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相次ぐ性暴力無罪判決 抵抗できない実態議論を

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 性暴力に関する司法判断を巡って議論が広がっている。

 19歳だった実の娘への準強制性交等罪に問われた男への名古屋地裁岡崎支部判決など、3月に4件の無罪判決が相次いだことがきっかけだ。

 岡崎支部の事件では、父親が時に暴力を振るい、長年意に反する性交を娘に強いた。だが、日常生活の様子から抵抗が困難だったとまでは言えないと裁判所は判断した。

 また、静岡地裁浜松支部の事件では、「頭が真っ白になって」被害者が抵抗しなかったことを理由に、加害者の故意が認定されなかった。

 裁判所は、法と証拠に基づき結論を出したのだろう。だが、岡崎支部の事件など一連の判断に、多くの人が違和感を抱いたのではないか。

 強制性交等罪などの成立には、被害者の抵抗を著しく困難にする程度の「暴行や脅迫」があること、あるいは抵抗ができない「抗拒不能」の状態にさせることが要件となる。

 その結果、被害者がどれほど強く抵抗したかが立証の際重視される。

 だが、心理学の知見では暴力に直面した被害者は恐怖のあまり抵抗できなかったり、たとえ暴力がなくてもショックで抵抗がままならなかったりすることが十分あり得る。

 なぜ抵抗しなかったのか重ねて事情聴取され、自身を責めて被害届の提出をあきらめる被害者が多いと、性犯罪に詳しい弁護士は証言する。

 被害の現実と法の構成要件を巡る解釈のギャップが浮き彫りになる。

 性犯罪は「魂の殺人」と言われる。法の適用に当たっては、心に傷を負う被害者への理解が欠かせない。被害者団体は一連の判決後、被害者がどういう状態になるのか、医学や心理学を踏まえた研修を裁判官に徹底するよう最高裁に求めた。当然のことだろう。

 さらに、刑法を改正して、「暴行・脅迫要件」を撤廃すべきだとの意見が出ている。被害者の抵抗ではなく、性行為の同意の有無に焦点を当て「不同意の性行為」を犯罪とすべきだとの考え方だ。

 供述以外の証拠が乏しい場合、同意・不同意をどう立証していくのか課題は残る。だが、避けられない議論ではないか。裁判上の被告の権利との調整を図りつつ、法のあり方についても踏み込んで検討すべきだ。

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