連載

余録

毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

連載一覧

余録

江戸幕府は実にこまごまと暮らしの統制をしたもので…

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷

 江戸幕府は実にこまごまと暮らしの統制をしたもので、天保の改革では大坂で男子の日傘使用、婦女の羽織着用を禁じている。男子の日傘の禁令は江戸ではすでに天保の前の文政年間からくり返し出されていた▲ということは、その以前には男が日傘をさしていたのである。実は幕府はずっと前の寛延年間に大人の日傘使用を禁じたが、当初からあまり守られなかった(近世風俗志)。ともあれ幕府が日傘男子を目のかたきにしたのはたしかだ▲うってかわって男も日傘を使うようにと推奨する当今の政府である。環境省は急増する夏の熱中症対策として、百貨店などと協力して日傘利用のキャンペーンを行う。最近時折見かけるようになった日傘男子にとっては追い風である▲江戸時代じゃあるまいし、傘をさすささないまで政府にいわれたくないという方もおられよう。だが気になるのは「災害級」だった昨夏の猛暑、止まらない温暖化の先行きである。猛暑対策も今までの発想では通用しない時代だろう▲環境省がいうことには、熱中症の危険性を示す「暑さ指数」は日傘をさすことで最大3度下がる。また帽子よりも広く日射を遮ることで、汗の量も2割減るという。持ち運べるこの日陰が今や命を守るシェルターとなる場合もあろう▲5月だというのに今週末は全国的に30度前後の気温となり、35度の猛暑日に迫る地方もあるという予報である。幕府の禁令によって「作られた伝統」にこだわってもいられない熱中症列島のサバイバルだ。

あわせて読みたい

この記事の特集・連載
すべて見る

注目の特集