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チーム医療で一層高まる看護師の役割 だからこそ重要な「フィジカルアセスメント」 医学部看護学科 教授
城生 弘美

2019年6月3日掲出

 医療の高度化が進む中、チーム医療が重視されるようになってきた。そうした中で、医師とコ・メディカルスタッフをつなぐキーパーソンとなるのが看護師だ。都市部への医師の偏在が問題となっているが、医師不足に悩まされている地方では、医師に代わって看護師が患者を診断することが求められようとしている。看護師に求められる役割がますます高まるなか、必要不可欠になっているのが「フィジカルアセスメント」※だ。その意義と重要性について、フィジカルアセスメント教育に詳しい城生弘美教授に聞いた。【聞き手・中根正義】

 

──高齢化社会が進み、親の介護や入院をサポートする人が増えていますが、看護師の方が異変を見つけ、当直医に伝えてくれたおかげで命に関わるような危機を回避できたということもよく耳にします。その意味でも、看護師が患者の様子を見て適切な判断を下していくというフィジカルアセスメントの能力が非常に重要だと感じます。

 フィジカルアセスメントは、問診や視診、触診、打診、聴診などの身体診査、患者さんへの聞き取りを通して患者情報を集めて分析し、それぞれの患者に最適なケアを考察することを言います。この言葉が聞かれるようになる前は、看護教育では「看護は観察に始まり、観察に終わる」ということを教えていました。ところが、観察の中身とは何かと問うと、患者さんの表情が変わったり、意味不明なことを言い出したりといった様子から、看護師自身が感じ取るものだという漠然とした答えしか得られませんでした。アメリカではフィジカルアセスメント、臨床生理学、臨床薬理学が看護教育の3本柱になっています。患者さんを観察するというフィジカルアセスメントについての教育を受けることによって、人の身体の頭から足の先までを見て、何かおかしい、先ほどと表情が違う、顔色が違うといった異変を読み取ります。そして、身体診査方法を行いて、脈拍測定や血圧測定などの結果と併せて、どう違っているのかを知ることで、観察のそのものが系統立ったものになると同時に、医師の行う診察行為の意味がわかるようになります。そうした点で、フィジカルアセスメントを導入した意義は非常に高かったと思います。

 

──このような概念は、いつ頃から広まったのですか。

 アメリカでは1970年代に小児科の看護師が、小児科医から教わったのが発端だそうです。小児科の患者さんは具合が悪くなる時の展開が早いので、医師が診たときにすでに手遅れというケースも少なくありません。そのため、看護師が異変に気づいて、何がおかしくて、容態はどうなのかということをある程度判断できるナースを育てたいということになりました。そこで、小児科の看護師が集まって研修を行ったことがきっかけとなって、フィジカルアセスメントが看護教育で重視されるようになってきました。 一方、日本では1990年代後半にアメリカに留学していた日本の看護師たちが、現地の看護師がフィジカルアセスメント、臨床生理学、臨床薬理学のそれぞれを深く学んだことが導入の契機となりました。アメリカでは、看護師が薬剤の処方ができ、ある程度の診断もできるというように、力をつけているということを目の当たりにして、フィジカルアセスメント専門の先生を日本にも紹介しようということになったのです。

 

──患者、すなわち人を診るということを、もっと系統立ててチェックしていこうというわけですね。

 医師と使う用語も同じにして、医師が使っている言葉をきちんと理解でき、看護師が観察を通して得た情報を、薬剤師や検査技師など他のコ・メディカルスタッフにもわかる言葉で表現していくことができ、すべての医療スタッフが共通用語として理解するという点において、フィジカルアセスメントが導入されたことの意義は大きいし、看護師の意識も高まったと思います。

 

チーム医療だからこそ必要な能力

──チーム医療を進めるうえで、医師とコ・メディカルスタッフとをつなぐ看護師はキーパーソンであることは間違いありません。その意味でも、看護師がフィジカルアセスメントをしっかり理解できていることが極めて重要だということがわかります。

 私が新人看護師時代によく言われたのは、きちんとしたデータを持ってきて話をしてほしいということでした。その際、どういう言葉を用いてデータについて話せば、医師やコ・メディカルスタッフとスムーズに会話できるのか、どんな言葉なら伝わるのかを常に思っていました。ある程度、看護師のレベルを引き上げていけば共通理解ができます。また、情報通信手段が高度化する中で、将来は、例えば地方の無医村などで、都市部にいる医師の指示を受けながら死亡診断に関わるといったことも可能性として考えられています。現在は、看護師に求められるものは高度化しており、その能力を引き上げていくことが重要ではないでしょうか。

