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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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災害における「正常性バイアス」という心理の恐ろしさを…

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 災害における「正常性バイアス」という心理の恐ろしさを見せつけたのが16年前の韓国・大邱(テグ)の地下鉄火災だった。死者多数が出たこの火災では煙が立ちこめる中で逃げようとせぬ乗客たちの姿が撮影されていた▲正常性バイアスとは異常事態にあっても異常を認めずに平静を保とうとする心理をいう。加えて他のみんなが避難しないから大丈夫だという同調心理もあったろう。その相乗効果が目の前の明らかな危険からの避難を妨げてしまった▲日本では東日本大震災の津波被害により正常性バイアスという言葉が一般に広く知られるようになった。以来、防災情報には人々が心の非常スイッチを入れるように工夫がこらされたが、なお道遠しを思わせた昨年の豪雨被害である▲西日本豪雨で避難指示などが出た地域で実際避難した住民は約0・5%。被災市町村への小紙の調査でも住民の「自分は大丈夫」意識の根強さがうかがえる。そんな中、大雨の災害の切迫度を5段階で伝える新制度の運用が始まった▲気象庁の警報や自治体の避難指示などの切迫度を五つの警戒レベルでわかりやすく示そうという新方式である。うちレベル3は高齢者の避難、同4は全員の避難、同5はすでに災害が発生した状態で命を守る最善の行動が求められる▲警戒レベルは気象庁や自治体の情報に加えて発信され、住民に早期避難を促す。記録的な豪雨が日常のものとなった今日、非常事態のスイッチには手をかけておくのが「正常」な姿だと思った方がいい。

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