある。体操男子のベテラン選手たちが4月の全日本選手権で語った言葉には、勝利を超えた意味や喜びが込められていた。

    体操の全日本選手権で鉄棒の演技をする田中佑典=群馬・高崎アリーナで2019年4月28日、佐々木順一撮影

     団体総合で2012年ロンドン五輪銀メダル、16年リオデジャネイロ五輪金メダルの一員だった田中佑典(29)=コナミスポーツ=は「思い通りにやれなくなるほど、体操が楽しく、やりたくなるのではないか」と話した。

     昨年に右肩を痛め、冬場の練習も存分にはできなかった。そこで倒立や車輪など、基本の動きから丁寧に取り組んだ。その中で「思い通りに体を操れた時は楽しい」という感覚を得たという。全日本選手権の個人総合では内村航平(30)=リンガーハット=の一つ上の39位で予選敗退したが、種目別の平行棒と鉄棒で決勝に残り存在感を見せた。

     やはりロンドン、リオ両五輪メンバーだった山室光史(30)=コナミスポーツ=は、個人総合で全日本選手権の出場権を得られず、跳馬と平行棒の種目別トライアウトにだけ登場した。それでも「成績が良くなくてもやり続けることに意味があるし、何か伝えていける部分があると思う」と前向きだった。

     今季は個人総合を戦う機会が少ない分、練習する種目や内容を絞れるため、これまで挑む余裕がなかった高難度の技や、今までとは違う筋肉の使い方も模索している。過去に何度もけがから復活した経験を持つだけに「あとはどれだけ必死に泥臭いことができるか。何が何でもやっていく」と潔く覚悟を決めている。

    体操の全日本選手権で平行棒の演技をする山室光史(左)、あん馬の演技をする亀山耕平=群馬・高崎アリーナで2019年4月27日、宮間俊樹撮影

     13年世界選手権の種目別あん馬を制した亀山耕平(30)=徳洲会=は「体操が楽しく、というより面白くなってきた」そうだ。その面白さとは「普段味わえない緊張感や追い詰められた時の集中力、自分の本来のすごいところを引き出して戦うところ。現役でないと味わえない、すごく貴いもの」と言う。

     亀山は来年までの種目別ワールドカップの成績による東京五輪出場権獲得を目指す。他国や他種目の選手と争う種目別での選考基準は極めて複雑で難解だが、「ゲーム感覚があれば面白いかも」と独特の解釈で、自分が最高の演技をすることに集中する。

     数々の経験と長い年月を重ねたからこそ生まれる言葉の数々には、競技への深い愛着と、多少の苦境に屈しないエネルギーや強さを感じさせる。肩痛で苦しんだ内村も含め、ベテラン勢にも東京五輪の代表争いでは真の力を発揮してほしい。それだけでなく、演技を通じて体操本来の良さ、奥深さをどのように表現してくれるのかも興味深い。これから続く大会を見る楽しみが、また増えた。【石井朗生】

    石井朗生

    毎日新聞社客員編集委員。1967年生まれ、東京都出身。92年に毎日新聞社入社。2020年3月に退職するまで28年間の大半を運動部(東京、名古屋、大阪)で過ごし、陸上、アマ野球をはじめ多くの競技を担当。五輪も夏冬計6大会を取材した。大学時代に陸上の十種競技に挑み、今も大会の審判や普及イベントの企画・運営、中高生の指導に携わっている。