 

──昔は、医師と看護師の間に上下関係に近いようなものがあったと思います。しかし、現在は医師以上に勉強している看護師も少なくないと実感することがあります。

 専門看護師や認定看護師等の資格を有する看護師が増え、より一層勉強をしている看護師は増えている感覚を持っています。看護師の意識が高まり、チーム医療現場のなかで、情報を的確に把握し、いち早く患者さんの異常を発見することへの使命感も強まっていると感じます。

 

看護師のやりがいや目的意識を高めるために

──現在の看護教育の課題は何でしょうか。

 看護系の大学が急増したことで、教育の質担保が現在看護基礎教育界の大きな問題となっています。もちろん、大学設置基準をクリアするために、それなりの先生方を揃え、設備も整えて認可されているわけですが、教育の「質」や「内容」という観点から見ると、不十分な点も少なくないと指摘されています。看護師になる動機がほとんどない、そもそも人との関りが苦手といった学生が入学しているのも現実で、そうした学生が実習の現場で患者さんとのコミュニケーションが成立しない、友人との人間関係がうまくいかないという例も増えてきて問題になっています。

 

──大学と学生のミスマッチというのは、看護系に限らず問題になっていますが、看護系の場合、国家資格が取得できるということで、適性を考えないまま入学し、ドロップアウトしてしまうということも起きているようですね。

 かつて、1年未満で退職する看護師が続出して社会問題になりました。その後、厚労省の指導もあって新人看護師研修制度などを充実させ、医療現場では1年未満で退職するということは随分と減りました。しかし、現在は職場に慣れてきた2年目、3年目に疲弊して目標を見失ったり、行き詰まりを感じたりする人が増えていることが問題となっています。対象の方々への直接的な看護援助を担ってくれる年代の人たちなので、何とかやりがいや目的意識を高めることが急がれます。

 

──東海大学では、そうしたことに対する対応は取っているのですか。

 東海大学付属病院では、パートナーシップという形で、先輩看護師と後輩が2人1組となって患者さんのケアにあたっています。それぞれが気づいたことを互いに情報共有しながら助け合うということです。ただ、パートナーシップ制度をとっている病院のなかには、先輩看護師の負担がかえって重くなるというケースも見られるようです。人を育てるということはなかなか一朝一夕にはいかないということを思います。

 

 ──総合大学では今、看護師の養成部門は独立させて看護学部にしているところも増えています。東海大は医学部の中に看護学科がありますが、医学部にあることの意味付けと、どのような人材育成を目指しているのか、教えてください。

 医学部長の坂部貢教授はチーム医療や多職種連携と言われている今だからこそ、医学部に置く意味があると話しています。私も、医学部に看護学科があることでチーム医療や多職種連携ということを学生時代から意識して学べることに大きな意味があると考えます。医学部医学科の先生方は医学を究めているので知識の幅が広く、深さもあるので、物理的にもマンパワー的にも資源が豊富だと言えます。それをどう活用するかは、看護学科が考えるべきことで、医学科のリソースを有効に使わない手はないのではないでしょうか。そこに医学部に看護学科がある意義もメリットもあると考えています。

医学部看護学科 教授 城生 弘美 (じょうのう ひろみ)

北里大学大学院看護学専攻修士課程修了。 専門は基礎看護学 現在学外活動:日本看護技術学会評議員、日本看護研究学会専任査読委員、神奈川県看護師等養成機関連絡協議会理事。 主な著書として「ナーシンググラフィカ 基礎看護学 ヘルスアセスメント」メディカ出版、「ナーシンググラフィカ 基礎看護学 基礎看護技術」メディカ出版、「実践看護技術学習支援テキスト 基礎看護学」日本看護協会出版会、「訪問看護マニュアル」日本看護協会出版会、「アセスメントの質を上げる-ヘルス・フィジカルアセスメントポケットブック-」日総研、「系統的観察力アップに活かすフィジカルアセスメントの実際」日総研、「ナースのためのフィジカルアセスメント-看護過程・看護診断に活用する-」ヌーヴェルヒロカワ