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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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「酒を飲めない体質の人にも強制的に飲ませて…

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 「酒を飲めない体質の人にも強制的に飲ませて、苦しむ姿を楽しんだり、酒に強いことが人間の優秀性、豪傑性を示すとするような錯覚が、若い人たちに広がっています」。1991年11月、若者のイッキ飲みを嘆く読者の声が朝日新聞に載った▲投稿したのは「東京都 塩川正十郎」。当時国家公安委員長だった衆院議員の塩川氏(故人)である。「知人の息子が苦労して入学した有名大学のコンパで、しょうちゅうの一気飲みをして死亡」したことから筆を執ったという▲学生のコンパや新入社員の歓迎会でイッキ飲みがはやったのは80年代からだ。「イッキ飲み防止連絡協議会」の調べでは83年以降161人が急性アルコール中毒で死亡している▲刑事事件になることも珍しくない。脅して無理やり飲ませた場合は「強要罪」、最初からつぶすことが目的だと「傷害罪」に問われる。先月も近畿大のテニスサークルの学生ら12人が保護責任者遺棄致死容疑で書類送検された▲イッキ飲みで泥酔した学生の体温が低下し危険な状態だったのに救急車を呼ばなかったためだ。飲み会には参加しておらず、後から介抱役として駆けつけた8人も送検された中に含まれる。「サークルがつぶれるかもしれない」「先輩たちの就職活動に関わるのでは」と考えたからという▲楽しいはずの酒宴でのイッキ飲みが人生を暗転させる。「強制されて苦しんで飲む酒は、“殺人剤”にもなる」。「塩爺(しおじい)」と呼ばれた政治家が残した言葉を若者たちに伝えたい。

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