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米大統領への特別待遇 長期の国益にかなうのか

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 国賓として来日しているトランプ米大統領はきのう安倍晋三首相と会談した。天皇陛下とも会見し、宮中での晩さん会に出席した。

 首脳会談では、焦点の日米貿易交渉の議論を急ぐことで一致し、北朝鮮問題について認識の綿密なすり合わせをしたという。

 政策課題で大きな進展がない中、際立ったのは、トランプ氏への異例のもてなしだ。「令和初の国賓」としての接遇にとどまらない。

 5度目のゴルフでは笑顔のツーショットを自撮りした。ソファを升席に並べた大相撲観戦では米大統領杯を新設し優勝力士を表彰する機会を設けた。夕食では炉端焼き店に招き、伝統的な和食をごちそうした。

選挙をめぐる取引では

 日米同盟は日本外交の基軸だ。日本の問題を解決するために米国の力を必要とする場合は確かにある。ときには破格の処遇で歓心を買うことも必要だろう。

 ただし、それが正当化されるのは国益を守る手段になる場合だ。国益とは安定的な国際秩序を維持し、自由で公正な貿易を堅持することである。それにかなっているだろうか。

 目を疑うようなニュースがあった。ゴルフ直後にトランプ氏が発したツイッターの投稿である。

 日米貿易交渉について「7月の(参院)選挙後まで待つことになるだろう」と明かした。

 米国は日本の米国産農産物に対する関税の早期撤廃を求めている。しかし、参院選前に合意を急げば安倍政権に不利になるおそれもある。

 投稿は、選挙前に譲歩を迫られる交渉は避けたいという安倍政権の意向を反映したものだろう。

 だが、それではあまりに目先の損得にとらわれていないか。安倍政権の「政権益」になっても、国益にそうかはわからない。有権者を欺く行為と言われても仕方ないだろう。

 そうした「取引」があるなら、トランプ氏はいずれ見返りを求めてくるだろう。大統領選を控えて要求を高めてきても不思議ではない。

 トランプ氏は8月の合意に期待を示したが、日本が安易に妥協する筋合いはなかろう。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を離脱し、米国を不利な立場に追い込んだのはトランプ政権だ。

 日米間では過去にも厳しい貿易交渉があった。1990年代には自動車部品で「数値目標」を迫る米国の要望を日本は拒否した。当時の宮沢喜一首相が来日したクリントン米大統領を夕食に誘って説得した。

 今回も米国は自動車の数量制限をちらつかせる。首相はトランプ氏に自由貿易の価値をひざ詰めで説くべきではないか。良好な関係を世界にアピールしても、対米追従とみられれば外交上の得点にはならない。

 会談では、北朝鮮問題も協議した。懸念されるのは、北朝鮮が今月上旬に短距離弾道ミサイルを発射したことについてトランプ氏が問題視しない姿勢を示していることだ。

「米国頼み」から脱却を

 決裂した2月のハノイでの首脳会談後、米朝関係は足踏みしている。失敗との批判を招かぬよう対話路線を維持したいのだろう。

 しかし、あらゆる弾道ミサイルの発射を禁止した国連安全保障理事会決議に違反するのは明白だ。なにより、短距離弾道ミサイルは日本にとって大きな脅威である。

 首相は対北朝鮮政策について「日米の立場は完全に一致している」と強調した。日本への直接の脅威をめぐる米国との危機認識の共有はできているのだろうか。

 首相が培ったトランプ氏との信頼関係を他の政策課題に生かすこともできる。たとえば沖縄基地問題だ。

 米軍普天間飛行場の辺野古移設への地元の反対は強い。移設先では埋め立て海域に軟弱地盤も見つかっている。沖縄の意向を反映するよう腹を割って話し合うこともできよう。

 「米国第一」を掲げるトランプ政権下で米国の相対的な影響力は一段と低下している。日米基軸を維持しつつ、「米国頼み」一辺倒からどう外交の幅を広げていくかも重要だ。

 5月1日に即位された天皇、皇后両陛下にとってトランプ氏が最初に迎える国賓となった。そもそも国の大小にかかわらず親善を深めるところに皇室が担う外交の価値がある。

 日本にとって最も重要だからといって米大統領を選んだ妥当性は今後も問われ続ける。

 日本の国益を見据え、長期的な視座で日米関係を築く必要があろう。

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